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第十二話 夢がくれた鍵と扉
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気付けば世界は真っ暗だ、その真っ暗な世界が唐突に切り替わり、不思議な物がたくさん置かれている、それはどこかの部屋に変わった。
流石夢、荒唐無稽である。そんな事を思っていたサイヴァは、目の前にある扉に気が付いた。
扉があるなら開けていいだろう、だってここは夢なのだから。
でも、夢だとわかる夢ってなんか意味があったような、と思いつつも、サイヴァは湧き上がった好奇心に勝てるわけもなく、そっと扉を開いた。
「いやいやいや、大変な事になっちまってるねえ」
逆立ちしても何しても、……これは間違いなく夢であるらしい。
夢の中でサイヴァは、周りを見回した。
なんだかとんでもなくたくさんの、宝石の原石だろうか、色付き石がいくつも積み上げられている、どこかの穴蔵らしき場所に扉はつながっており、背後を見ても、先ほど開けたはずの扉が見つからなかった。そんな場所に、彼女は立っていた。
「恩人殿は何をお探しだい?」
声をかけてきたのは、福福と太った腹を持っている男だ。何やら変な位置に耳がある。
というのもその男、耳が獣の耳だったのだ。
獣人などこの周辺諸国ではめったに見ない種であるため、当然サイヴァも初めて見る相手だった。
耳がちょこちょこと動いていて、愛嬌がある。
ちょっとその耳触らせてもらえませんかね、と言いたくなるふわふわしたお耳だ。
そんなお耳をぴこぴこと動かしながら、その男が立ち上がり、サイヴァに近付いてくる。
お耳付きのその男は、立つとサイヴァよりも小柄で、彼女を見上げて問いかける。
それも親し気で、気のいい笑顔で。
「……狸の国の、宝石商を探しているの」
夢の中だから、サイヴァは自然とそんな事を話していた。
うんうん、とそれを聞いた男が、ぽてぽてと歩いて、サイヴァが立っている位置から正面に置かれていた、机の上に置かれていた、何かを持って来る。
そして彼女の目の前で、大事に持っていた手のひらを広げた。
そこに入っていたのは、小さくとも細工の細かい緻密な造りがうかがえる耳飾りだった。
どんな耳飾りかと言えば、その耳飾りは、綺麗な銀の装飾で、細かいロウ付け細工の、扉の形の揺れる飾りがついた耳飾りだ。
見た目よりも軽く、そしてゆれるとしゃりんしゃりん、といい音がする。
「宝石商をお探しなら、これをその辺にぽんと放り投げてから」
男が手のひらをぐっと握った後、そっと開く。
男の手の中には何と、一体いつ現れたのか、細かい透かし模様の入った、重厚な鍵が現れる。
「この鍵で扉を開けるんだ。でもいいか、大事なのは、これが開けられる人間ってのが、お嬢さんだけだって事だ。他の誰も、この工房の鍵を開けられない覚えておけよお嬢さん、いいな……?」
「宝石商じゃないの?」
サイヴァは宝石商を探していたのに、なんで工房を紹介されているのかわからず、問いかけた。
そうすると、彼が胸を張って答えたのだ。
「この扉の主は、宝石商でありながら、凄腕の職人なんだよ」
そんな事ってあるのだろうか、という顔をしたサイヴァを、男がからから笑う。そしてサイヴァに鍵をちゃんと手渡して、ゆっくりという。
「覚えておくんだぞ、お嬢さん」
サイヴァはそこで目を覚ました。見慣れた蜘蛛の巣のはった天井と、それから窓の外から見える景色。どうやら屋根裏部屋の、自分も使っている部屋に、彼女は寝かされていた。
彼女は起き上がり、そうだ、自分は王宮に行かなきゃいけないと聞き、それからの記憶がない、と思い出した。
きっとあの時に、あまりの重圧に気絶してしまったのだろう。
そして誰かが、部屋まで運んでくれたのだ。あとでお礼を言わなければ。
だが今日は一体何時だろう。それに急いで鍵……鍵?
サイヴァは自分の手が何かを握り締めていたため、そっと開いた。
中にあったのは、夢の中に出てきたと思われる、綺麗な扉の飾りのついた耳飾りに、鍵である。
「もしかして本当に、狸の国の商人さんがこれを……?」
何かの魔法の力で?
