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乃東枯 ナツカレクサカルル 6/21-6/26
乃東枯
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「夏枯れ草枯れる──です」
長谷部が雨野のデスクに飾ってあるカレンダーを巡りながら呟く。
6月も中旬になった七十二候のカレンダーは今日から夏至の初候に当たる乃東枯となった。
「夏草が枯れるってどう言う意味だろうな」
今からが夏なのに逆行した様な言葉だ。
長谷部がカレンダーに書いてある説明文を読む。
──この席の住人は休みが続いている。
「畦道によく咲いている紫色の花を咲かす靫草のことで漢方にもなるそうです。他の草木が繁茂時期に枯れるから夏枯草と言い、英名はall-heal全てを癒す──ですって」
説明文を読みながら長谷部が納得いかない顔をする。
「全てを癒すなんて豪語してるのに、なんで雨野さんは来ないんですか?」
完全に靫草に苛立ちをぶつけている。
その感情は俺にも理解できる。
何か言いたいけれど、何も言えない自分が不甲斐ない。
あれから──鈴音と連絡が取れない。
携帯も出ないし、マンションへ行っても留守だ。
居留守には思えない。
風邪で休む旨は課長には伝えているという。
──これは、考えたくない結論しか思い浮かばない。
日曜日に鈴音と別れた後、榊課長と復縁したのだろう。
鈴音は俺に会いたくないから会社に来ないのか……そう思う気持ちもあるが、そんなことで仕事に穴を開ける人間でもない事も知っている。
──手に入れたと思った子猫はあっさりと元の飼い主の元へと帰っていった。
俺の所へ来たのはただの気まぐれだったのだろう。
だけど──納得がいかない。
鈴音なら真っ直ぐに伝えると思っていた。
俺に詰られようとも、きっと。
気の迷いだったと、俺より課長を選ぶと。
「課長、おはようございます」
長谷部の声にヤツが来たことを知る。
おはようと返す課長はいつもと変わらない。
「課長、雨野さんは今日も欠席ですか?」
長谷部が逐一問い詰める。
「ああ。用心の為休むそうだよ。引き続き君達で雨野さんの仕事をフォローして欲しい」
反感顔の長谷部の不満は雨野の仕事が回ってきて仕事量が増えることではない。
「課長──私も雨野さんにメールしているんですが、お返事貰えないんです。何故、課長にはするんですか?」
「おいおい……そりゃ社会人だし、雨野さんも休みの連絡はするだろう。それを課長に不満をぶつけても仕方ないだろう」
須賀が課長のフォローをする。
いつもは穏便な長谷部の不満声に少し驚いている。
が、長谷部の言葉に衝撃を受けた。
「長谷部がメールしても返事ないのか?」
電話もメールも避けられているのは俺だけかとと思っていた。
けれど、長谷部もなら状況が変わってくる。
「──ありません」
長谷部が寂しそうに呟く。
課長を見るが、読めない瞳で見返すだけだ。
この場所で不用意な事は言えない。
鈴音と課長の関係や俺の横恋慕をここで語るにはあまりに人が多すぎる。
「──全てを癒す優しい花なのに──他の草木はこれから生茂るのにこの草花だけ枯れるなんて一体何があったんですかね?」
鈴音の七十二候カレンダーを手に持ち長谷部が意味深に問いかける。
夏枯草と鈴音をかけたのが分かる。
「僕も心配しているんだ。早く元気になって欲しいよ」
ありきたりの言葉しか言わないヤツに違和感しかない。
確かに鈴音と付き合っている事を隠しているのだから、この対処で正解だし、いつも感情を露わにしないのだからこれが普通だろう。
けれど──ここまで普通でいられるのか?
俺に対しても鈴音を抱く前と変わらない対応だ。
あの陰湿な男が俺が鈴音を抱いたと知っていればこんな対応ではないだろう。
──鈴音は俺との関係を課長に言わずに復縁した。
で、いいのか?
それなら俺が大事にすれば、鈴音の思惑とは違う方向に行ってしまう。
ただそれは──鈴音を諦めるということだ。
鈴音がそれを願ったとしても──あれだけ鈴音を抱いた後では諦める選択を選べない自分がいる。
もう一度──何度でも俺のものにしたい──
仕事が終われば鈴音のマンションにもう一度行ってみよう──課長と鉢合わせになるだろうか?
