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第四十九話 双子

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 一茶さんは、ポケットラジオの周波数を確認しながら、つまみを回していた。
 「今、彼らは戦時中の日本にいるって言ってたけど本当に無事なのかい?」先生の言葉に一茶さんは答えることはなかった。
 「聞いてるかい?」すると一茶さんは、まるで再び争いが始まったのかと思うくらい鋭い目つきで先生を睨んだ。
 「今周波数の音聞いてんの。」そう言うと今度は俺の方を見た。
 「時哉君ちょっとこのおっさんに説明してくれる?」すると先生は、不思議そうな顔でこっちを見ていた。
 「何?お前はわかるのか?」
 「多分その無事の時に助けに行くつもりだから愚問なのでは?」すると一茶さんはため息を吐きながらラジオのイヤホンを耳から外した。
 「どちらも不正解。」いや流石に先生がわからないなら俺もわからん。
 「じゃあ何?」先生が尋ねた。
 「今周波数の音を聞いてどこに穴があるのかを確認してたの。だから話しかけてほしくなかったけどもう見つけたから大丈夫です。」なんとも不思議な発言だ。
 「で、どうしたら良いの?」
 「あの様子だと彼らは帰る手段がない。単純に彼らを迎えに行く。それが終わったら、各々の世界へ送り、時空を安定させる。」
 「ってことはお前ともお別れか。」先生は一茶さんにそう言った。
 「何言ってるんですか?先生は向こうの世界の人なんだから・・・」すると一茶さんが話を遮った。
 「はい、はい、そこのところは後でゆっくりお話できるから、どうやらこの辺の穴が空きすぎて、あとちょっと何かが起こるとどうなることやら。」
 「どうなるんだよ?」先生がそう言うと、一茶はあきれた顔で説明を始めた。
 「良いかい素人諸君。先天的に空いている穴には必ず時空連続体の修正機能があるわけですよ。つまり彼らが余計なことをしなければ、帰ってこれるってわけ。」
 「じゃあ俺も黙っていたら帰れたってこと?」
 「いや、時空連続体の修正が行われれば、親父は死ぬ。」
 「あ、そっか。」この親子ずいぶんと淡白である。
 「で戦時中の時空が今その修正機能が発動されるギリギリって感じ?これでわかる?」一茶さんの説明は恐らく俺も先生も分かっていると思う。
 「じゃあ早速、行きますか。」そう言うと一茶さんは何かボールのようなものを手に取った。
 「それって・・・」先生がそう言いかけると、一茶さんはボールを投げた。
 視界に辺りに電流が流れると一気に景色が変わった。だが、いつもみたいな体の副作用的な痛みや酔いはなかった。
 「全然耳が痛くない。」すると一茶さんは得意げに説明を始めた。
 「今回は元ある穴とポケットラジオを繋げてるだけだから安定してなおかつピンピントで目的地に来れるというわけよ。」
 「ピンポイントってなんで分かるんだよ?」先生がそういうと一茶さんはそのまま自分が向いている方向の先を指さした。俺はその指の先を見た。そこには半ベソをかいてる泰斗がいた。
 「泰斗。」俺の声に泰斗はゆっくりとこっちを見た。
 「平ちゃん?遅いよ。」泰斗はのろのろ寄って来た。
 「マーシーは?」泰斗は黙って上を指さした。俺はそのまま一茶さんに視線を向けた。一茶さんもその状況を見ていた。
 「戦闘機に通信装置があるはずだからそれを使えば・・・」その瞬間電流が流れるようなあのいつもの音が耳に入ってきた。
 「なんで?」
 「もしかしたらあのボールを使ったのかも・・・」泰斗がそういうと一茶さんも何かを思い出したような顔をした。
 「まずいことになったかもしれないぞ。」一茶さんは天候の様子を見ながらそういうとポケットラジオのスイッチを入れた。
 「やっぱり。」
 「どういうことですか?」