「でも本当に現れるのかな……?」
やってみよう。悪い事にはならないはず。
そう思ったサイヴァは、部屋に誰もいないから、そっと耳飾りを、そのあたりの床に投じてみた。
すると、耳飾りは床に当たった途端に淡く輝き、しゃりん、という銀の涼しい音を立ててから、瞬く間に人が一人通れる大きさの扉に変わった。
「……」
夢だけど夢じゃなかったみたいだ。
サイヴァはそのまま、手の中にあった鍵を、その扉の錠前に差し込んだ。
そしてゆっくりと回すと、がしゃんと鍵が開く重たい音がして、そして扉の鍵が開く。
それでもう十分だった。中をのぞく勇気はさすがになかったのだが、これで何か間違いがあるとは、サイヴァは思いもしなかった。
商人さんが助けてくれた、とそんな事だけを思ったのだ。
これがあれば、旦那様も奥方様も喜んでくれるに違いない!
サイヴァはうれしくなって立ち上がり、直ぐに旦那様たちに知らせよう、とそのまま執事を探すべく身支度を整えて、階段を降り、そこで焦っている執事と鉢合わせした。
「ああ、サイヴァ、目を覚ましたのですね、大変です!」
執事は血相を変えていた。かなりの問題が起きなければ、この歴戦練磨の執事は、こんな風に取り乱したりしないだろう事を、新米のサイヴァでも知っていた。
だからとてつもなく大変な事が、このお屋敷で起きているのだ、とまだまだ新人の彼女でもわかったのだ。
「大変って何があったんです?」
「旦那様と奥方様が、王宮の王女様の兵士に連れて行かれてしまったのです!」
「え、えええええ?! だって今日、私冠を売ってくれた商人を探しに行く予定で」
実際にそれはしなくてもよくなったが、それを知っているのは彼女だけなので、他の誰もが、彼女がこれから探しに行くと思っていたはずだ。
それに昨日の今日である。
そんなにも待ってくれないなんて、サイヴァは想像もできなかったのだ。
「王女様はせっかちもいい所で、昨日の今日でも紹介できるだろう、と。それが出来ない、これから探すのだ、とやってきた王女さまに言ったとたん、この王女には向かう者どもをとらえろ、と命じてしまわれて」
怒りのあまりか、執事の口が悪くなっている気がする。
王女様を王女、と呼び捨てなど、かなりのものだ。だが。
何という事だ。
サイヴァはどんどん指先が冷たくなっていくものの、はっきりとこう言った。
「その商人の事は、私が知っています! 執事さん、旦那様たちの所に、私が行く方法はありますか!?」
「だから様子を見に来たんです、兵士たちが、関係しているメイドたちも連れて行け、と言っている物ですから」
この件に関して、一番詳しいのはサイヴァである、間違いない。
王宮なんて怖かった物の、それ以上に、旦那様と奥方様に、もしもの事があったらと思うと怖くて、サイヴァは頷いた。
「行きます、行かせてください!」
「くれぐれも失礼がないようにするんですよ、サイヴァ! この家の未来はお前にかかっているかもしれないのですからね!」
執事が言うのももっともで、サイヴァは自分の身なりが、昨日泥まみれから着替えた後の、そこそこ綺麗なお仕着せの状態だと確認してから、階段を降りて、兵士たちが立っている玄関ホールまで走って行った。
「私が、商人を連れてきたメイドです!」
彼女が、他の嫌がるメイドを引っ張って行こうとするのにしがみつき、大声で言う物だから、兵士たちは顔を見合せた後こう言った。
「それは間違いがないのだな?」
「間違いありません、私です、私が昨日、道を駆け回って探してきたんです!」
「サイヴァ!」
捕まれていた腕を放された、メアリが慌てた声で言う。
王宮に連れて行かれたら、ただじゃすまないとわかっているのだろう。
だがサイヴァは、自分のような出自の人間を雇ってくれて、新米だからなにかと親切にしてくれて、さらに気を使ってくれたりしたこのお屋敷の人たちが大事だったから、迷わなかったのだ。
「旦那様と奥方様は!?」
「先に王女殿下が、お城に連れて行った。我々は、辺境伯が、狸の国の商人とつながりがありながら隠していた、という証言を集めるために、メイドを連れて来るように言われて」
