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「ええと、つまり、お孫さんを、同棲先から連れ出してほしい、という事なんですね?」
「そうなの、あの子が、おばあちゃん助けてって、泣くものだから」
「……どうして、私を呼び止めて?」
「私が突撃するよりも、あなたが友達のふりをして、玄関を開けてもらった方がいいと思って……」
それにあなた、なんだかとっても強そうだから、とお婆さんが言う。依里はそれに対して反論できなかった。なにせ中学時代は近隣で名の知れた人間だったせいだ。
依里は実家にいた叔父が、かなり武術に詳しくて、その叔父に大変懐いていた結果、叔父の技術を軒並み吸収した子供時代だったのだ。
そして中学時代に、近隣の不良に喧嘩を売られ、それを軒並み叩きのめしていた結果、不良ではなかったのに、姐さんとまで呼ばれた過去があった。
依里自身は、売られなければ喧嘩を買わなかったため、友人になってくれる相手もそこそこいたし、理不尽な目にあう女生徒を助ける事もあったため、不良、と扱われた事は一回もないのが、救いだろう。
さてそんな依里は、今でも実家に帰れば叔父さんの稽古に付き合い、体格で勝る叔父さんに、今では互角と言われるほどの腕っぷしになっている。
このお婆さんがそこまで見抜いたかは、分からない物の、ある意味見る目は確かである。
「お孫さんは……つまり年頃の女性なんですね?」
「そうなのよ、息子があまりよろしくない噂のある男と、婚約を結ばせて、同棲なんかさせるから! あの子は嫌だって言えなくて!」
そしてやっと、祖母に助けを求めたらしい。なかなか大変な思いをしているお孫さんである。
よし、助けよう。
依里は話を聞いて、助ける事に協力する事にした。単純だと思うなかれ、同じ女性として、そんな理不尽な目に合っている女性を、放ってはおけないし、おばあちゃんの助けにもなりたかったのだ。
「お孫さんには、気付かれないように、荷物をまとめるように、指示を出しましたか?」
「あの子には、もう連絡してあるの、迎えに行くからねって」
今度こそ助けなくちゃと、お婆さんは言い切った。今度こそとはいったい……と思っていると、彼女は後悔したように言った。
「あの子はちょっと特殊な事情があって、なかなか助けられないで、時間ばかりが過ぎて行ったのよ……」
なるほど。依里はその特殊な事情を、あえて問わなかった。特殊な事情なら、言いたくない事も目白押しだったりするからだ。
誰だって、聞かれたくない事はたくさんあるはずだ。自分もいくつか覚えがある。
そんな事を思っている間に、車は一つの高級マンションまで到着した。
「……ここに乗り込むんですか?」
「ここに孫がいるのよ。あの子に開けてもらうから」
「お孫さんは開けられるんですか? 軟禁されていたりは……?」
依里は小声で問いかけた。そうすると、お婆さんは力強く断言する。
「あのろくでもない男は、あの子を暴力で縛っているけれども、小心者でね。あの子が友達を呼ぶって言う時は、自由にさせるのよ」
それでも、逃げられなかったお孫さんは、きっと、暴力や暴言で、洗脳されかけているんだな……と依里は今までの経験から察した。きっと縋れるのがおばあちゃん一人だったのだろう。
そしておばあちゃんも、けっこう猪突猛進だ。祖母一人で、どうにかできる相手出なかったらどうするのだ、と思う部分があった。
だから、運転手まで巻き込んでいるのかもしれない……
とにかく、と依里は小さなバッグに入っている、皮のグローブに指を通した。いざという時に迎撃できるようにである。
乱暴と言われようとも、これが依里の戦闘スタイルなのだ。苦情は後で聞く事にする。
高級マンションのエントランスで、依里は出来るだけ落ち着いた声で、コンシェルジュに話しかけて、鍵を開けてもらった。元々、友人が訪ねて来ると、お孫さんは連絡していたらしい。
そして運よくだろうか、相手の屑男は留守らしい。チャンスだ。
依里は今を逃したらまたチャンスはなくなる、と即座に判断し、お婆さんとともに、長いエレベーターを上がって行った。
「お孫さん最上階なんですね」
「何とかと馬鹿は高い所が好きって言うじゃない。地震でエレベーターがつかえなくなったら、不自由なのにね」
「そうですね、電気が止まったら何十階も階段を上るんですからね……」
そしていよいよ玄関である。玄関が開くのを待って、そして、運命の対面である。
がちゃり、と扉を開けた女性は、やつれて、目に隈が浮き、疲れ果てた濁った眼をしていた。