…俺はいい。
寧ろ言いたい。
けれど──鈴音はあの浮気をバレたくないかもしれないも思うと気が滅入る。
やっぱりあれは鈴音にとって寂しさを紛らわす戯れだったのか。
「灰谷さん」
後で昼ご飯一緒に食べましょう。
と、須賀が聞けば間違いなく勘違いしそうな誘いだ。
けれど、長谷部の不満が解消していないのが一目で分かる。
それは俺だって同じだ。
そう瞳で言い返した。
長谷部が雨野のデスクに飾ってあるカレンダーを巡りながら呟く。
6月も中旬になった七十二候のカレンダーは今日から夏至の初候に当たる乃東枯となった。
「夏草が枯れるってどう言う意味だろうな」
今からが夏なのに逆行した様な言葉だ。
長谷部がカレンダーに書いてある説明文を読む。
──この席の住人は休みが続いている。
「畦道によく咲いている紫色の花を咲かす靫草のことで漢方にもなるそうです。他の草木が繁茂時期に枯れるから夏枯草と言い、英名はall-heal全てを癒す──ですって」
説明文を読みながら長谷部が納得いかない顔をする。
「全てを癒すなんて豪語してるのに、なんで雨野さんは来ないんですか?」
完全に靫草に苛立ちをぶつけている。
その感情は俺にも理解できる。
何か言いたいけれど、何も言えない自分が不甲斐ない。
あれから──鈴音と連絡が取れない。
携帯も出ないし、マンションへ行っても留守だ。
居留守には思えない。
風邪で休む旨は課長には伝えているという。
──これは、考えたくない結論しか思い浮かばない。
日曜日に鈴音と別れた後、榊課長と復縁したのだろう。
鈴音は俺に会いたくないから会社に来ないのか……そう思う気持ちもあるが、そんなことで仕事に穴を開ける人間でもない事も知っている。
──手に入れたと思った子猫はあっさりと元の飼い主の元へと帰っていった。
俺の所へ来たのはただの気まぐれだったのだろう。
だけど──納得がいかない。
鈴音なら真っ直ぐに伝えると思っていた。
俺に詰られようとも、きっと。
気の迷いだったと、俺より課長を選ぶと。
「課長、おはようございます」
長谷部の声にヤツが来たことを知る。
おはようと返す課長はいつもと変わらない。
「課長、雨野さんは今日も欠席ですか?」
長谷部が逐一問い詰める。
「ああ。用心の為休むそうだよ。引き続き君達で雨野さんの仕事をフォローして欲しい」
反感顔の長谷部の不満は雨野の仕事が回ってきて仕事量が増えることではない。
「課長──私も雨野さんにメールしているんですが、お返事貰えないんです。何故、課長にはするんですか?」
「おいおい……そりゃ社会人だし、雨野さんも休みの連絡はするだろう。それを課長に不満をぶつけても仕方ないだろう」
須賀が課長のフォローをする。
いつもは穏便な長谷部の不満声に少し驚いている。
が、長谷部の言葉に衝撃を受けた。
「長谷部がメールしても返事ないのか?」
電話もメールも避けられているのは俺だけかとと思っていた。
けれど、長谷部もなら状況が変わってくる。
「──ありません」
長谷部が寂しそうに呟く。
課長を見るが、読めない瞳で見返すだけだ。
この場所で不用意な事は言えない。
鈴音と課長の関係や俺の横恋慕をここで語るにはあまりに人が多すぎる。
「──全てを癒す優しい花なのに──他の草木はこれから生茂るのにこの草花だけ枯れるなんて一体何があったんですかね?」
鈴音の七十二候カレンダーを手に持ち長谷部が意味深に問いかける。
夏枯草と鈴音をかけたのが分かる。
「僕も心配しているんだ。早く元気になって欲しいよ」
ありきたりの言葉しか言わないヤツに違和感しかない。
確かに鈴音と付き合っている事を隠しているのだから、この対処で正解だし、いつも感情を露わにしないのだからこれが普通だろう。
けれど──ここまで普通でいられるのか?
俺に対しても鈴音を抱く前と変わらない対応だ。
あの陰湿な男が俺が鈴音を抱いたと知っていればこんな対応ではないだろう。
──鈴音は俺との関係を課長に言わずに復縁した。
で、いいのか?
それなら俺が大事にすれば、鈴音の思惑とは違う方向に行ってしまう。
ただそれは──鈴音を諦めるということだ。
鈴音がそれを願ったとしても──あれだけ鈴音を抱いた後では諦める選択を選べない自分がいる。
もう一度──何度でも俺のものにしたい──
仕事が終われば鈴音のマンションにもう一度行ってみよう──課長と鉢合わせになるだろうか?
…俺はいい。
寧ろ言いたい。
けれど──鈴音はあの浮気をバレたくないかもしれないも思うと気が滅入る。
やっぱりあれは鈴音にとって寂しさを紛らわす戯れだったのか。
「灰谷さん」
後で昼ご飯一緒に食べましょう。
と、須賀が聞けば間違いなく勘違いしそうな誘いだ。
けれど、長谷部の不満が解消していないのが一目で分かる。
それは俺だって同じだ。
そう瞳で言い返した。
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