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初めまして
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しおりを挟む世里が目を覚ました時、視界に入った世界は全く知らない異空間だった。
綺麗な薄いライトグリーンの壁や、床がフローリングではなく柔らかいカーペット素材で出来ている、いつかの質問に冗談交じりで言った理想の部屋そのもの。
ベッドはキングサイズ。大きすぎるベッドがあってなお、回りに家具が置かれ広々と感じる部屋は何畳なのか想像もつかない。
しかも、この部屋だけではない。扉の向こうに更に部屋があるのが見てもいないのにわかる。
そっとベッドの上から大きな窓を覗く。
この家自体は四角なのか、家の中心に庭がある。ドーナツ型の家というものなのだろう。
さらに下に生えている木をある程度上から見ているということは二階か三階建て。
細かいことは難しいが、なぜこんなお洒落な家の一室で寝ていたのか皆目検討もつかない。
最後にある記憶の中で、家族から見捨てられ出ていくようにと荷物をまとめていた。
その時にインターホンが鳴って……家族だと思って出たところまでは覚えているのに…。
………あの香水の匂いがしてた。
「……………ナリさん、い…いますか。お、お話をしませんか」
震える声で空間に話し掛ける。
自分がそうであったように、ナリも同種いや、以上だとすればしていることは粗方予想はつく。
何個つけるかは金銭と執着度合いだろうけれど、扉をつけている以上は各部屋に最低一個ずつ、何かで通信が途絶えた時用に予備でもう一つ。最高で二個はつけてあっても可笑しくない。
コンセント、電球、ライト、ペンの一本ですら道具として売られている。
母体はなんであれ、相手に聴こえてしまえば全てが同格。
パタパタとスリッパで歩く音が聞こえてくる。
どこの部屋から、なんて細かいことはわからないけれど確かにどこかの部屋から出てきた音。
近くまで来ると、即座に扉を開けるのではなく何故か無駄にプライベートを邪魔しないようにか二回ノックでコンコンと叩く。
その線引きに違和感を覚えつつも、普段の生活の慣れかはい、と返事をしてしまう自分もいた。
「…おはようございます、よく眠れましたか?
ヨリ様が好きだと言っていたサラサラとする手触りのシーツが思いの外難しくて…嫌だったらすぐに取り替えますし、買い換えますんで言ってください」
嗚呼、やっぱり好きだなと再認識させられる声、深緑のマッシュ、百九十二センチの猫背に目元にある隣に並ぶ二個の黒子。
普段つけているマスクを外した本当に綺麗な顔立ち。
配信やらで着ている服とはまた違うテロテロとした素材のゆとりのある柔らかい格好もとてもよく似合う。
理想的、完璧な姿を見ることが出来たことはオタク冥利に尽く。
けれど、話し合いなどなく強引に連れ去られたことは事実。
明らかな誘拐行為、世里自身が言えた義理ではないが悪いことは肯定しづらい。
ナリはキングサイズの大きなベッドの上にちょこんと座る愛し人を見て喉が渇く。
腸を突き破ってでも手に入れたかった神をやっと手の内に閉じ込められた。何があろうと離す気はない。
欲望に染まった手は愛し人の首へと躊躇なく伸びる。
「………くふっ、ふふふ………ふっ、あはは……ッッ!!
可愛い、ヨリ様がここにいる、幸せだなぁ…。
可愛いヨリ様が俺の手の中で苦しくてもがいてる、こんなに素敵な瞬間はないなぁッ!
一緒に逝こうか、まずはそこから始めようねぇ」
応援ありがとうございます!
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