だが依里を見て、それからその向こうで、泣きださんばかりにはらはらしている老婦人を見て、涙を浮かべた。
「お、おばあちゃん……」
声にも覇気がない。彼女はしくしくとそのまま泣き出しているし、お婆さんも抱きしめようとしているが、依里の方が行動が早かった。
「お嬢さん、あなたをここから連れ出します。大事な荷物はまとめられていますか?」
見知らぬ女性に話しかけられたその人は、困惑気味に答えた。
「だ、大事なものは手提げ金庫に入れていて……」
「持ち出せますか?」
「なんとか……昨晩、彼の隙を見て荷物の中に」
「じゃあそれだけ持って一緒に来てください。着替えとかそんな物は、当面の分は買えばいいんです。ここでその男の関係者に邪魔されるのだけは、ごめんなので」
「さあ、一緒に帰りましょう、水葉」
「……うん!」
彼女は祖母の声に、涙をたたえながら頷いた。
それからはもう特急で、急いでエレベーターを降り、怪しまれないようにコンシェルジュに、友人と遊びに出かけるという偽りの伝言を残し、依里たちは見事、車の中まで戻る事に成功したのであった。
「良かった、水葉、本当に良かった!」
「おばあちゃあん……」
車の中で、老婦人は、いたわるように孫の娘の背中を撫でている。依里も同じ車の中だが、聞いた孫娘の話は悲惨だった。
暴言は当たり前のように毎日何回も浴びせられ、ちょっと癇に障る事をすると暴力を受け、嫌がっても無理やり性行為をさせられ……聞いていて吐き気がする中身である。
さらには
「お前なんて金と地位のために結婚したんだ、愛する女性はほかにいる! 可憐で優しく癒される女性だ! お前みたいなぶすと違ってな!」
なんて事まで心が麻痺するほど言われ、屑男はしょっちゅう朝帰りだったらしい。
彼女の言葉が嘘ではないのは、彼女のいたるところにきざまれた暴力の痕から明らかで、依里はまず、運転手に、医者に行くように勝手に指示を出した。
「どうしてお医者様なの?」
「医者の診断書をとるためです。暴力を受けた決定的な証拠があった方が、相手を叩きのめす時有利なので」
「じゃあ、私の信頼する大森お医者様まで回して、黒磯」
お婆さんが言い切り、車はお医者様の所へ向かっていく。
依里はどこまで付き合えばいいのかわからなかったものの、お婆さんも女性も本当にほっとしているため、これでよかったな、と思った。
そして病院は個人病院であり、そこまで依里は付き合い、お婆さんに、いざという時のために連絡先を教え……証言者になるためだ……彼等に会った場所まで送ってもらった。
今日はなんだか疲れたな、と思いながら、依里は今度こそ、家路についたのである。
「そうなの、あの子が、おばあちゃん助けてって、泣くものだから」
「……どうして、私を呼び止めて?」
「私が突撃するよりも、あなたが友達のふりをして、玄関を開けてもらった方がいいと思って……」
それにあなた、なんだかとっても強そうだから、とお婆さんが言う。依里はそれに対して反論できなかった。なにせ中学時代は近隣で名の知れた人間だったせいだ。
依里は実家にいた叔父が、かなり武術に詳しくて、その叔父に大変懐いていた結果、叔父の技術を軒並み吸収した子供時代だったのだ。
そして中学時代に、近隣の不良に喧嘩を売られ、それを軒並み叩きのめしていた結果、不良ではなかったのに、姐さんとまで呼ばれた過去があった。
依里自身は、売られなければ喧嘩を買わなかったため、友人になってくれる相手もそこそこいたし、理不尽な目にあう女生徒を助ける事もあったため、不良、と扱われた事は一回もないのが、救いだろう。
さてそんな依里は、今でも実家に帰れば叔父さんの稽古に付き合い、体格で勝る叔父さんに、今では互角と言われるほどの腕っぷしになっている。
このお婆さんがそこまで見抜いたかは、分からない物の、ある意味見る目は確かである。
「お孫さんは……つまり年頃の女性なんですね?」
「そうなのよ、息子があまりよろしくない噂のある男と、婚約を結ばせて、同棲なんかさせるから! あの子は嫌だって言えなくて!」
そしてやっと、祖母に助けを求めたらしい。なかなか大変な思いをしているお孫さんである。
よし、助けよう。
依里は話を聞いて、助ける事に協力する事にした。単純だと思うなかれ、同じ女性として、そんな理不尽な目に合っている女性を、放ってはおけないし、おばあちゃんの助けにもなりたかったのだ。
「お孫さんには、気付かれないように、荷物をまとめるように、指示を出しましたか?」
「あの子には、もう連絡してあるの、迎えに行くからねって」
今度こそ助けなくちゃと、お婆さんは言い切った。今度こそとはいったい……と思っていると、彼女は後悔したように言った。
