Angel

ちょこチョコ

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Angel ・聞き分けのいい子供

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「今日は昼はサッカー、夕方から夜にかけては塾よ。準備しときなさい」

うん、と軽く言ってバックに着替えとシューズを入れる。塾の方のリュックはもう出来ている

中学1年。未だに僕の人生は退屈だった。
勉強は要点を掴んでテストでいい点を取る。スポーツはサッカー、バスケ、テニス、陸上、水泳と学年1優秀な成績を納めている。先生にも気に入られ、友達もいる。親は厳しいが愛情をもって接してくれる

順風満帆。それが過ぎるほどにそうだった

「要領がいいね」
「なんて、偉いのかしら」
「さすがだな、帝君は」
「何をやらせても1番なんだ。自慢の息子さ」
「今度は俺と遊ぼうよ帝!」
「私…帝君のこと好きで…」

こんなセリフ何回聞いたことか。ハラハラドキドキのスリルは全部回避されて、欲しいものはある程度揃う。
将来の夢はなんでも目指せて、なんにでもなれるだろう。そう言われた
僕は中学1年生にして、人生に興奮を見いだせなかった
もちろん、テストで良い点をとった時には嬉しかったりしたが、今はもうそれもない。褒められてもなにも感じない。それが当たり前だと思っているから
ただ、言われた通りにやる。成功する。褒められる。それの繰り返しだ
こんな人生、普通は羨ましいだろう。でもそれがずっと続くことには退屈が残る。出来すぎというのも辛いんだ。でも仕方ない、こうなる人生だからだ。僕はこれからもずっとこのまま生きて行くだろうと思った。思っていた。あの日までは──

「荷物…?」

親は生憎、家を出ていた。父は政治家で、母は高校教師だ。こういう日も珍しくない

「はい、東雲シノノメ様でお間違えないでしょうか」
「はい。」
「こちらお荷物になっていますね、割れ物ですのでご注意ください」

割れ物……しかも、宛先は僕の名前だ。僕宛ての贈り物だろうか

ダンボールを開けて、包装紙をとるとそれは銀色のベルのようだった。それとおそらく鳴らすためのゼツがついていた。なんで、わざわざ別に取り付けておくのだろうか。うるさいからだろうか、いや、そもそもなんで僕にこれが?

とりあえず、組み立ててみる。銀の光沢が輝き、大きさは少し小さめ。持ち手の部分には羽の装飾が施されている。どことなく教会なんかで見そうなベルだ

────チリン

 高い透き通ったような音。別に理由があったから鳴らしたわけじゃない。けど──

「ご利用ありがとうございます。あなたのお願い叶えます、株式会社幸福遂行天使でございます。」

ベルからポンと現れたのは黒のスーツに白い髪。にこやかな笑顔には清潔感と優しさが出ている。そんな好青年だった。いかにも営業マンと言った感じだ

「えー……ご両親は…?」
「仕事です。夕方頃になれば帰ってくると思いますが、セールスはお断りしています」
「いや、セールスなんかじゃありませんよ!お代は先に頂いているので!えーと…ではこの東雲帝シノノメ ミカド様はお父様のお名前でしょうか?」

男は笑顔を崩さず聞いてくる。怪しい
僕の勘がそう告げていた

「お引き取り下さい。下に警備員もいますよ」

名前に関する質問は無視して、こう言うのが最適解だ

「え~…あのですね…お代を貰ってしまっている以上、私も帰る訳にはいかないんです。詐欺になってしまいますので…あっ、そうだ!セールスや怪しいものでなはい証拠をお見せ致しましょう!」

そもそも、ベルを鳴らしたら出てくる時点でおかしな人には変わりないが…

「我々、天使はですね。おとぎ話や神話なんかに出てくる天使と同じものです、こちらをご覧下さい」

そう言って見てきたのは、会社のホームページだった。いよいよ警備員を呼んでこようか

「我々天使も現代社会で生きていくには、やはりお金が必要なのです…そこで立ち上がった会社が株式会社幸福遂行コウフクスイコウ天使でございます。私達に元来備わった『』そして、『』。これら2つを使ってお客様の満足いく願いを1つ叶える次世代型サービス業なのです!どうでしょう、信じてもらえたでしょうか?」
「いや、無理です。余計信じられなくなりました」

