9日間

柏木みのり

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第36章 不安

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 「おや、二人かい」
 竜がりんごの木の下のテーブルに頬杖をついてぼんやりしていると、カールが果樹園の奥から歩いてきた。ライラが立ち上がって嬉しそうに迎えに行く。
「お帰りなさい」
「ただいま。エミルは?」
「家だと思います。さっきまで授業をしてくれてたんですけど、僕が健太に魔法電話をかけなきゃいけなかったもので」
「そうか。こっそり授業の様子を見ようと思って向こうから回って来たんだが遅かったか」
 カールは微笑むと、鞄の中から包みを取り出した。
「差し入れのつもりだったが、それじゃ三人で食べよう」
 ピエールのクッキーだった。竜は自分の目が絵文字のようにハート形になった気がした。
「ありがとうございますカール。いただきます!」
 早速チョコレートクッキーに手を伸ばす。やっぱりこれが一番好きだ。
「ピエールがよろしくって言っていたよ。魔法の練習は休み休みやるように伝えてくれって。失神のことを話したのかい?」
「いいえ。でも、昨日プールに行く前に寄った時、疲れた顔してるって言われて…。ちょっと練習のペースを落として、魔法以外のことも楽しみなさいって言われたんです」
「ほう」
 チョコレートとママレードのクッキーをつまみながら、カールは目を細めた。
「彼も素晴らしい才能を持った子だったね。フリアに入学したのは確か14歳くらいだったかなあ。青白い生真面目な顔をした小柄な子で、大きな眼鏡をかけて、授業中はじいっとまるでこちらを睨みつけるようにして話を聞いていたっけ。なんだか眼鏡をかけた小さなフクロウのようでね、目が合うとつい笑い出しそうになってしまって困ったよ」
 竜は想像して思わずうふふと笑ってしまった。あのピエールさんにもそんな頃があったんだ。
「勉強ははかどったかい」
「はい、午前中は。でもランチタイムに健太と話して…」
 竜は健太の話をした。
「今も、健太とその話をしてたんです。でも、なんていうのか…」
 竜はバタークッキーを半分に割ってライラにあげながら、考え考え言った。
「健太は、細かいことをたくさん見落としてるんです。僕が色々指摘すると、初めて気がついて、『それは考えてなかった』とか、『忘れてた』とか、『気づかなかった』とか…。なんだか心配になります。きちんと考えて細かいところまで計画を立てておかないと困るのに…」
 カールは小さく微笑んだ。
「それはね、竜、きっと健太君は本当にこっちに残るつもりがないからなんだと思うよ」
 竜は目を丸くした。
「そうでしょうか」
「残りたいとは思っていると思うよ。心からね。でも同時に、自分にはそんなことはできないって心のどこかでわかっているのだと思う。だから細かいことまで考えが至らないし、実際的な計画が立てられないんだよ」
 カールは手にしたコーヒークッキーに目を落とした。
「昨日の朝、健太君と散歩をしながら話をしたけれど…、あの子は心のまっすぐな子だ。曲がったことが嫌いで、いつも正しいことをしようと心がけているような…。そしてとても優しい子だよ。そんな子が、そんな形でこの世界に残れるわけがない。ご両親を悲しませ、竜に面倒をかけて…。きっと、やっぱり向こうに帰ると言い出すと思うよ」
 カールの静かな言葉に竜はゆっくり頷いた。確かにそうかもしれない。「やっぱり帰る」と言う方が健太らしい気がする。でも…。
「…すごく辛いでしょうね」
「そうだね。可哀想に」」
 竜の胸がちくりちくりと痛み出す。
 僕にあの魔法ができてさえいたら…。
 もちろん、こっちから向こうへの移動中にマルギリスの歌によって健太の脚の魔法が守られたとしても、向こうの世界に到着した後も魔法がそのまま続くかはわからない。でも、可能性はゼロじゃない。ゼロじゃなかったのに。僕があの魔法をできないから、可能性がゼロになってしまったんだ。

