君と暮らす事になる365日

家具付

文字の大きさ
1 / 52

しおりを挟む
帰宅ラッシュは心底しんどい、それが電車通勤ならばなおさらだ。環依里(たまき より)はよれよれになりながらも、何とか自宅のアパートの階段を上がっていた。
ここの所人材不足のあおりを受けたか、どうにも仕事の量が多くて大変だ。
幸いブラックではないため、こうしてまともな時間に帰っている物の、疲労感は半端な物じゃない。
疲れ果てた体は、とにかく休息を求めていた。
明日から休みだ、土日祝日が休みの職業でよかった。とりあえず、連休である。さらにその後は諸事情により有休をとっている。連休って素晴らしい。
本日はもう、風呂に入って眠るだけでいい。空腹は限界を突破し、空腹と感じる事すらできないほどである。
書類だのディスプレイの光だので、まだちかちかする目を揉みながら、依里はやっと階段を上がり終えた。
鉄製の、足音がよく響く階段。
来客や郵便配達があった場合、一発で気付く、防犯にいいのか何なのか、いまいち判断に苦しむ階段である。
そこの階段のすぐ近く、角部屋が彼女の自宅であるのだが。
既に暗くなり、アパートの外の照明がつく中で、その男は立っていた。

「……あ?」

男だ、それは暗くとも見えにくくとも、すぐわかる。それ位男でしかない。
そしてなんだか知らないが、依里の自宅の扉の前に、海外旅行に行くときに使うような、大きな大きなスーツケースを携えて立っている。
これで見知らぬ男だった場合、依里は一発で警察に通報しただろう。
しかし。
彼女は黙って相手の横顔を眺めた。
この晩秋でも真っ赤な毛糸の帽子(頭頂部に白いぽんぽん付き)を被っている、日本人の割には立体的な顔立ちの、ぶっちゃけイケメンである。やけに手足が長く、そのバランスが大変によろしい。針金人形の様ではない、きちんと筋肉を感じる体つきなのが、服越しにもわかる男だった。
男らしく太い眉も、一般的に評しても、濃くてやや長い睫毛も、妙に見覚えがある。
違うわ、と彼女は心のなかで己につっこんだ。見覚えがあるなんてものじゃない。
この男を、依里は嫌と言うほど知っていた。
しかし知っているからといって、ここに突っ立っていられる理由は知らなかった。
かん、と足音がよく響く、金属の階段で立てた足音が響く。
そこで男がこちらを振り向いた。寒いのかつけていた耳当てのせいで、音が遠かったらしい。
そして、近くで響いて驚いたのもわかった。
相手の、ちょっと垂れた目が彼女を確認する。
情けなく崩れ、相手がとてもいい笑顔で言った。

「ヨリちゃん! 一緒に暮らそう!」

「まてどうしてそこでそうなった!? あんた彼女と暮らしてると言う自宅はどうしたの!?」

彼女の言葉に、そこまでの情報が流れて来る、知り合いの間では一級品有名人の、とんでもない言葉が炸裂する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

処理中です...