もはや、詐欺なんかの類ではないだろうか

「そんな!あぁ、仕方ありません…これでどうでしょうか」

大袈裟な表現をして落胆しながらも、見せてきたのは俗に言う天使の羽と天使の輪だった。
黄金に光る天使の輪と真っ白な天使の羽はこの空間を現実からかけ離すには十分だった
ほんとに、こんなものがあるのか…初めて見た

「我々は、秘密裏に動く会社です。現代社会で我々のような存在が普及してしまえば、このサービスを利用し、たちまち怠惰な生活に陥ってしまうでしょう。そのため、幸福が足りていない人の元に現れるのです。」
「……ん、分かりました。」
「では!お父様は何時頃お帰りになられるでしょうか」

パァとにこやかな笑顔になると、羽と天使の輪をしまう。ホントにいちいちリアクションが大きい人だ

「東雲帝は僕の名前です。」

天使は一瞬、ポカンとするがすぐにまた笑顔に戻る

「え、ホントに?」
「はい。」
「えっと…子供はですね、普通幸福に満ち溢れているのです。なので…仕事で疲れた大人に我々が行くのですが──」
「僕は幸せです。なんでも出来て、なんでも貰えるので。」

言葉に嘘はない

「欲しいものとかは?」
「ありません、あったとしても数日もすれば貰えます」
「う~ん……ちょっと失礼」

天使は後ろに回り込んで、頭に両手を当てる。
なんだか神の啓示を受けているような絵だ

「今の願いは新作のゲームですか」
「はい、けど来週買ってもらいます。」

こんなふうに欲しいものはもう手に入る状態だったり、予約していたり。と天使は徐々に僕の言っていることが分かってきたようだ

「どうですか、僕の願いを叶えることは出来そうですか」
「難しいですね……こうも恵まれていると確かに幸福ですね…」

──僕の願い──
自分で声にして言ってみたが、その掴みどころのない言葉は僕には向いていないようだった。

それからしばらくして、天使は作戦を変えたらしい。

「なんで、まだ居るんですか」

今、天使は僕の部屋に居候している

「お客様の願いを叶えるのが我々の仕事です。それを達成するまでは帰れません」
「じゃあ、さっさと叶えてください」

数学のワークはここで終わりにしよう。パタリと閉じて天使の方を向く
居候し始めて3日、昼はどこへ行っているのか知らないが、夕方になるとふらっと戻ってくる。都合のいい天使だ

「本当に、言う通りです。欲しいものは全て手に入るのですね」
「だから言ったじゃないですか、僕は今のままでも幸せです。分かったら帰ってください」
「ですが、私がここに呼ばれた以上、やはりあなたには願いがあるはずです。そのために、もう少しだけ観察させてください」
「好きにしてください、迷惑をかけなければ別にいいので」

今日は昼からの習い事はない。せっかくの日曜日だし、図書館にでも行こうか。

───────────────────────

道中、ネズミの死体があった。車に轢かれたのだろう。内蔵が飛び出て、道路を赤く染めている

「惨たらしいものですね。」
「命はそういうものです。偶然に死ぬこともあると思いますから」

たったそれだけの会話だったのに、図書館で読んでいたどんな本よりも記憶に残っていた。
帰りには死体は片付いていて、血痕が残っている程度だった。

「今日も、収穫はなしですか?」
「残念ながら……私も久しぶりに外に出ているし、なにかあるかと思ったのですが…」

願いを見る力も限度があるようで、ホントに無欲なときは見えないらしい。そして、今がその状態らしい

「願いを叶える力は概念でもいいんですか」
「それは例えば?」
「そうですね…満腹感とか。たべたいものがあるわけではないけど満腹になりたいなんて願いは平気なんですか」
「えぇ、できますよ。その他にも、誰かに好きになって欲しい。や、自分と誰かを入れ替えたい。なんて願いも可能です。あとは……」
「誰かを消したい。なんかもオッケーですか?」
「はい。ですが、そのような人は結局後悔します。あまりお勧めしませんよ」

