君と暮らす事になる365日

家具付

文字の大きさ
22 / 52

22

しおりを挟む
「ええと、つまり、お孫さんを、同棲先から連れ出してほしい、という事なんですね?」

「そうなの、あの子が、おばあちゃん助けてって、泣くものだから」

「……どうして、私を呼び止めて?」

「私が突撃するよりも、あなたが友達のふりをして、玄関を開けてもらった方がいいと思って……」

それにあなた、なんだかとっても強そうだから、とお婆さんが言う。依里はそれに対して反論できなかった。なにせ中学時代は近隣で名の知れた人間だったせいだ。
依里は実家にいた叔父が、かなり武術に詳しくて、その叔父に大変懐いていた結果、叔父の技術を軒並み吸収した子供時代だったのだ。
そして中学時代に、近隣の不良に喧嘩を売られ、それを軒並み叩きのめしていた結果、不良ではなかったのに、姐さんとまで呼ばれた過去があった。
依里自身は、売られなければ喧嘩を買わなかったため、友人になってくれる相手もそこそこいたし、理不尽な目にあう女生徒を助ける事もあったため、不良、と扱われた事は一回もないのが、救いだろう。
さてそんな依里は、今でも実家に帰れば叔父さんの稽古に付き合い、体格で勝る叔父さんに、今では互角と言われるほどの腕っぷしになっている。
このお婆さんがそこまで見抜いたかは、分からない物の、ある意味見る目は確かである。

「お孫さんは……つまり年頃の女性なんですね?」

「そうなのよ、息子があまりよろしくない噂のある男と、婚約を結ばせて、同棲なんかさせるから! あの子は嫌だって言えなくて!」

そしてやっと、祖母に助けを求めたらしい。なかなか大変な思いをしているお孫さんである。
よし、助けよう。
依里は話を聞いて、助ける事に協力する事にした。単純だと思うなかれ、同じ女性として、そんな理不尽な目に合っている女性を、放ってはおけないし、おばあちゃんの助けにもなりたかったのだ。

「お孫さんには、気付かれないように、荷物をまとめるように、指示を出しましたか?」

「あの子には、もう連絡してあるの、迎えに行くからねって」

今度こそ助けなくちゃと、お婆さんは言い切った。今度こそとはいったい……と思っていると、彼女は後悔したように言った。

「あの子はちょっと特殊な事情があって、なかなか助けられないで、時間ばかりが過ぎて行ったのよ……」

なるほど。依里はその特殊な事情を、あえて問わなかった。特殊な事情なら、言いたくない事も目白押しだったりするからだ。
誰だって、聞かれたくない事はたくさんあるはずだ。自分もいくつか覚えがある。
そんな事を思っている間に、車は一つの高級マンションまで到着した。

「……ここに乗り込むんですか?」

「ここに孫がいるのよ。あの子に開けてもらうから」

「お孫さんは開けられるんですか? 軟禁されていたりは……?」

依里は小声で問いかけた。そうすると、お婆さんは力強く断言する。

「あのろくでもない男は、あの子を暴力で縛っているけれども、小心者でね。あの子が友達を呼ぶって言う時は、自由にさせるのよ」

それでも、逃げられなかったお孫さんは、きっと、暴力や暴言で、洗脳されかけているんだな……と依里は今までの経験から察した。きっと縋れるのがおばあちゃん一人だったのだろう。
そしておばあちゃんも、けっこう猪突猛進だ。祖母一人で、どうにかできる相手出なかったらどうするのだ、と思う部分があった。
だから、運転手まで巻き込んでいるのかもしれない……
とにかく、と依里は小さなバッグに入っている、皮のグローブに指を通した。いざという時に迎撃できるようにである。
乱暴と言われようとも、これが依里の戦闘スタイルなのだ。苦情は後で聞く事にする。

高級マンションのエントランスで、依里は出来るだけ落ち着いた声で、コンシェルジュに話しかけて、鍵を開けてもらった。元々、友人が訪ねて来ると、お孫さんは連絡していたらしい。
そして運よくだろうか、相手の屑男は留守らしい。チャンスだ。
依里は今を逃したらまたチャンスはなくなる、と即座に判断し、お婆さんとともに、長いエレベーターを上がって行った。

「お孫さん最上階なんですね」

「何とかと馬鹿は高い所が好きって言うじゃない。地震でエレベーターがつかえなくなったら、不自由なのにね」

「そうですね、電気が止まったら何十階も階段を上るんですからね……」

そしていよいよ玄関である。玄関が開くのを待って、そして、運命の対面である。
がちゃり、と扉を開けた女性は、やつれて、目に隈が浮き、疲れ果てた濁った眼をしていた。
だが依里を見て、それからその向こうで、泣きださんばかりにはらはらしている老婦人を見て、涙を浮かべた。

「お、おばあちゃん……」

声にも覇気がない。彼女はしくしくとそのまま泣き出しているし、お婆さんも抱きしめようとしているが、依里の方が行動が早かった。

「お嬢さん、あなたをここから連れ出します。大事な荷物はまとめられていますか?」

見知らぬ女性に話しかけられたその人は、困惑気味に答えた。

「だ、大事なものは手提げ金庫に入れていて……」

「持ち出せますか?」

「なんとか……昨晩、彼の隙を見て荷物の中に」

「じゃあそれだけ持って一緒に来てください。着替えとかそんな物は、当面の分は買えばいいんです。ここでその男の関係者に邪魔されるのだけは、ごめんなので」

「さあ、一緒に帰りましょう、水葉」

「……うん!」

彼女は祖母の声に、涙をたたえながら頷いた。
それからはもう特急で、急いでエレベーターを降り、怪しまれないようにコンシェルジュに、友人と遊びに出かけるという偽りの伝言を残し、依里たちは見事、車の中まで戻る事に成功したのであった。




「良かった、水葉、本当に良かった!」

「おばあちゃあん……」

車の中で、老婦人は、いたわるように孫の娘の背中を撫でている。依里も同じ車の中だが、聞いた孫娘の話は悲惨だった。
暴言は当たり前のように毎日何回も浴びせられ、ちょっと癇に障る事をすると暴力を受け、嫌がっても無理やり性行為をさせられ……聞いていて吐き気がする中身である。
さらには
「お前なんて金と地位のために結婚したんだ、愛する女性はほかにいる! 可憐で優しく癒される女性だ! お前みたいなぶすと違ってな!」
なんて事まで心が麻痺するほど言われ、屑男はしょっちゅう朝帰りだったらしい。
彼女の言葉が嘘ではないのは、彼女のいたるところにきざまれた暴力の痕から明らかで、依里はまず、運転手に、医者に行くように勝手に指示を出した。

「どうしてお医者様なの?」

「医者の診断書をとるためです。暴力を受けた決定的な証拠があった方が、相手を叩きのめす時有利なので」

「じゃあ、私の信頼する大森お医者様まで回して、黒磯」

お婆さんが言い切り、車はお医者様の所へ向かっていく。
依里はどこまで付き合えばいいのかわからなかったものの、お婆さんも女性も本当にほっとしているため、これでよかったな、と思った。
そして病院は個人病院であり、そこまで依里は付き合い、お婆さんに、いざという時のために連絡先を教え……証言者になるためだ……彼等に会った場所まで送ってもらった。
今日はなんだか疲れたな、と思いながら、依里は今度こそ、家路についたのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?

とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。 高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。 明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!! そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。 「なぁ、俺と結婚しないか?」 直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。 便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。 利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...