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Chap.20

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 二人は充分な余裕を残して丘の家に到着した。キッチンのテーブルでヴァイオリンケースと鞄を隣の椅子に置いてコーヒーを飲んでいたカールは、エミルがテーブルに置いたコーヒー豆の包みを見て顔をほころばせた。
「ピエールは元気かい」
「はい。お父さんにくれぐれもよろしくって言っていました」
 カールは竜を見てにっこりし、
「お帰り。大学を見てきたかい?」
「はい!すごく素敵でした!」
 床に座り込んで、大喜びでひっくり返っているライラを撫でながら、竜は心から言った。
「ああ、そうそう、フィルもよろしくって言っていましたよ」
 エミルが言うと、カールはほほうと眉を上げて、
「竜に会ったのかい」
「ええ」
「真に似ているって言われたろう」
 訊かれて竜が頷くと、カールはおかしそうにくすくす笑った。
「そうだろうね。フィルはね、真に焼き餅を焼いているんだよ。で、エミル、今日もプロポーズされたのかい」
 エミルは苦笑した。
「ええまあ」
「ははは。あの子も諦めないねえ。そういうところは真に似ているようだ」
 
 カールを見送った二人とライラが果樹園への道を歩いていると、ちょうど果樹園からつばひろの帽子をかぶったマリーが出てきたところだった。手には大きな籠を下げている。
「運びましょうか、お母さん」
「大丈夫よ、そんなにたくさん摘まなかったから。まあ、竜、疲れた顔をして」
「えっ」
 竜は驚いて思わず自分の頬を撫でた。
「そうですか?」
「そうかなあ」
 エミルも竜の顔をしげしげと見る。
「ええ、なんだかリボンを作ろうとしていた時の真みたいだわ。練習のしすぎなんじゃないの?」
 竜は元気に笑って見せた。
「大丈夫です。ちゃんと休憩を取りながらやってますから」
 マリーはまだ少し心配そうに、
「そう?それならいいけれど…。エミル、ちゃんと気をつけてあげてね」
「了解」
「僕、そんなに疲れて見えますか?」
 マリーが行ってしまった後、果樹園の木戸を通りながら竜はエミルに訊いた。「いや、僕にはそんなふうに見えないけど…。まあ母は肖像画を描いていたし、顔の変化に敏感なのかもしれないな。念のため昼寝でもしておくか?」
「いいえ!」
 断固とした調子で言った竜に、エミルはくすくす笑った。
「そう、時間がもったいないからな。じゃ、『歌わせる魔法』の続きといこう。もう一度、その辺の小石でやってみるか?それともいきなりレウリスでやってみる?」   
「レウリスでやってみたいです」
「よし」
 二人の足は自然と例の大きなりんごの木の方へ向かった。ライラが立派な尻尾を緩やかに振りながら、おとなしくついていく。
「マリーはもう肖像画は描かないんですか?」
 マリーが肖像画家だということは、初めて会った日にエミルから聞いていた。
「最近はあまり聞かないね」
 エミルはにこりと笑って、
「でも竜のなら絶対描くだろうな。もう描き始めているかもしれない」
「え」
「母のやり方だと、相手が目の前に座っている必要はないからね。こっちが知らないうちに観察して、描いている」
「そうなんですか。…あ、もしかして真のもありますか?」
「何枚かあるはずだよ。二、三枚は僕も見たことがあるけど、もっとあるはずだ。後で訊いてみよう。今までは…訊けなかったけど」
 エミルは微笑んで大きく息をついた。
「ほんとに、竜。竜が来てくれたおかげで、様々な枷が外れたよ。来てくれて感謝してる」
 しみじみとした口調で言われて、竜は照れくさかった。
「そんな。僕の方こそこの世界に来られて、大感謝です。何に感謝したらいいのかわからないけど。なんだか、偶然っていうにはあまりにすごすぎて…。運命、とかそういうのなのかなって」
