優秀過ぎてSSランク冒険者に任命された少女、仕事したくないから男装して学園に入学する。

コヨコヨ

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一話

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 白い羽根ペンが黒色に染まり、地面に突き刺さっていた。周りに動かないゴブリンが何十体も転がっている。
 そんな中、私は切り株に座り、無地の書に羽根ペンを走らせる。

『駄目じゃないか、もっと力を抜かないと』

 子供っぽい男性が微笑みながら囁く。

『そ、そんなこと言われたって初めてなんだから仕方ないだろ』

 筋骨隆々の男が俯き、腹の力を抜いた。

「うぅーん、上手く書けない。何か違う……」

 私は森の中で増え過ぎたゴブリンの討伐依頼をこなしている。
 だが、その最中に自作の『禁断の書』を書いていた。休みがないのだから仕事中にやりたいことをねじ込むしかなかった。師匠の下を離れて二年経っても師匠のように上手く書けない。

 私は魔法の才能があったようだが、文才はなかった。

 冒険者という男が豊富な職場にいるにも拘らず、パーティーを組むことなくずっと一人で戦っている。まあ、パーティーメンバーが要らないから一人なのだけれど。
 パーティーメンバーを守りながら戦うのは面倒だし、もし仲良くなってその者が死んでしまったら……嫌だし。

「ギャギャギャッ」

 八体のゴブリンが切り株に座っている私を囲む。鋭いナイフを持っており、殺す気満々だ。

「ああ、うるさい。気が散る」

 私は手に持っていた羽根ペンを目の前にいるゴブリンに投げた。真っ白な羽根ペンがゴブリンの眉間に突き刺さると、頭部から脳漿をまき散らし貫通する。
 白い羽が黒い血を吸って黒い羽になっていた。そのまま魔力で操作する。
 周りにいる七体のゴブリンを一掃し、いくつもの村を崩壊させた大量発生していたゴブリンの巣の駆除を終えた。
 何人の被害者が出たか知らないが、ここまでゴブリンが増えるまで放っておく方も悪い。

「はぁ。私の人生、これでいいのかな」

 仕事などせず、もっと男がいる場所に行って私生活や話し方を調べたい。私も師匠と同じくらいの『禁断の書』が書けるようになりたい。
 真っ黒になった羽根ペンは捨て、新しい羽根ペンを使って文章を書く。
 依頼を早々に終えたが、帰らない。早く帰っても次の仕事を回される。だから、すぐに帰らず時間を潰す。

 ――私の人生、このままだと仕事しているだけで終わりそうだ。って、また気分が下がってきた。師匠の禁断の書を読んで心を落ち着かせよう。

 私は表紙と背表紙が黒い革で作られた本愛読書を取り出し、読み深ける。なんども読んだ。その都度、男同士が本当に恋愛するのかと興奮しながら夢見たが、師匠のもとから離れてすぐに幻だと知った。

「ん……。学園。ああ、学園か」

 私は師匠の『禁断の書』を読んでいて気付いた。この中にいる登場人物たちは学園に通っていた。自分も同じ環境に立てばいい案が浮かぶかもしれない。

「男子学園に行けばそこら中、男しかいない。問題は私が女ってところだけど。まあ、男装すればいいか」

 生憎、私の胸は一五歳になってもぺったんこだった。お尻も女とは思えない貧相な体型。ボンキュッボンの師匠が羨ましいと思ったことは……、百回くらい。
 髪を切って男っぽくしていけば誰にもバレない。声が高いけど、そういう男子もいる。貴族がいる学園なら一人称が私でも不自然じゃないし、お金なら腐るほどある。

「思い立ったら即行動。このまま、仕事漬けの人生なんて嫌だっ」

 私は足下に魔法陣を展開し、空を飛んでルークス王国の王都に移動した。
 ウルフィリアギルドのギルドマスターがいる部屋に合図もせずに飛び込む。

「ルドラさんっ。私、男子学園に行きます」
「は? Sランク冒険者『黒羽の悪魔』が何を言ってるんだ」

 二年前より仕事場がすっきりし、体調が良さそうなルドラさんが首をかしげる。変なあだ名が聞こえたが、私の通り名らしい。

「だから、私は男子学園に行きます」
「カイリ、依頼達成度一位の天才魔法使いが訳のわからないことを言っているんだが、お前に理解できるか?」
「はて、私も理解しかねますね」

 秘書のカイリさんは二年前と変わらず清潔な恰好で立ち、ルドラさんの仕事を手伝っていた。

「キアス、冒険者ランクが更新されてな、新しくSSランクが追加されたんだ。ルークス王国内にいる数名のSランク冒険者の内、お前を最初のSSランク冒険者にしようと思う。今以上の大金が舞い込んでくるぞ」

 ルドラさんは腕を組み、笑っていた。さぞかし嬉しいだろうと、疑いのない目。

「加えて、最近、魔王と思わしき存在が現れたと噂されている。そのことについてキアスに調査してもらいたい。あまりに危険すぎる仕事だ。SSランク冒険者のお前にしか頼めない」