「旦那様も奥方様も関係ありません、私です、私がその商人を呼んできたんですから!」
「本当か、娘」
「本当です、だから証言ならいくらでもできます!」
サイヴァが必死に言うと、兵士たちは顔を見合せた後、頷いた。
「それでは来てもらおうか、メイドさん」
流石夢、荒唐無稽である。そんな事を思っていたサイヴァは、目の前にある扉に気が付いた。
扉があるなら開けていいだろう、だってここは夢なのだから。
でも、夢だとわかる夢ってなんか意味があったような、と思いつつも、サイヴァは湧き上がった好奇心に勝てるわけもなく、そっと扉を開いた。
「いやいやいや、大変な事になっちまってるねえ」
逆立ちしても何しても、……これは間違いなく夢であるらしい。
夢の中でサイヴァは、周りを見回した。
なんだかとんでもなくたくさんの、宝石の原石だろうか、色付き石がいくつも積み上げられている、どこかの穴蔵らしき場所に扉はつながっており、背後を見ても、先ほど開けたはずの扉が見つからなかった。そんな場所に、彼女は立っていた。
「恩人殿は何をお探しだい?」
声をかけてきたのは、福福と太った腹を持っている男だ。何やら変な位置に耳がある。
というのもその男、耳が獣の耳だったのだ。
獣人などこの周辺諸国ではめったに見ない種であるため、当然サイヴァも初めて見る相手だった。
耳がちょこちょこと動いていて、愛嬌がある。
ちょっとその耳触らせてもらえませんかね、と言いたくなるふわふわしたお耳だ。
そんなお耳をぴこぴこと動かしながら、その男が立ち上がり、サイヴァに近付いてくる。
お耳付きのその男は、立つとサイヴァよりも小柄で、彼女を見上げて問いかける。
それも親し気で、気のいい笑顔で。
「……狸の国の、宝石商を探しているの」
夢の中だから、サイヴァは自然とそんな事を話していた。
うんうん、とそれを聞いた男が、ぽてぽてと歩いて、サイヴァが立っている位置から正面に置かれていた、机の上に置かれていた、何かを持って来る。
そして彼女の目の前で、大事に持っていた手のひらを広げた。
そこに入っていたのは、小さくとも細工の細かい緻密な造りがうかがえる耳飾りだった。
どんな耳飾りかと言えば、その耳飾りは、綺麗な銀の装飾で、細かいロウ付け細工の、扉の形の揺れる飾りがついた耳飾りだ。
見た目よりも軽く、そしてゆれるとしゃりんしゃりん、といい音がする。
「宝石商をお探しなら、これをその辺にぽんと放り投げてから」
男が手のひらをぐっと握った後、そっと開く。
男の手の中には何と、一体いつ現れたのか、細かい透かし模様の入った、重厚な鍵が現れる。
「この鍵で扉を開けるんだ。でもいいか、大事なのは、これが開けられる人間ってのが、お嬢さんだけだって事だ。他の誰も、この工房の鍵を開けられない覚えておけよお嬢さん、いいな……?」
「宝石商じゃないの?」
サイヴァは宝石商を探していたのに、なんで工房を紹介されているのかわからず、問いかけた。
そうすると、彼が胸を張って答えたのだ。
「この扉の主は、宝石商でありながら、凄腕の職人なんだよ」
そんな事ってあるのだろうか、という顔をしたサイヴァを、男がからから笑う。そしてサイヴァに鍵をちゃんと手渡して、ゆっくりという。
「覚えておくんだぞ、お嬢さん」
サイヴァはそこで目を覚ました。見慣れた蜘蛛の巣のはった天井と、それから窓の外から見える景色。どうやら屋根裏部屋の、自分も使っている部屋に、彼女は寝かされていた。
彼女は起き上がり、そうだ、自分は王宮に行かなきゃいけないと聞き、それからの記憶がない、と思い出した。
きっとあの時に、あまりの重圧に気絶してしまったのだろう。
そして誰かが、部屋まで運んでくれたのだ。あとでお礼を言わなければ。
だが今日は一体何時だろう。それに急いで鍵……鍵?
サイヴァは自分の手が何かを握り締めていたため、そっと開いた。
中にあったのは、夢の中に出てきたと思われる、綺麗な扉の飾りのついた耳飾りに、鍵である。
「もしかして本当に、狸の国の商人さんがこれを……?」
何かの魔法の力で?
