弟の恋人〜はじめての恋は最後の恋〜

樹沙都

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§ 密事 *

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 唇をベロリと舐めまわされ、強引に差し込まれた舌でねっとりと口腔を蹂躙される。亜弥の唇を捕らえた克巳はまるで、獰猛な肉食獣だった。

 克巳の舌の動きと連動するように、胸の奥でゾクゾクとした痺れが湧き上がった。
 項から背筋を伝わり下りてくるそれに、下腹部がきゅうと締め付けられる。
 思わずため息が出そうな初めての感覚に、亜弥はたじろぐ。

 苦しくてもがいても、がっちりと捕らえられた身体は身動きもできず。
 窒息寸前。酸素不足の頭はぼーっとしてくるし、全身から力が抜けて腰が砕ける。克巳に支えられていなければ、そのまま崩れ落ちそうだ。

 いつものキスとは、ぜんぜん違う。

 夜の公園や路上で、人目を憚りつつ、戯れに唇を合わせるだけのキス。

 舌先が口腔へ侵入してくるときもままありはするが、このキスと比べたらあんなもの、ご挨拶程度。いうなれば、寸止めか。

 もっとも、外でここまでふらふらになるようなキスをするなんて、それはそれでとんでもない話しだけれど。

 本気のキスの凄まじさに圧倒され、今宵の秘め事に向けた亜弥の大いなる決意が、ぐらぐらと揺れた。

 混乱する亜弥の意識が、服の上から胸を撫で回す克巳の、骨張った大きな手に吸い寄せられた。

「脱いで」

「やだ。灯り……」

「いいから」

 克巳の強引な物言いに、これ以上なにを言っても無駄だろうと、亜弥は早々に諦め口を閉ざす。

 今日の服装は、裾までボタン留めのシャツワンピース。よかれと思って決めた服だったが、その意図は見事に外れ、捲り上げるには裾が長すぎるし、ボタンを外すのももどかしい。

 面倒だと言わんばかりに小さく舌打ちの真似をした小さく舌打ちの真似をした克巳が、ワンピースのボタンに手をかけた。

「あ、自分で……」

 はじめて見せる克巳の、情欲を秘めた男の瞳に、これから己の身に起きるであろう事柄を実感させられ、亜弥の背筋を汗が伝う。

「いい。俺がやる」

 言い終わるや否や、上から二つ目のボタンが外された。
 ひとつ、またひとつ、と、克巳が指を動かすたびに打ち合わせが開かれ、素肌が露わになっていく。
 亜弥は息を呑み、克巳の真剣な瞳を見つめていた。

「腕、抜いて」

「ん」

 扇風機の風が、ふわりと肌を掠めた。ワンピースが身体から取り除かれたことを実感させられる。

「ピンク……好きなの?」

 淡いピンク色のレース地に、濃いピンク色の小花刺繍が散らされた、グラデーションがかわいいブラジャーと、お揃いのショーツ。

 アルバイトで得たお小遣いの中から、この日のために奮発して買い求めた下着だけれど、そうしげしげと眺められると、なんだか自分に不釣り合いな気がして恥ずかしくなる。

「かわいいね。でも、脱がせちゃうけど」

「あっ」

 前屈みの背中に回された指が、器用にホックを外した。緩んだブラジャーが滑り落ちそうになるのを、亜弥は胸の前で腕を交差し、自分を抱き締めるようにして防ぐ。

「だめ。隠さないで」

 克巳は亜弥の手首をつかみ、有無を言わせず交差した腕を下ろさせた。

 ブラジャーを抜き取られると同時に、ぷるんと溢れたふたつの膨らみをそのままに、抵抗らしい抵抗もしきれない亜弥の手が、敷布に縫い付けられる。

「こっちも」

「……んっ」

「見せて。見て、亜弥のすべてが俺のだって確かめたい」

 これ以上はさすがに恥ずかし過ぎる。それでも、亜弥は律儀に克巳の言葉に従い、両膝を立てて腕で上体を支え、腰を浮かせた。

 ウエストゴムにかけられた指が、ゆっくりとショーツを引き下ろしていく。
 太腿から膝、脹ら脛から足首へ。最後に足先から抜かれたそれを、克巳は軽く畳み、同じく畳まれたワンピースの上に置いた。

「あんまり見られると恥ずかしいよ」

 自然と息が荒くなる。男の人、ましてや恋する相手に裸体を晒している。その事実に、亜弥の心臓が耐えられそうにない。

 布団に腰をかけて後ろ手をつき、固く閉じた膝を少し立てた姿勢で、正面から克巳の視線を受け止める。

 薄らと朱に染まる亜弥の肢体を、扇風機の生温い風が撫でていく。

 ボリュームのあるふたつの膨らみは上を向き、その先端は硬くつんと、内心の強張りを表すが如く、その形を主張している。

 ほんの少しの救いを求めるように、亜弥はきつく目を閉じた。

「んっ」

 張り詰めた空気を突き破るように、指先がほんの少し胸の先端に触れた。それだけで、亜弥はつい呻きを漏らしてしまう。

「触ったらもっと恥ずかしいくせに」

 指摘され、亜弥は唇を尖らせる。

「だって……」

 すぐ隣に座り直した克巳の手が、亜弥の胸をやわやわと揉み、刺激する。亜弥は顎を上げ、啄まれるままに克巳の唇を、舌を、受け入れた。

 強弱をつけて揉み撫で摩る胸への刺激が、亜弥の体温を押し上げる。ただでさえ暑さで汗ばんでいる肌が、よりしっとりと濡れ、克巳の手のひらに吸い付いていく。

「うん。見たら嬉しいし、触ったら気持ちよくて、もっと嬉しくなる」

 確かにそのとおりだ、と、亜弥は思う。けれども。

「あ、んんっ……克巳くんだけ、ずるい」

「ずるい? あ、ああ、そうか」

 亜弥だけが素肌を晒し、見つめられ撫で回されている。これを不公平と言わずして、なにを不公平と言うのか。

 けれども、亜弥の言葉の意味を即座に呑み込んだ克巳が、亜弥を撫でる手を己の着衣へと向けた途端、亜弥は自ら墓穴を掘ってしまったことに気づいた。




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