 彼は私に過労死宣言を告げてきた。ただでさえ仕事で忙しいのに、さらに仕事を増やすつもりらしい。なんなら、国や世界を揺るがす存在にぶつけようとしてくる。

 ――こ、このままここにいたらダメだ。私、仕事で死んじゃう。

「そんなこと、どうでもいいです。ともかく、私は男子学園に行きます。なので、冒険者は辞めさせてもらいます」
 私は誰に止められようとも男子学園に入ると決めた。ルドラさんに頭を下げ、部屋の出口に向かう。
「ま、待て待てっ」

 ルドラさんは椅子から立ち上がり、私の前に立つ。

「キアス、お前はウルフィリアギルドの主力だ。いきなり辞めるなんて言われても困る。お前はもうウルフィリアギルドの希望の星なんだ」

 ルドラさんは私の肩に手を置き、私にとってどうでもいい話を長々としてきた。

「私、この二年間でルドラさん達のお願いを散々聞いてきました。嫌だと言っても無理やり押し付けてきたのはそっちですよね。私のわがままは聞いてもらえないんですか?」

 私は今まで溜まっていた膿を出すように、ルドラさんに問いかける。

「確かに、わがままを聞いてもらってきた。だが、キアスの力は皆の生活のために使うべきだ」

 今更、男子学園に行ってどうする?
 すでにバカ強いお前が何を学ぶんだ?
 普通の男よりお前の方が何倍も強いぞ、とルドラさんは質問でまくし立ててくる。

「わ、私は、だ、男子の関わり合いに興味がありまして……」

 私は『禁断の書』が書きたいからと素直に言えず、視線を反らす。

「男子が気になるだと? だからってわざわざ男子学園に行く必要はないだろう」
「男子学園じゃなければ駄目なんです。私が成長するために、最適な環境なんです」
「わ、訳がわからん」
「ルドラ様、キアスさんだって一端の女子ですよ。男子に興味があるのは普通です。そもそもキアスさんの年齢なら高等部に入学するころ。何ら不自然ではありません。まあ、女子が男子学園に行くのは不自然ですが、彼女なら問題ないでしょう」
「カイリさん……」

 いつも笑っていて薄気味悪いと思っていたカイリさんが今日はやけにイケメンに見える。

「キアスは少々尖がった羽根ペンで大量の魔物を蹂躙するんだぞ。俺が見た時なんか羽根ペンだけで八体の魔物を瞬殺していた。そんな奴が今さら学園に行っても仕方がない」
「では、二年間休みなく働いてくれたキアスさんに休暇を出すと言うのはどうでしょうか?」
「休暇か……。うぅーん」

 ルドラさんは腕を組み、右往左往していた。

「男子学園が無理なら、ルドラさんとカイリさんが抱き合ってキスしてくれたら考え直します。ただのキスじゃありませんよ。舌を絡ませ合う濃厚なやつです。それが無理なら、私は冒険者を辞めさせてもらいます」

 ルドラさんとカイリさんの顔が青ざめていく。だが、ルドラさんはカイリさんの方に歩いていく。どれだけ、私を手放したくないのだろうか。

「ちょちょ、ル、ルドラ様、考え直してください。キアスさんを学園に行かせましょう」
「カイリ、俺達がキスすればキアスは考え直してくれるそうだ。なぁに、舌を絡ませ合えばいいだけだ。死ぬより楽だろ」

 ルドラさんはカイリさんの肩を持つ。

「む、無理です、無理です。さすがに無理ですっ」

 カイリさんは顔を横に振り、全否定。

「ぐ、ぐぐぐ……」

 ルドラさんも近づいたところまでは良いものの、そこからが長かった。

「くっ。わかった、Sランク冒険者キアス・リーブンのSSランク昇格は保留にする。加えて三年間の休暇を与える。その代わり、冒険者は辞めないでもらうぞ」
「まあ、仕方ありません。学園に行けるのならその条件を飲みましょう」
「どこの男子学園に行かせるか。まあ俺の知り合いが学園長しているエルツ工魔学園でいいか」

 ルドラさんは椅子に座り、手紙を書き始めた。したためるとカイリさんに手渡す。

「じゃあ、カイリ。これを学園長に渡してくれ。あと、必需品を集めてキアスに渡せ」
「かしこまりました。では、行ってまいります」

 カイリさんはルドラさんから手紙を受け取り、部屋を出て行った。

「はぁ、キアス、本当に良いんだな。SSランクの位が貰えるなんて名誉あることなんだぞ。それを蹴ってまで男子学園に行きたいのか?」

 ルドラさんは腕を組み、訊いてくる。

「私は師匠の足下にも及びませんし、師匠を差し置いてSSランクを貰うなんておこがましいです」
「まあ、あの女を出されたら困る。というか、あいつはもう女じゃない。女の皮を被った化け物だ」
「否定はしませんけど女性に対してそんな言い方をするのなんてルドラさん、最低ですね」
「俺は事実を述べただけだ。実際、俺からしたらキアスも大して変わらん」
「えぇー、酷い。私はまだ人間ですよ。化け物じゃありません」
「一三歳の時点でワイバーンを一瞬で狩ってくる者がタダの人間なわけがないだろ」
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