龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

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4.共に生きるために

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 『聖国の宣戦布告!?聖女の暗殺未遂』
 新聞の情報は早い。ノルマンが情報規制をする合間をぬっていち早く一社が報道を号外として出せば、もう止めたところで意味をなさない。

 一社は宣戦布告は公国のみだと書き、違う一社は宣戦布告はその場に参列していた王国、帝国そして公国の三ヶ国だと書くところも現れ、混沌を極めた。



 裁判が中止となり、ウィリエールは変わらず収容所での待機を言い渡された。
王宮で治療するラウリーと鉢合わせすることで更なる悲劇が生まれることを懸念しての判断だったが、ノルマンは権力の有無にか変わらず公平な判断が出来ると一部の国民から更に支持される結果となった。


 幸いなことにラウリーにラッキーカードの症状や毒が体内に生成されたことは確認できなかった。
ミルワールによって傷つけられた傷からラッキーカードの標的にされていた、というアウス達の嫌な想像と推理が当たっていたことを証明できてしまったことに落ち込むことしか出来ない。


 マリアが以前見つけたラウリーの肩に見た蛇の痣。
これをマリアは最初、アウスの保護の印と勘違いした。ただそれを情報共有していたお陰で、保護ではなく呪いの一種と解ることが出来た。
 発動条件が解らない以上、触れることは出来なかったが、裁判の一件でカガシがカガシのタイミングで発動できる魔法、またはそれに類似た未知の方法であることまでは把握が出来た。


 ずっとわからないが多かった以上、この進歩は大きなもので、お陰で合点が行く点も増えてくる。
公国ではデフィーネが狙われた件。

 
 いったいどこで、どう呪われたのか。
相手から意図的に、または偶然でも構わないのかは疑問点ではあるものの一度でも呪いたい相手に傷を付ければ良い。

 要は細菌に近いのだろう。

 血液中でカガシのタイミングで害が無かった細菌が毒になる。ランダム性が極めて高いテストルと間違われるのも無理はないのかもしれない。

それに加えてカガシの毒がいくつかの蛇族の混血である以上、どの種類のどんな毒かが詳細にわからない現状では、テストルだと医者達が断言したのも責められない。


 更なる課題を生み出し、本来の出来る筈だった流れを最終地点までしきれないまま。



 裁判の中止を受け、退出した一般の傍聴者達を含め王族、聖女、聖女の家族そして裁判長が残る部屋では、裁判長が「王国であのような自由を本当に許す気ですか」とノルマン達に詰め寄っていた。
 法の場で身勝手を繰り返し更には国の尊き聖女にまで手を掛けようとしたのだ。怒りがあって当然の事態。

 もちろん、ノルマン含め全員に怒りがない筈がない。

 ただしそれを表に出し、騒ぎにする等もっての他。
全てを我慢しろ、自制しろと言い聞かせるつもりも無いのだが。これが『人単体で終わる事態』ではなく『一国家が巻き込まれる事態』であることが、身勝手に怒りを撒き散らし暴れられない足かせになっていた。


「………ねぇ、マリア。マリアは何か知っていたのよね?
娘がその…奴隷だったと言われた時、貴女と国王陛下や帝国や公国の王達だけが、私たちと違う反応をしていたから」


 シャルロットは、躊躇いがちにマリアに問うた。
聖国の王が放った言葉に、アウスはラウリーの耳を塞ぎに急いだ。これからラウリーが聞いては傷つく可能性をまるで知っていたかのように。

 マリアにノルマンは口をつぐむ他無かった。
言えば巻き込むことになる。王族としてではない。
物語の主要にあたる彼らだからこそ、主要に当てはまらないオズモンド達を巻き込むことは、命の危険に晒すことに繋がるかも知れない。


 守りたいからこそ言えなかった。


「……知っているか、知らないかで言えば我々は知っている。と言えましょう。ただ、詳細は訊かないで頂きたいのです。それだけは答えられない」


 現実を伝えることを選んだのは、アウスだった。

 訊かれた問いにイエスかノーで答え、それ以上の言及を避けると壁を作る形で。
 もちろんオズモンドにシャルロットが納得いく筈はない。「それはどういうことか」と問い詰める。
 アウスは「ラウリー嬢を守るためでもあるんです」と言葉を続け二人の言葉を止めた。


「公国の主様は、娘を『運命の番』だと仰っていましたよね?それは聖国の長が言っていた『奴隷である』その時間を知っているかでしょうか。
私にはあの言葉が、過去今流れている世界とは別のものを指していたように感じるんです。

 神の戯れ言と感じていた『この世界を本』だと言った彼がもし万が一正しかったとして、本来の流れでは娘が迎える未来が、奴隷やそれに近しいものだったとしたなら、ノルマン。君や皆さんの反応が合点いく、そんな気がしてなら無いのです」


 オズモンドはラウリーの手に自身の手を重ねながら、感情を押さえつけるように出来る限り落ち着いた様子で、言葉を落とした。


「……ラウリーは、声を本当は出せるんです」
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