そんなこと、分かってる。そういう類の願いは、自分ではなく他人に影響する願いだ。他人を不幸するよりも、自分を幸せにした方が絶対いいに決まっている

「あ」

天使が呟いた。

「どうしました?」
「───いえ、願いは自分気づくことが重要です。もし、私が願いを見ても、お客様本人がそれに気づくまで願いを叶えることはできません」
「なるほど、僕の願いが見えたんですね」

分かりやすすぎる

「へっ!?、いいいいや?そんな、ここことありませんよ!」
「はぁ……まぁ、分かりました。自分の願いがなにか分かればいいんですね」
「願いが見つかったらの話ですけどね!が望むものとが望むものは違いますから」

本心が望むものと本人が望むものは違う。なんか深い話だ。
『退屈を覆す』それが僕の願うホントの願いなんだろうか

───────────────────────

しばらくして、僕の祖父が死んだ
昔から肺がんで、いままで生きていたのが不思議なぐらいだったらしい。その言葉を聞くと悲しみは湧いてこなかった
もちろん、優しい祖父で良くしてもらっていたから、失うのは辛いし、なにより初めてのことで困惑した。
今日は葬儀の日だが、さすがに今日ばかりは天使もついてこない。

祖父の死顔は顔色が悪いけど、楽に寝ているみたい だった。
死ぬなんてまだ当分先だけど、僕が死ぬ時にはここにいる大人達の大抵は死んでしまっているのだろう。なんだこれ、誰も幸せにならないじゃないか
でも─────

「おじいちゃん、どこに行くのかな」
「天国でしょうね、優しかったから」

悪いことをしたら地獄に行く。良いことをしたら天国に行く。迷信…というか確かめようのないことだけど、なんだがそれだけで救われるようなことも確かだった。

─────────僕の願いは─────────

「『退屈を覆す』それが僕の願いです」
「具体的には?」
「……僕の知らないことを教えてください、この身で感じたいんです」

これがが望むものだ。そして、僕はが望むものも分かっている。

「───なるほど。かしこまりました。あなたが望んでいる願い、叶えさせていただきます」
「はい」

天使とは短い間だったが、まぁ色々考えさせられる時間だった。今のこと、これからのこと。全てに退屈し、絶望した僕にとっての願いはこれしか無かった。
天使はそのキレイな手で僕を抱く。
力が入らなくなり、フワッと浮いた感覚が僕を襲う。その形容し難い感覚は初めてだった
興奮する。そうだこういうことだ

「僕の望みはこれだよ!この感覚だ!」

今までにないほどに感情が露になる。
天使は羽を広げ、空に向かう。僕を連れて。
僕は僕を見る。楽しい、退屈でない。
こんなのなんで今まで思いつかなかったんだ!

僕の願いそれは『退屈を覆す』こと
未来に退屈した僕が選んだ未来は『死』

こんな興奮、人生初めてだ。道端で死んだ鼠も、安らかに眠った祖父も、僕が思った感情は未知だったんだ!
あぁ、なんて楽しい。こんな体験もう二度とできない、その特別感を久しぶりに味わう

僕は天使に身も心も預けた


───────────────────────

天使の羽が黒く染まり、コウモリの羽のようになる。

「まったく…こんな、厄介な子供だったとはな」

我々、株式会社幸福遂行天使は建前は『願いを叶える天使』だが本質は違う。願いを叶える代わりに、その魂をお代としてもらう悪魔の会社なのだ。
それにしても……死ぬ事が望みの子供に会うとはな

「まぁ、いいぜ。オレにとっちゃ魂も手に入った。子供の魂は高く売れる……人間もおもしれぇ、辞められるかよこんな仕事」

退屈しない毎日だ───
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