 「竜、明日の朝大学に行くけど、一緒に来るか」
 夜の授業を始める前に、竜の部屋の椅子に座ったエミルが言った。
「マルギリスが一つしか残ってないだろう。予備のためにあと二つ調達できたから、研究室まで取りに行くんだ」
「はい、行きます!」
「よし、じゃあこの前と同じように朝早目に出よう。明日は父も午前中からレッスンがあるそうだから、すぐ帰って来なきゃならないけどな」
 じゃ、ピエールさんのところには行かれないか…。竜はちょっと残念に思ったけれど、またすぐ帰ってくるんだし、と思いなおした。
 午後に比べると勉強はずいぶんはかどった。健太が向こうに帰らない時のためのプランも、少なくともキャンプ場でどうするかということについてはかなり細かいところまで決めることができたので、竜も勉強に集中できるようになっていた。
 今夜は早くも魔法数学や魔法物理学が登場して、竜はわくわくした。
「数学と物理を一通りやってから、魔法数学と魔法物理を始めるのかと思ってました」
 休憩の間、新しく出てきた、今まで見たこともなかったくねくねした記号を上手に書けるように練習しながら、竜は言った。
「いや、こういうふうに絡めてやっていく方が手っ取り早いしわかりやすいからね。確かに、普通は魔法数学と魔法物理と魔法化学は高校からなんだけど、僕は小学生の時から父にこういうふうに教えられてたから」
「ほんとにラッキーでしたね。カールみたいな人がお父さんで」
 心からそう言うと、エミルはちょっと笑った。
「そうだね。今はそう思えるようになったけど。昔はもっと普通の父親が欲しいって思ったこともあったよ。勉強なんか教えてくれない、普通の父親がね」
 授業が終わると、部屋を出がけにエミルは言った。
「明日は6時頃出よう。それでこの前みたいに帰りにピエールのところで朝食でどうだ」
「やった!」
 竜は嬉しくて椅子の上で体を弾ませた。エミルが微笑んで頷く。
「よし、じゃ決まり。おやすみ竜。ライラも」
「おやすみなさいエミル」
 嬉しいため息をついてから、竜は一通り今日の授業のノートを見直し、それから日記に取りかかった。健太なしで向こうに帰った場合のプランは、あとで必要な時にちゃんとすぐに見直せるように別項目にして、枠線で囲っておいた。
「これでよし、と」
 ひとり呟いてペンを置き青い手帳を閉じると、不意に妙な気持ちが竜を襲った。心の裏側のいつもぬくぬくと暖かいところを、突然冷たい風がすうっと通り抜けたような、変にぞくりとする感覚に、竜は思わず身を固くした。その感覚からわずかに遅れて、言葉が心に到着した。
 僕、本当に戻ってこられるのかな。
 その言葉に続いて、他の言葉たちが雪崩のように押し寄せてきた。
 マルギリスの歌が効かなかったら?
 マルギリスの歌の長さが足りなかったら?
 記憶をなくしてしまったら?
 ああ、どうしよう。記憶をなくしてしまったら!
 だって、誰も試してみたことがないんだもの。もしかしたらマルギリスの歌でも記憶は守れないのかもしれない。
 どうしよう。どうしよう。どうしよう。
 帰ってこられなかったらどうしよう。
 忘れてしまったらどうしよう。
 パニックになりかかった自分を宥めるように、竜は両手で宙を抑えるような身振りをして、大きく息をついた。
「落ち着け」
 小さく声に出して言うと、竜は冷静になろうと努めながら机の上を片付け、机の上の明かりを消し、魔法で光を出した。ちょうどいい柔らかい明るさに光を調節し、竜はベッドで眠っているライラの傍にそっと座った。ライラの大きな温かい顔に触れる。ライラが大きな黒い目を開けて、パタパタと尻尾をベッドに打ちつけた。我慢しきれずに、言葉が口をついて出る。
「…どうしようライラ。もし覚えていられなかったら」
 言った途端、不安で胸の奥がぎゅうっとなる。どうして?どうしていきなりこんなふうに不安になるんだろう?
「もし二度と戻って来られなかったら…」
 嫌だ。そんなのは嫌だ。でも、もし戻って来られなかったら?
 …もしかして僕は本当に戻って来られないのかもしれない。それどころか、この9日間のことも覚えていられないのかもしれない。今日は8日目。あと明日と、明後日の3時頃までしかない。どうしよう。どうして今まで平気でいられたんだろう。マルギリスの歌が効くって100%確かなわけじゃ全然ないのに。絶対確実に戻って来られるってわけじゃ全然ないのに。嫌だ。怖い。帰りたくない。
「帰りたくないよ。ライラ…」
 竜はライラの温かい首元に顔を埋めた。
「戻って来られなかったら…。あと1日半しか一緒にいられない。次の次の夜には僕はもういないんだ。戻って来られなかったら、明後日でもうお別れなんだ。その後はもう二度と会えないんだよ」
 泣き声が出そうになって、竜は言葉を切った。なんて恐ろしい言葉たち。でもなんだかものすごく現実的に聞こえる。戻ってくる、とか、移住する、なんていう言葉たちよりもずっと本当らしく聞こえるのはどうしてなんだ。
 嫌だ。帰りたくない。ここにずっといたい。ここに戻って来られない危険を冒してまで、どうして帰らなきゃいけないんだ。
 …ああ、でも、僕が帰らないなんて言ったら、エミルやカールやマリーは僕のことをどう思うだろう。親を悲しませる親不孝者。臆病者。自己中。みんなにがっかりされたくない。でも、二度と戻って来られない方がもっと嫌だ。だけど、ああ、やっぱり父さんや母さんに何も言わず行方不明になるなんてできない。それに僕が一度向こうに帰らないと、健太のお母さんに健太の手紙を渡すことができない。真もこっちに帰ってこられなくなってしまう。エミルもカールもマリーも真に再会できるのを楽しみにしているんだ。それに僕が帰らなかったら、きっとエミルは真を迎えに行くために例の魔法の実験をするに決まってる。もしそれが失敗したら…。
 耳元でライラが小さくひゅうん、と言った。竜が顔を上げると、ライラも身体を起こして、黒いつぶらな瞳で竜をじっと見つめた。
 一緒にいるでしょ、とその目が言っていた。今、ここに、一緒にいるでしょ。どうして悲しいの?
「…そうだね、ライラ。一緒にいるよね。もう会えないって決まったわけじゃない。会えないって決まったときに悲しくなればいいんだよね」
 ライラの頬を撫でながら竜は呟いた。
「わかってるけど…。わかってるんだけどさ…」
 ため息が出る。一体どうしちゃったんだろう。
 時計を見る。11時を少し過ぎていた。明日の朝は6時に出るんだから、もう寝なくちゃ。睡眠は大事だ。明後日、体調を崩してマルギリスをきちんと歌わせられないなんてことになったら、記憶を保てない可能性を余計大きくしてしまう。
 まだ胸に塊がつかえたような気持ちでライラにおやすみを言い、宙に浮かんでいた光を消し、ハーブの香りのするベッドに潜り込んで竜はぎゅっと目を閉じた。言葉が容赦なく響いてくる。このベッドで眠れるのも今日と明日だけ…。竜は思わず両手で耳を塞いだ。考えるな。自分に言い聞かせた。嫌なことは考えるな。とにかく眠ろう。明日になればきっと気分もよくなる。今日は健太のことで色々心配したりしたから、頭が変な風に疲れたんだ、きっと。

