フィール・ザ・タイム ~ハッカあめ~

ときしろ めぐみ

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 桜の花も咲き始めた三月のある日のこと。初野加奈はつや かなは四月に入学する高校から出された課題を片付けるために、図書館を訪れていた。ようやく受験勉強から解放されたと思ったのもつかの間、高校での生活に向け、準備することはいろいろとあった。その一つが、この課題だった。

 図書館は駅東の公園の中にあり、家から徒歩で十分くらい。入り口の前にある赤い立方体が積み重なった意味不明のモニュメントを横目で見つつ、自動ドアを抜けて館内に入ると、独特の本の匂いがした。そしてまっすぐカウンターに行き、受付で番号札をもらうと、階段を上って二階にある読書室に向かった。

 静寂の空気に支配されている部屋の中、加奈は番号札に書かれた数字の席を探して歩く。周りは受験間近の時期のようなピリピリした緊張感は無いが、勉強している学生らで大半が占められていた。読書室とは名ばかりで、主に中学、高校生らが勉強室として利用しているこの空間。もう来年の受験に向けての勉強が始まっているのかもしれない。加奈はと言うと、受験勉強の緊張感からひとまずは解放されてる身なので、その様子を見て、とりたてて焦る気持ちはなかった。そして、席を見つけて座ると、早速課題に取り組み始めた。

 静かすぎる部屋には独特の雰囲気がある。物音を立ててはいけないような暗黙の了解。受験勉強時にはそんな空気を気にすることなく取り組めたのだが、今はどうにも落ち着かない。なんだか居心地が悪い。
 課題を数ページ進めてから、ふと柱にかかっている時計を見ると午前十一時を少し回っていた。ここに来てからまだ一時間程度しか経っていない。だが、加奈は部屋を出て、番号札を受付に返すと、そのまま図書館を後にした。
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