「そうだね。僕は普段はそういうふうに考える方じゃないんだけど、でも、…そう、運命、みたいなことなのかもしれないね」
 エミルは眩しそうにりんごの木を見上げた。

 「さて、」
 左手の掌にレウリスの結晶をのせた竜の正面に座ったエミルが言った。
「前にも言ったけど、こういう類のものは自然のものより歌わせるのがちょっと難しい。僕自身の感覚から言うと、自然のものを歌わせる時よりももう少し力がいるっていう感じだ。繋がりの深さよりもね。その辺のコントロールに気をつけて」
「はい」
 竜はうなずいた。崖の上での経験を思い出して思わず背中がぞくりとした。深く繋がりすぎないように、気をつけよう。
 深い呼吸を二回。緑の葉の間から降ってくる光を鋭くはね返しているレウリスをじっと見つめる。側頭部から後頭部にかけて、張りつめた何かを感じる。じわりと身体が熱くなる。
 さっき小石や岩に呼びかけたのと同じ言葉を使おうとしたけれど、なぜか言葉が出ない。竜はレウリスの薄紫色の光を見つめながら静かに頭の中を探った。言葉が浮かび上がってくる。
 話して。
 そう頭の中で口にした時、押し開けようとしたドアが動きそうで動かない時のような手応えを感じた。竜はドアを更に強く押すような気持ちで、力を加えた。
 ペダルを踏んだままのグロッケンのような音が竜の周りを満たした。実際の空間の掌の上で、レウリスの結晶が薄紫色にぶれて見える。やった。気を張り詰めたまま竜はレウリスを見つめ続けた。音は上がったり下がったりしていたが、竜は旋律を追わないように気をつけた。聴き入ってしまったらまたレウリスの中に取り込まれてしまうかもしれない。
 やがて、余韻を残してレウリスの歌は終わった。一瞬たりともレウリスの結晶から目を離さなかった竜の掌で、レウリスはあっという間にただの土塊のようになり、ぼろぼろと崩れた。目を上げると、立膝の上に頬杖をついたエミルが、感心したというように微笑んでいた。
「さすが」
 竜は大きく息をついた。頬が緩む。できたんだ。
「ありがとうございます」
「意図的にやったのか?」
「え?」
 竜はきょとんとした。なんのことだろう。エミルが眉を上げる。
「気づかずにやったのか。今、意識の空間を使わなかったろう」
「え…」
 竜は驚いて、急いで記憶を巻き戻してみた。エミルの言う通りだった。自分は薄青い空間に行かなかった!
「…どうして…」
「必要じゃなくなったからさ」 
 エミルが微笑みながらため息をついた。
「2日前に魔法を始めたばっかりだっていうのに…。こういうのを天才っていうんだ」 
「でも、でも…」
 竜は慌ててしまった。
「しまってある水や風や光や火はどうなっちゃうんでしょう」
「どうもならないよ。やってごらん」
 竜は戸惑った。ええと…。光のボールなしで、どうやればいいんだろう。
「落ち着いて。両手を水で満たしてごらん。おっと、その前に」
 エミルが竜の掌に残っていた崩れたレウリスの残骸を消す。
「方法のことは考えなくていい。水のことだけ考えるんだ」
「はい」
 気を鎮めて、両手でお椀を作る。意識を両手に集中する。ここを水で満たす。水。
 頭か身体のどこかがその言葉にふっと反応した感覚があり、すぐに両手が水で満たされた。思わず安堵のため息が出た。
「…できた」
 エミルがうなずいた。
「消してごらん」
「はい」
 意識を集中する。これを消す。
 また頭か体のどこかがその言葉に反応した感じがあって、次の瞬間水はたくさんのきらめく水滴になり、宙に消えた。
「最初はちょっと変な感じがするかもしれないけど、すぐに慣れるよ。それに、意識の空間に行かなくてすむ分、素早く魔法をできるようになる」
 竜は今朝崖で飛んだ時のことを思い出した。ああいう時に、エミルのようにすっと飛び立てるようになるんだ!