 「恐らく今起きているこの流れは元々存在しない時空。そして今時空に何らかの刺激が加わったことで、時空連続体の修正が始まった。」
 「ってことはつまり・・・」
 「この世界の先も無くなってしまう。」先生の言葉の後を一茶さんが付け加えたようだった。
 「じゃあどうすれば?」なぜだか知らないが俺は今必死だった。別に俺の人生どうなっても正直よかった。それにここにいる人たちは関係ない話。なのにみんなが必死である理由もわからなかった。
 「俺のこのラジオはもう穴とのつながりが絶たれたせいでガラクタだ。」一茶さんはそう言いながら苛立ちを隠しきれていなかった。
 「マーシー。」泰斗はぼーっと空を見ていた。
 俺はその時、ふとその時ポケットを触ると、ポケットラジオが入っていた。俺はポケットラジオをポケットから取り出した。
 「こいつは?」ポケットラジオを見た一茶さんは俺に駆け寄った。
 「よし、こいつを使うぞ。」そう言うと一茶さんはポケットラジオをいじり始めた。すると先生が一茶さんと俺の方へと向かってきた。
 「一茶。」一茶さんは無言で先生を見た。
 「俺がやる。」一茶さんはその一言を聞くとまたラジオを動かし始めた。
 「もういい。お前のその気持ちは・・・」
 「分かってる。」一茶さんは先生の言葉をさらに大きい声で遮った。少し鼻が赤くなっているようにも感じた。
 「もう俺もそのつもりだから、ちょっと黙ってくれ。」俺はここ会話の意図を理解できてしまった。俺は空の彼方に消えたマーシーの消えた方角を見つめた。
 「一茶さん、マーシーは助けられるんですか?」一茶さんの手が止まった。難しい顔をした。
 「はっきり言う。彼を救えるほど時空はもうもたない。」
 「ちょっと待ってくれよ。じゃあマーシーは・・・」泰斗が思わず取り乱したように一茶さんに詰め寄った。
 「もし!」一茶さんの強い口調で泰斗は黙った。
 「一発で彼の戦闘機の無線周波数を合わせられたらワンチャン助けられるかもしれない。」
 「分かりました。じゃあ俺がやります。」泰斗が名乗り出た。
 「それって一か八かで失敗してもいいと思ってないか?」俺は淡白に言い放った。泰斗はすぐには応答しなかった。
 「そりゃ、そんな奇跡みたいな事、起こせるかわかんねぇけどでも、それであいつが死ぬなら俺も一緒に・・・」
 「じゃあ、俺が行く。」みんなが俺を見た。
 「なんだよ。お前が行ってなんか変んのかよ?」泰斗は興奮を抑えられない様子だった。
 「俺は絶対にマーシーを助ける。そんな奇跡みたいなこと、双子の兄弟じゃなきゃ起こせないだろ?」俺はなんか知らないが、助けられる確信があった。
 「双子に兄弟?」泰斗はよく分かっていないようだった。すると一茶さんがいろいろラジオの設定を終え、向かってきた。
 「確かに適任だな。」そう言うとラジオを渡した。
 「いいか?一回きりだ。電流が見え始めたらすぐ変えるんだ。」俺は黙ってうなずいた。
 「よし、みんな下がるぞ。」先生は心配そうな、
泰斗はよくわからない顔をしていた。
 俺はラジオのスイッチを入れた。すぐに電流が見えた。俺はすぐに周波数を俺がいつも聞いているお気に入りの番組に変えた。
 すると三人の姿が消えるのと同時にもやっと人影が現れた。
 「平ちゃん・・・」俺はイヤホンの片方を耳に突っ込み再び電源を入れた。一瞬すぎて喜ぶ暇がなかったが、無事マーシーを奪還できたようだった。
 しかし、電源を押したはずなのに周りの景色が歪み始めた。しまいにはマーシーも歪み始め、レンガで殴られたような頭痛が襲った。
 俺は痛みのあまり気を失おうとしていた。その時、微かに人影が見えた。
 「先生?・・・」

 気がつくと俺はいつもの部屋のベッドで寝ていた。時刻は9時。出勤の時間だ。
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