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第二章 冒険は楽しいぞ!

第25話 ニュートンの罠

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 俺は鑑定結果を見て困惑した。

『特殊効果:天井や壁を走れる』

 これはどういうことなのだろうか?

 沢本さん、御手洗さん、片山さんが、俺のスマートフォンをのぞき込んでくる。

「天地さん……。この特殊効果は、どういう意味でしょう?」

「いや、俺も理解不能ですよ」

 俺と御手洗さんは、特殊効果に困惑した。
 だが、経験者の沢本さんとダンジョン省の片山さんは平然としている。

「へえ! 天井や壁を走れるんだ!」

「映画でありましたね! なかなかレアな特殊効果ですね!」

 二人は、この特殊効果の記載を受け入れられるのか!?
 俺と御手洗さんは、口をOの字にして固まってしまった。

「二人とも何だよ? カケルは良かったじゃん! これで武器を装備出来るから、まともに戦えるぜ!」

 沢本さんの言う通りなのだが、俺はどうも納得がいかない。

「沢本さんと片山さんは、この特殊効果が変だと思わないんだ!?」

 沢本さんと片山さんは平然としている。

「えっ? いや、だって、天井と壁を走れるって書いてあるだろ? 走れるんだよ!」

「そうですよ! カッコイイじゃないですか!」

 沢本さん! 『走れるんだよ!』じゃないだろう!
 物理的におかしいだろう!

「いやいやいや! 物理法則は? 常識は?」

「常識なんて、捨てちまえよ!」

「物理法則を言い出したらキリがないですよ。ダンジョンの存在自体がおかしいのですから、受け入れるしかありません」

 沢本さんと片山さんは動じない。
 俺は改めて、ダンジョンが不思議な存在なのだと認識した。

 御手洗さんが、頭に手を置いて嘆いた。

「ニュートンが、リンゴを全力で投げつけるレベルの話ですよね」


 *


 まだ、夕方五時前で時間がある。
 俺たちは、ナイフ★4『縦横無尽』の特殊効果を確認することにした。

 ダンジョンの一階層に戻り、俺はナイフ★4『縦横無尽』の鞘にベルトを通し身につけた。

「じゃあ、試してみます!」

 沢本さん、御手洗さん、片山さんが、俺を見守っている。
 俺は鉱山ダンジョン一階層の坑道をゆっくり歩き始めた。

 坑道の壁に右足をかけて、壁を歩いてみようとした。
 だが、右足は滑ってしまい壁を歩くことは出来ない。

「ダメみたいですね……」

 俺が首をひねっていると、ダンジョン省の片山さんがスマートフォンで撮影をしながら近づいてきた。

「駆さん。特殊効果は、天井や壁を『走る』ことが出来る、です。走ってみたらいかがですか?」

「あっ! なるほど!」

 俺は片山さんの勧め通り走ってみることにした。
 鉱山ダンジョンの坑道を、思い切り走る。
 そのままのスピードで、右の壁に足をかけた。

 走れる!
 壁を走れる!
 俺は壁を走っている!

(あっ! 上下の感覚が変わってる!)

 とても不思議なのだが、右の壁を走り出したら、上下の感覚が変わったのだ。
 右の壁が下方向で、左の壁が上方向だ。

 壁を走っているのに、地面を走っているのと同じ。
 なのに視界は、九十度回転している。

(この不思議な感覚は、言葉で説明してもわからないのだろうな! 後でみんなにも体験してもらおう)

 俺は天井を走り、左の壁を走り、地面、壁、天井、壁ときりもみするように走ってみた。
 ありがたいことに、酔うことはなく、鉱山ダンジョンの坑道内を自在に走ることが可能だ!

(そろそろ戻ろう)

 俺は坑道の天井を走り、沢本さんたちが待つ場所へ戻った。
 三人とも、俺が天井を走っている姿を見て、興奮している。

「おお! スゲエ! カケルが、天井を走ってるよ!」

「重力とは何なんですかね……。リンゴの意味は……」

「いやあ、今日は良い絵が撮れてますよ!」

 俺から見ると、三人は上下逆さまだ。
 立ち止まり、三人に話しかけようとした。

「あっ!」

「うぉっ!」

「キャッ!」

「キャア!」

 俺は失敗した。
 天井や壁では、走らないとダメなのだ。

 立ち止まったことで、ナイフ★4『縦横無尽』の特効が効かなくなった。

 俺は逆さまの状態で、落下してしまった。
 それも、三人を巻き込んで……。

 気が付くと俺は三人の上に乗っていた。

 まず、俺の腰から下は、御手洗さんの顔面に。
 俺の顔は御手洗さんの腰というか、お腹の辺りに。
 俺の右手は、沢本さんの胸に。
 俺の左手は、片山さんの胸に。

 とにかく天国なのか、地獄なのか、よく分からない状況になっていた。

 顔面に色々押しつけられている御手洗さんが、激しく顔を動かす。

「ちょっと! 天地さん!」

「ごめん! 今、離れるから!」

 俺は何とかしようともがく。
 だが、両手が不安定な柔らかく大きな物体の上にあるので、腕に力が入らない。
 ビーチボールの上で、腕立てをしているようなものだ。

 結果として、御手洗さんの顔面に俺の体をかえって押しつけることになった。

「カケルゥ! そんなに強くもむなよ!」

 沢本さんが、笑い交じりにからかってくる。
 いや、俺は必死なんだって!

「あの……駆さん……。ダンジョン内でこういうことは困りますよ……」

 片山さん、色っぽい声を出さないで下さい!

 しばらくもみ合いが続いたが、俺はやっと脱出することが出来た。

「天地さん! そこに座って下さい!」

「はい」

 俺は、またも御手洗さんに説教をされてしまった。
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