「でも、どうして急にこうなったんでしょう」
「そりゃあ今日は随分練習したし、意識の使い方とか集中のレベルなんかも昨日までやってたこととかなり違うからね。…それにしても」
 エミルが微笑んで首を振った。
「…すごいな」
「そんな。僕なんてまだまだです」
 謙遜ではなく竜は本気で首を振った。崖で見たエミルの魔法がまだ頭に心に強く焼きついている。
 エミルは声を立てて笑った。
「まだまだなのはわかってるよ。何度も言うけど、竜は魔法を始めてまだ3日目なんだぞ。つまり、まだまだこれからもっとすごくなるわけだ。…さて、次はどうする。腕時計ベルトか、それとも…」
 エミルが眉を上げてみせる。竜はうなずいた。
「やってみたいです。マルギリス」
「…だろうな。少し休むか」
「いえ、大丈夫です」
 強がりではなく本心だった。不思議と疲れていない。
「よし」
 エミルはリュックサックのポケットから黒い箱を取り出し、マルギリスをつまみ出して竜に手渡した。
 ひんやりとしたマルギリスの結晶を左手の掌に載せ、竜は背筋を伸ばした。ほとんど無色透明の、淡い朱鷺色の結晶体を眺める。今日の朝初めて見たとき、綺麗だけど近寄りがたいと思った。今はそれがかえって好都合に思える。個人的にならない方がいいのだ。
 深い呼吸を二回して、マルギリスに意識を集中する。自分の内と外に何かの反応を感じる。冷静に頭の中を探る。言葉がどこかからやってくる。
 解き放て。
 頭の中でそう言うと、レウリスの時のように、もう少しで扉が開くような手応えが返ってきた。力を加える。まだ扉は開かない。さらに力を加える。まだ開かない。竜は渾身の力を込めた。
 途端に辺りの明るさが増し、竜は思わず顔をしかめた。同時にグラスハーモニカのような音が周りの空気を満たした。一つだけではなく、いくつものグラスハーモニカが一緒に鳴っているような、パワフルな音。まるで空気に隙間がないような、空間が全て音だけで満たされているような感じがする。
 竜は掌の上で振動のためぼんやりとして見えるマルギリスをしっかりと見つめ続けた。旋律に気を取られる心配はなかった。誰かと身体全体を使って綱引きをしているような、または閉まってしまいそうな重いドアを全身を使って押し開け続けているような、あるいは強い向かい風に押し戻されまいとしているような、一瞬たりとも気が抜けない緊張感があった。
 やがて、音が少しずつ小さくなり、それとともに周囲の眩しさも少しずつ薄れていった。マルギリスの振動が止まり、色が、透明感が失われ、最後にその形も失われた。竜はそっと息をついて、エミルを見上げた。
「やったな!」
 満面の笑みでエミルが片手を上げた。
「今朝あんなに心配して損したよ。まったく竜、なんて奴だ」
 竜も笑って右手を上げてハイファイブした。そういえば、あんなに心配したのは今朝のことだったんだ。なんだかずっと前のことのように思える。
「でも、レウリスの時よりもやっぱり力がいりました。精一杯押さないとだめっていう感じで」
「疲れたか」
「少し。でも水泳の練習の後みたいな疲れ方です。今朝小石を歌わせた後みたいじゃなくて」
「それなら大丈夫だろう。でもちょっと休んだ方がいいな。リルでも食べるか」
「はい!」
 エミルに続いて竜は元気よく立ち上がった。
「座って休んでろ。採ってくるから」
「大丈夫です。本当に、そんなに疲れてるわけじゃありませんから」
 練習の間中大人しく近くに伏せて待っていたライラも、喜んでついてきた。
 リルはすんなりと背が高く、すべすべとした、光の加減によってはほのかに銀色に光る淡い灰色の木で、葉の色も少し銀色がかかったような淡い灰緑色だった。たくさん生っている実は、展望台でエミルが話してくれたようにマスカットのような綺麗な緑色をしていて、その艶々としたまん丸の実が三つずつ固まってあちこちに生っている様子は、まるで絵のようでとても綺麗だった。