「でも本当に現れるのかな……?」
やってみよう。悪い事にはならないはず。
そう思ったサイヴァは、部屋に誰もいないから、そっと耳飾りを、そのあたりの床に投じてみた。
すると、耳飾りは床に当たった途端に淡く輝き、しゃりん、という銀の涼しい音を立ててから、瞬く間に人が一人通れる大きさの扉に変わった。
「……」
夢だけど夢じゃなかったみたいだ。
サイヴァはそのまま、手の中にあった鍵を、その扉の錠前に差し込んだ。
そしてゆっくりと回すと、がしゃんと鍵が開く重たい音がして、そして扉の鍵が開く。
それでもう十分だった。中をのぞく勇気はさすがになかったのだが、これで何か間違いがあるとは、サイヴァは思いもしなかった。
商人さんが助けてくれた、とそんな事だけを思ったのだ。
これがあれば、旦那様も奥方様も喜んでくれるに違いない!
サイヴァはうれしくなって立ち上がり、直ぐに旦那様たちに知らせよう、とそのまま執事を探すべく身支度を整えて、階段を降り、そこで焦っている執事と鉢合わせした。
「ああ、サイヴァ、目を覚ましたのですね、大変です!」
執事は血相を変えていた。かなりの問題が起きなければ、この歴戦練磨の執事は、こんな風に取り乱したりしないだろう事を、新米のサイヴァでも知っていた。
だからとてつもなく大変な事が、このお屋敷で起きているのだ、とまだまだ新人の彼女でもわかったのだ。
「大変って何があったんです?」
「旦那様と奥方様が、王宮の王女様の兵士に連れて行かれてしまったのです!」
「え、えええええ?! だって今日、私冠を売ってくれた商人を探しに行く予定で」
実際にそれはしなくてもよくなったが、それを知っているのは彼女だけなので、他の誰もが、彼女がこれから探しに行くと思っていたはずだ。
それに昨日の今日である。
そんなにも待ってくれないなんて、サイヴァは想像もできなかったのだ。
「王女様はせっかちもいい所で、昨日の今日でも紹介できるだろう、と。それが出来ない、これから探すのだ、とやってきた王女さまに言ったとたん、この王女には向かう者どもをとらえろ、と命じてしまわれて」
怒りのあまりか、執事の口が悪くなっている気がする。
王女様を王女、と呼び捨てなど、かなりのものだ。だが。
何という事だ。
サイヴァはどんどん指先が冷たくなっていくものの、はっきりとこう言った。
「その商人の事は、私が知っています! 執事さん、旦那様たちの所に、私が行く方法はありますか!?」
「だから様子を見に来たんです、兵士たちが、関係しているメイドたちも連れて行け、と言っている物ですから」
この件に関して、一番詳しいのはサイヴァである、間違いない。
王宮なんて怖かった物の、それ以上に、旦那様と奥方様に、もしもの事があったらと思うと怖くて、サイヴァは頷いた。
「行きます、行かせてください!」
「くれぐれも失礼がないようにするんですよ、サイヴァ! この家の未来はお前にかかっているかもしれないのですからね!」
執事が言うのももっともで、サイヴァは自分の身なりが、昨日泥まみれから着替えた後の、そこそこ綺麗なお仕着せの状態だと確認してから、階段を降りて、兵士たちが立っている玄関ホールまで走って行った。
「私が、商人を連れてきたメイドです!」
彼女が、他の嫌がるメイドを引っ張って行こうとするのにしがみつき、大声で言う物だから、兵士たちは顔を見合せた後こう言った。
「それは間違いがないのだな?」
「間違いありません、私です、私が昨日、道を駆け回って探してきたんです!」
「サイヴァ!」
捕まれていた腕を放された、メアリが慌てた声で言う。
王宮に連れて行かれたら、ただじゃすまないとわかっているのだろう。
だがサイヴァは、自分のような出自の人間を雇ってくれて、新米だからなにかと親切にしてくれて、さらに気を使ってくれたりしたこのお屋敷の人たちが大事だったから、迷わなかったのだ。
「旦那様と奥方様は!?」
「先に王女殿下が、お城に連れて行った。我々は、辺境伯が、狸の国の商人とつながりがありながら隠していた、という証言を集めるために、メイドを連れて来るように言われて」
「旦那様も奥方様も関係ありません、私です、私がその商人を呼んできたんですから!」
「本当か、娘」
「本当です、だから証言ならいくらでもできます!」
サイヴァが必死に言うと、兵士たちは顔を見合せた後、頷いた。
「それでは来てもらおうか、メイドさん」
応援ありがとうございます!
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