 約1時間後、竜は月明かりに照らされた果樹園にいた。どうしても眠ることができなかったのだ。こんなことは初めてだった。しばらくは次々に襲ってくる情け容赦のない言葉たちを無視しようと努めながら、ため息つきつき輾転反側していたのだが、ついに起き上がって服を着て、ライラにちょっと行ってくるねと囁き、窓から飛んできたのだった。飛んでいる間も、もし戻ってこられなかったら、こんな風に飛べることももうなくなってしまうのだから今のうちに飛んでおかなきゃ、という気持ちと、そんなことない、ちゃんと戻ってこられる、という気持ちが頭の中でせめぎ合って、ちっとも楽しめなかった。本当に、一体どうしちゃったんだろう。
 リルの木のところまで飛んでいって、浮かんだままリルの実を摘んで口に入れる。ひんやりした甘酸っぱい果汁が口の中いっぱいに拡がる。おいしい、と思うときとは違うため息が出る。これを味わえるのも明後日の朝までかもしれない…
「いい加減にしろよ」
 腹立たしくなって小声で自分に言ってみる。まったくどうして急にこんな風になるんだ。数時間前までは大丈夫だったのに。
 ふと思い当たったことがあって、竜はリルを摘む手を止めた。もしかして、失神の後遺症とか?スティーブンの言うことを聞かないで、充分休まずに泳いだり魔法の練習をしたりしたから?それならこんなことをしていないで、ちゃんとベッドに入って休まなくては。こんな精神状態が続いたら、本当にそのうち頭がどうかなってしまう。
 竜はそっと草の上に降り立った。風はない。果樹園は月明かりの中しんと静まりかえっていた。こんな風に一人きりで夜の果樹園にいるのは初めてだった。エミルがいてくれたらな、と思った竜は、途端に目の前が涙でぼやけて、慌てて目をしばたたかせた。エミルのことを忘れてしまったらどうしよう。もう二度と会えなかったらどうしよう。そんなのは嫌だ。嫌だ。どうしよう。泣くまいと歯を食いしばっても涙は止まらなかった。竜はたまらずしゃくり上げた。少しの間、竜は淡い銀色に光るリルの木に背中を預けて泣いた。
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