「こういうちょっと銀色がかってるのはまだ熟れてない。こういうグリーンのが食べ頃だ」
 説明してくれながら、エミルが一房採ってくれる。明るいサップグリーンの丸い実が三つ。
「皮ごと食べてもいいし、剥いてもいい」
 竜は皮ごと一粒口に入れた。口の中で噛むと、薄い皮が破れて甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がった。なんとなく葡萄のような食感をイメージしていた竜は、果汁の多さにびっくりした。唇の端から果汁がこぼれそうになって、慌てて飲み込む。美味しい。グレープフルーツを少し甘くしたような味がする。
「すっごく美味しいです」
「そりゃよかった」
 エミルが自分も一つ口に放り込みながらにっこりする。
「水分たっぷりですね」
 言いながらもう一つ口に入れる。果肉は柔らかくて、とにかく果汁がたっぷりなので、食べているというよりは飲んでいるというような感じがするくらいだ。
「そう、小さい子なんかは、リルの木をジュースの木って呼んだりするね」
 なるほどと竜は頷いて、三つ目のリルの皮をそっと剥いてみた。皮は簡単にするりと剥けて、エミルが言っていたように、サップグリーンの皮の中は淡いピンク色だった。水分を、形を保っていられる限界まで含んでいるといった感じの、半透明のゼリーのような実だ。口の中に放り込む。美味しい。思わずうーんと声が出る。
「ジャムにするなんてなんだかもったいない気がします」
「僕もこうやって生で食べる方が好きだよ」
 もっと採ってくれながらエミルが言う。熟している実の多くは上の方になっていて、竜の背では届かない。竜の後ろでライラがひゅうんと言った。
「ライラにあげても大丈夫ですか」
「もちろん」
 ライラにあげると、喜んでごっくんと丸呑みしてしまったので、反省した竜は、次のリルからは皮を剥いて半分に割ってあげることにした。割るといっても、きれいには割れないし、ぐずぐずになって果汁がたくさんこぼれてしまう。エミルがからかうように笑って、
「過保護だな、竜は。魔法で二つに分けてごらん。言葉通り、リルが二つに分かれるところをイメージするんだ。ナイフで切るイメージはだめだ。手の上だからね。危ないから」
「はい」
 竜はやってみた。やっぱり少しは果汁がこぼれてしまったけれど、手でやるよりずっときれいに割ることができた。
「エミル、この後なんですけど」
 草の上に座ってライラと一緒に半分こしたリルを食べながら、竜は言った。
「『物を作り出す魔法』のお手本を見せてもらえませんか」
 木の下に立ってリルを選んでいたエミルは、振り返っておかしそうに眉を上げた。
「またお手本か?」
「はい。さっき『歌わせる魔法』を見せてもらって、すごくよかったから…」
「いいよ。同じベルトでいいか?」
「はい!」
 竜は、急いで両手をジーンズで拭きながら、りんごの木の下に置いてあるエミルのリュックサックのところまで走っていって、前ポケットに入れさせてもらっていた紺色の腕時計ベルトを取り出した。ベルト穴の開いている方を、リルの木の下に腰を下ろしたエミルに渡す。エミルはさっと眺めると、竜にベルトを返した。
「よし。じゃ、いいか」
「はいっ」
 あんなちょっと眺めただけでできるのか…。改めて畏敬の念を覚えながら、竜は思わず正座をし、固唾を飲んで見守った。
 レウリスの時と同じように、またすうっとあたりの空気が変わる。高いエネルギーのようなものがエミルに向かってすごい勢いで凝縮されていく。あぐらをかいたエミルは軽く閉じた両手を膝の上に置いて目を閉じていた。表情はリラックスしているけれど、全身をめぐる高い揺るぎない集中力が感じられる。
