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二章 ミコのお仕事

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 眼下で私を讃えてくれてる方々に、手を振ってみる。湧き上がる歓声。
 気持ち良い……なんて思えない。彼らの期待に応えなくちゃいけないのだ。
 私は手を広げながら、じりじりと後ずさりした。さぁ始めますよ~ってな体を取ってみたけど、何も起こる訳がない。
 雨乞いって、どうすれば良いんだろう。
 背後に控えているヒタオを、そっと振り向く。と、察して、ヒタオが耳打ちしてくれた。

「以前のミコ様なら、空に願うだけで雨を降らせておいででした」

 マジか。

「願っ……うだけって……空を見るだけ? 火を焚いたり、何か木の枝を振ったりとかしないの?」
 思わず大声を上げそうになり慌てて小声にしたけど、下の人たちに聴こえただろうか。あの嫌味野郎に聴かれてなかったら良いけど。
 私の質問に、ヒタオが怪訝な顔をした。
 あっ、そういうのはナシなのね。
「先ほどなさったように手を広げられ、空に祈っておいででした。とても神々しいお姿で……」
 と言いかけて、尻すぼみになるヒタオの声。うなだれ、頭を下げてしまった彼女は、もう話しかけても応えてくれない。
「あ、ちょっ……。ねぇ」
 などと困った声を出す私は、さぞかし神々しさがないことだろう。
 が、どれほど凄かったのか分からないけど、あまりに今の私が情けなくて話す気も起きないのだろうか。
 きっと、自分たちの食い扶持を減らしてまで世話してるのに、だもんな。

 だって。
 祈るだけとか、訳わかんない。
 超能力の世界じゃん。ってか超能力だって、そこまでの、そんな能力なんてアニメにもないんじゃないかな。やれてもストームぐらいじゃね?
 ただし何も分からないなりにも、断片的な情報ではあるけど、なんとなくは想像できる。
 ツウリキ、という言葉。
 これは……神通力じんつうりきの略じゃないだろうか。
 神様がかってるって考えたら、モーゼレベルは出来そうだもんね。雨を降らせられるなら、そりゃ海なんて真っ二つでしょうよ。聖書の絵本でぐらいしか見たことがないけど、モーゼだって手を広げてただけよなぁ。
 なんて考えながら、手を広げてみる。
 おお……と、どよめきが上がる。
 なにやらゴニョゴニョと声が聴こえる。段の下にひしめき合ってる皆さんが自ら、めいめいに祈っているのだ。どうか、と聴こえる。雨を……と。

 できるものなら、やってあげたい。
 見渡した感じ、水の気配が見当たらない。この広場の向こうに畑らしきものが見えるけど、干上がってる。その向こうには森が迫っているけど、瑞々しさが感じられない。
 けど木々が枯れ果ててしまうまでには、至っていない。そこまでになっていたら、森の前に人がやられていることだろう。ひょっとしたら見えないところで、もうバタバタと人が死んでいるかも知れない、とは思うけど……。
 皆さん、痩せこけている。お年寄りばっかりみたいに見えるけど、実は案外若いんじゃなかろうか。子供の姿はない。家にいるのかも知れない。そうであって欲しい。

 みんなが固唾をのんで、私を見つめている。
 前任者……って言い方もおかしいんだけど、この身体にいた前の子は、ここに立って一瞬で雨を降らせたんだろうか? どれだけ見上げても、どこからも雨が降りそうな気配が、ないんだけど。
 それとも私の手から水が湧き出すような、そんなカラクリでもあるんだろうか?
 それだったら、科学的に超能力ジャンルでアリな気がする。H2Oじゃん。空気を温めるとか冷やすとか何かして、水蒸気を発生させて集めれば、水になるよね!
 なんか出来そうな気がしてきた!

 ……出来る訳ないし。

 もし出来たとしても、ここにいる皆さん全員の喉を潤すほどの量が作れる気がしない。
 いや本当に出来るなら、ほんの少しだけでも今すぐ作るべきだ。どこか寒いところで火を起こして、それから空気を冷やす。結露みたいな。ガラスとかないのかな。ないよな。
 ってか今、夏だし。
 寒いところって。洞窟とか?

 いや、それなら、その前に地面を掘る方が早いよね。地下水とかないのかな。穴を掘って……。
 ……誰が掘るの。痩せこけた皆さん?
 これだけ祈られてる前で。
 雨を降らすこともせずに。
 さぁ皆さん、穴を掘りましょう、って?
 そもそも地下水ぐらいのことは、この世界の人たちだってやってるんじゃないかな。その上で、それでも水がなくなって、こうなってるんじゃない?

 それとも、そんなにホイホイ簡単に神頼みする世界なの? ここは?

 こんなに必死に?

 毎回?
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