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はじまり
Part 5
しおりを挟む朝目覚める度に、君の抜け毛達が横にいる。
温もりを感じたいつもの体毛が心地よい。
アイウイッシュフォーエバーな目覚めと共に、傍らで寝息一つかかずに寄り添うギンちゃんに少し心配になりつつも、抱きしめた後の暖かさに胸を撫で下ろす。
「なにこの子。究極に愛おしい」
僕はその言葉をありのまま行動へと移し、大きな背中に顔を押し付け愛も擦りつける。
毎朝の光景。
平井堅もシャウトして羨ましがる程の幸福な空間に、自分の置かれた状況が素晴らしい事なのだと実感する。
小うるさいが表情豊かで小うるさい母、富江がいて、辛辣さの中にも愛を含ませている筈の辛辣な可愛い妹、凛がいて。
この上ない程の愛情を無償で叩きつけてくる愛しの愛犬、ギンがいる。
あ、禿げ上がった頭の、人狼ゲームなら初日吊り確定な寡黙父、幸一がいたわ。
そのザ・ポピュラーな家族構成の我が家が、どれほど幸福な存在なのかを僕は毎日毎日噛み締める。
こんなにも素晴らしく、愛が充満した家は中々無いと自負するレベルで僕は家族が大好きである。
だが、僕のこの溺愛にも似た感情はここ4年ばかりのことに過ぎない。
それまではごく一般的な思春期を過ごしていた無精な長男であり、アンマーを聴いて泣くくらいには母親に迷惑をかけてきた自負がある。
学力は自分で言うのもなんだが、高い方ではあった小、中、高。
しかし好奇心もまた高い故に、未成年での喫煙、飲酒。風になりたくてバイクで峠を攻めた中学3年の夏。色欲に塗れた高校2年の冬。
別にこれといって名が通っていたわけではないが、「御宅の息子さんは本当に真面目ですわね。ウチのも見習って欲しいですわ」などと言われた経験がないだろうとだけ自信を持って言える。父よ母よすまぬ。
そんな僕だったが、今ではそんな世の中に対する反骨心も、行儀良く真面目なんて出来やしないなどと言う厨二精神も皆無といっていい成人もとい聖人と化していた。
4年前。僕がある病を患った事がキッカケだった。
群発頭痛。通称、自殺頭痛。
端的に言えば、偏頭痛をメラとするなら群発頭痛はメドローア。
極大魔法もビックリな苛烈と表現せざるを得ない程の痛みを発生させる頭痛が、毎年決まった時期に1ヶ月くらい毎日1回~2回のペースで約30分間やってくる。
この病は偏頭痛の上位互換なだけあって、完治する手立ては今のところ存在していない。
頭痛の発作時に、緩和させる皮下注射を打つだけの対処しか出来ないのだ。
そんな厄介な病を発症し、僕の尖った牙は段々とすり減らされ、犬歯が臼歯に姿を変えた。
人と話すことも億劫で、引きこもり気味になるほどにまで。
だが、それは家族の支えが僕を大きく変えた。
発症件数の多くないこの病は、特効薬もない分、痛みを抑える皮下注射も常備している処方箋薬局は無く、診断もつきにくいため、なにが原因でこんな激しい痛みが続くのか理解出来ない時期が長く続いた。
それを見兼ねた両親や妹は、あらゆる方面に問い合わせ、調べあげ、なんと自分達で群発頭痛であると見極めた。
それからの行動も迅速で、群発頭痛を研究している隣県の総合病院へすぐに僕を連れて行き、診断の確証を得て数少ない皮下注射を取り扱う処方箋薬局から大量に薬を購入し、発作に対して万全の体制を整えてくれたのだ。
勿論、痛みが来ることは抑えきれないのだが、発作後からの状態は確実に良好なものに変化した。
30分続く筈の痛みは10分弱までに短縮し、不安で仕方がなかった名も知らぬ奇病の正体を解明し、対処法も熟知出来た。
僕は心の底から救われたのだ。
20分の痛みを消してくれた父母に。
訳がわからない痛みの原因を解き明かしてくれた妹に。
痛みが続いている間ずっと寄り添ってくれていた愛犬に。
感謝しか出来ない僕はその時、この家族の為ならたとえ父がセクハラで訴えられて社会的に死のうとも、母が更年期障害で八つ当たりのように僕を罵倒しようとも、妹がバカな男に騙されて大金を貢ぎ金を貸してとせびってきたとしようとも、愛犬が僕の大事にしていた菓子パンを食い散らかそうとも。
絶対に見捨てず、家族が微笑んで過ごす生活が送れるようにありとあらゆる力を使って守ろうと決意したのだ。
「ありがとう」
思春期を過ぎて初めて、僕は家族に面と向かってそう言えた。
これが僕の家族を溺愛する理由であり、揺るがない一つのターニングポイントなのである。
「早よ起きんね。大学生にもなって自分で起きれんとかいねホントに」
扉の向こうから富江の小言が部屋に響く。
うるせえなこのババア。
朝っぱらから小言で起床を促された僕のハラワタは、そんな聖人的な感情を軽く薙ぎ払っていた。
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