 やがてエミルの前の草の上にぼんやりと何かが現れ始めたかと思うと、見る見るうちに色形がはっきりしてきた。紺色の腕時計ベルトだ。エミルがふっと目を開け、エミルの周りに凝縮していた力が、風に吹かれた霧のようにふわっと拡散していった。エミルが苦笑しながら腕時計ベルトを取り上げる。
「まいったな。ずいぶん久しぶりだったから…ちょっと手こずった」
 手渡してもらったベルトを竜は穴のあくほど見つめた。すごい。ちゃんとした、きれいな紺色のアルマンサの腕時計ベルトだ。左手に持っていた本物のベルトと並べて見比べてみる。完璧だった。どっちがどっちだかわからない。
 目を皿のようにして二つを見比べている竜の前で、エミルはあぐらを崩して脚を前に投げ出し、後ろ手をついて大きく息をついた。
「…すごいです。さすが。完璧です」
「お褒めに預かり光栄です」
 エミルがおどけて言って笑った。
「ずいぶん力を使うもんだな。忘れてたよ」
「あんまりやらない魔法なんですね」
「そうだね。最後にやったのは多分…真がいた時じゃないかな。いや、大学に入る時だったか」
 竜はびっくりした。
「そんなに昔なんですか?」
「これは、何ていうかな、実用的な魔法じゃないからね。使い道がないから」
「だって…例えばこれで色んなものを、お金とか、宝石とかを作っちゃったりする人はいないんですか?」
 エミルは笑って、
「これはかなり上級レベルの魔法なんだ。だから簡単なもの、例えばこういうベルトとかリボンとかでも、できる人はそんなにいない。しかも一つ作るのだって結構疲れるからね。お金とか宝石とかなんて、それこそものすごく難しいし、それに、魔法で作り出したもの、つまり偽物は、魔法ですぐにそれとわかってしまうから、そんなもの作ったところで何の得にもならない」
「じゃ、この魔法ってどんな時に使うんですか?」
「魔法の実技能力を測る時、つまりテストだね」
「ああ、なるほど…」
 竜は妙に納得した。
「これが完璧にできるくらいの集中力の高さと質があれば、文句なしに上級レベルっていうことになる。まあだからといってそれならどんな魔法もできる、っていうことにはならないけど、でも一つの目安にはなるわけだ」
 竜はうなずいて、再びエミルが作り出した腕時計ベルトを眺めた。
「…ちょっと手こずったって言ってましたけど、どういう風に?」
 エミルはちょっと困ったように笑って、
「うーん、それは感覚的なものだから、表現が難しいけど…。そうだな、何かの色とか形とか材質とか手触りとか、そういうことにこんなふうに強く集中するってことは普段あんまりないから、その辺の力の持っていき方の加減とか、集中力を向ける方向や角度なんかが、ちょっと難しかったっていう感じかな」
 言葉を探しながら説明してくれた。
 色、形、材質、手触りに強く集中。力の持っていき方の加減。集中力を向ける方向や角度。竜は頭の中で反芻した。
「レウリスの時と違って、目を閉じて集中してましたね」
「手こずったからね。力も結構要るし」
「あと、本物のベルトを本当にさっと見ただけだったでしょう」
「じっくり時間をかけて見たって構わないんだよ。人によってやり方が違うからね。例えば僕は、まだ意識の空間を使ってた頃、これをやる時には、写真を撮るような感じで作り出したいもののイメージを意識の空間に取り込んでた。カシャッと一瞬で光の球の中に写す感じだ。だから今も、対象をさっと見るだけなんだ。竜はもっとじっくりイメージを写しとっていくだろう?それが竜のやり方なんだから、それでいいんだよ」
「わかりました」
 竜はうなずいたけれど、心の中では、エミルのようにさっと見るだけの方が格好いいなあと思った。あんなふうにできるようになりたい。エミルのようになりたい。
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