恋と憂鬱 ─囚巡暦─

六菖十菊

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腐草為蛍 カレタルクサホタルトナル 6/11-6/15

017

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「ごめんね。お待たせ」

マンションへ向かう途中で必要なモノがあるらしくホームセンターへと寄った。
鈴音は車の中で待つ間に凌にメールをしようと思ったけれど、言葉選びに悩んでいるうちに課長が戻って来てしまい携帯を閉じた。

灰谷は今は浮気相手の様な立場だ。
まだ──榊さんが鈴音の恋人だ。
──凌だけの鈴音になったと胸を張って言いたかった。
──凌の喜ぶ顔を想像して鈴音も幸せになる。
……早く喜ばせてあげたい。
あんな風に鈴音を好きだと全力で示されたら──鈴音の頑なの心は跡形もなく溶けてしまった。
今や日向ぼっこをしている猫の様に凌と微睡たいと思ってしまう。
こんな幸せがあったなんて忘れていた。
彼を思いっきり甘やかしてキスをして──抱いてほしい。
鈴音の全てが欲しいのなら惜しみなくあげたい。
──あげていいんだ──

「なにかいいことあったの?」

榊さんが車を走らせながら問いかける。
──顔に出ていただろうか。
少し焦りながらも問いに問いで返す。

「榊さんも、なにか良いことがあったの?」

「確かに──良いことがあったね」

榊さんは終始、上機嫌だ。
穏やかに、控えめに微笑む印象なのに、今にも鼻歌でも歌いそうだ。
この4日間、榊さんに何があったのか。
まるで別人だと感じてしまう。
けれど──もうソレを聞かない方がいいのかも知れない。
恋人の鈴音に何も言わず消えた彼に、別れようと思っている鈴音が問い質すのは踏み込み過ぎだ。
ただ──彼が無事だったことだけは安心した。
本当に──心配したの。
榊さんがいない間──最低な行いをした。
恋人が失踪中に浮気をして──本気になった。
それを知れば誰もが鈴音の言葉なんて信じないだろう。
言い訳も出来ない。
でも、心配したことだけは本当だ。
そして彼は穏やかな表情で帰ってきた。
今の榊さんを見ると──問題が解決したのか、何があったのかは分からないけれど、鈴音が離れても大丈夫だと思えた。
元から鈴音が去ったとしても問題無い様に思えたけれど、以前の鈴音はそのことが寂しかった。
今は──安心している。

お互い穏やかに別れ話が出来そうだな。
きっと今日は、別れ話をする為に榊さんも来たのだろう。

そうなれば──凌に会いに行こう。
さっき別れたばかりだけど、ちゃんと伝えたい。
灰谷へ──凌に好きと言葉にしたい。


部屋に入るとそこはいつもの榊さんの部屋だ。
あまり来たことはなかったけれど。
何も無い──は言い過ぎだけれど、シンプルなモノトーンの清潔感ある部屋だ。
物に固執しない榊さんの部屋はまるでモデルルームの様だと思う。
──ソファに腰を降しながらお互いに話があると言った手前、どちらから話せばいいのか悩む。
けれど、鈴音の気持ちは固まっている。
なら──自分から話そう。

「榊さん──」

鈴音が口を開くと同時に発した榊さんの声に鈴音の声は掻き消された。

「鈴音さん。僕の奥さんになってくれないかな?」
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