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湖都子と海都とハル

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世の中は常に変わっていく。
人々は明るい未来を期待し目指す。
男性が男性を愛し、女性は女性と。
女性に生まれて心が男性の人、男性も女性も両方を愛する人──多種多様な性が認められ恋愛の自由度は増している。
大人が子供を愛せば罪に問われるけれど成人さえすれば問題ぬらない。
二十歳と四十歳の恋愛ならなんの問題はない。

どんな恋愛も素晴らしいと声を大にして叫ぶ人もいる。
恋愛は自由で身分も関係ないと。
国も性別も肌の色も差別してはならないと。

なのに──何故、姉が弟を愛してはいけないのだろう。
近親恋愛を非難し嫌悪してもいいとなぜ思われているのだろう?
そんな世界でなければ私も歪まない心のまま生きられたんじゃないかと──そんな風に虚しく思う。
この気持ちの置き場所がない。
どこに置けばいい?
心に留めれば膨らむばかり。
けれど外に出す場所はない。
そんなことをしてしまえば──嫌悪に晒される。
出してはいけない感情。
心に留め──心の奥に──抑えつける。
絶対に知られるわけにはいかない。
誰にも──弟にも知られる訳にはいかない。
だけど──海都。
苦しい。

嘘を付く。
友人に、両親に、弟に──自分にでさえも。
こんな想いを抱いているなんて海都に──弟に知られたら軽蔑されるだろうから。
気持ち悪いと、弟に欲情する女だと軽蔑されるだろうから。
けれど私が欲しいのは弟なの。
海都さえ側にいてくれるのなら何も要らないの。
だから離れていかないで。
この気持ちは封印するから。
絶対に迷惑かけない。
姉として側にいさせて。

そう──ずっと思っていた。
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