「あの子はちょっと特殊な事情があって、なかなか助けられないで、時間ばかりが過ぎて行ったのよ……」
なるほど。依里はその特殊な事情を、あえて問わなかった。特殊な事情なら、言いたくない事も目白押しだったりするからだ。
誰だって、聞かれたくない事はたくさんあるはずだ。自分もいくつか覚えがある。
そんな事を思っている間に、車は一つの高級マンションまで到着した。
「……ここに乗り込むんですか?」
「ここに孫がいるのよ。あの子に開けてもらうから」
「お孫さんは開けられるんですか? 軟禁されていたりは……?」
依里は小声で問いかけた。そうすると、お婆さんは力強く断言する。
「あのろくでもない男は、あの子を暴力で縛っているけれども、小心者でね。あの子が友達を呼ぶって言う時は、自由にさせるのよ」
それでも、逃げられなかったお孫さんは、きっと、暴力や暴言で、洗脳されかけているんだな……と依里は今までの経験から察した。きっと縋れるのがおばあちゃん一人だったのだろう。
そしておばあちゃんも、けっこう猪突猛進だ。祖母一人で、どうにかできる相手出なかったらどうするのだ、と思う部分があった。
だから、運転手まで巻き込んでいるのかもしれない……
とにかく、と依里は小さなバッグに入っている、皮のグローブに指を通した。いざという時に迎撃できるようにである。
乱暴と言われようとも、これが依里の戦闘スタイルなのだ。苦情は後で聞く事にする。
高級マンションのエントランスで、依里は出来るだけ落ち着いた声で、コンシェルジュに話しかけて、鍵を開けてもらった。元々、友人が訪ねて来ると、お孫さんは連絡していたらしい。
そして運よくだろうか、相手の屑男は留守らしい。チャンスだ。
依里は今を逃したらまたチャンスはなくなる、と即座に判断し、お婆さんとともに、長いエレベーターを上がって行った。
「お孫さん最上階なんですね」
「何とかと馬鹿は高い所が好きって言うじゃない。地震でエレベーターがつかえなくなったら、不自由なのにね」
「そうですね、電気が止まったら何十階も階段を上るんですからね……」
そしていよいよ玄関である。玄関が開くのを待って、そして、運命の対面である。
がちゃり、と扉を開けた女性は、やつれて、目に隈が浮き、疲れ果てた濁った眼をしていた。
だが依里を見て、それからその向こうで、泣きださんばかりにはらはらしている老婦人を見て、涙を浮かべた。
「お、おばあちゃん……」
声にも覇気がない。彼女はしくしくとそのまま泣き出しているし、お婆さんも抱きしめようとしているが、依里の方が行動が早かった。
「お嬢さん、あなたをここから連れ出します。大事な荷物はまとめられていますか?」
見知らぬ女性に話しかけられたその人は、困惑気味に答えた。
「だ、大事なものは手提げ金庫に入れていて……」
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「……うん!」
彼女は祖母の声に、涙をたたえながら頷いた。
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「良かった、水葉、本当に良かった!」
「おばあちゃあん……」
車の中で、老婦人は、いたわるように孫の娘の背中を撫でている。依里も同じ車の中だが、聞いた孫娘の話は悲惨だった。
暴言は当たり前のように毎日何回も浴びせられ、ちょっと癇に障る事をすると暴力を受け、嫌がっても無理やり性行為をさせられ……聞いていて吐き気がする中身である。
さらには
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なんて事まで心が麻痺するほど言われ、屑男はしょっちゅう朝帰りだったらしい。
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「どうしてお医者様なの?」
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お婆さんが言い切り、車はお医者様の所へ向かっていく。
依里はどこまで付き合えばいいのかわからなかったものの、お婆さんも女性も本当にほっとしているため、これでよかったな、と思った。
そして病院は個人病院であり、そこまで依里は付き合い、お婆さんに、いざという時のために連絡先を教え……証言者になるためだ……彼等に会った場所まで送ってもらった。
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