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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

助けられるから助ける

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 おじさんは小麦粉と卵、牛乳、砂糖を混ぜた液体を丸いくぼみが付いた鉄板に流し入れ、蓋をするように同じ形の鉄板を重ねた。
 クルクルと上下を裏返していくと甘い香りが漂ってくる。
 数分で鉄板を開けると、丸っこい小さな焼き菓子が出来上がっていた。

 おじさんは鉄の串で綺麗に取り外していき、紙袋を広げて大量の焼き菓子を入れていく。パンパンにつまった紙袋二枚を僕達に手渡してきた。

「毎度あり。春祭り、楽しんで行ってくれよな」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 僕はルパに紙袋を一袋渡す。ルパは両手で受け取り、思っていたよりも熱かったのか、慌てており、あつくない角っこを持って落ち着いた。袋口をすぐさま開け、中を覗き込む。
 もくもくと白い湯気が未だに出ており、出来立てだとわかった。

「ふわぁ~甘い香り。美味しそう~」

 ルパの顔が一気に子供になり、蕩けていた。先ほどのむくれた顔は元に戻り、嬉しそうな顔をする。袋の中に手を入れ、小さな焼き菓子を口に放り込んだ。熱そうな湯気を口からホフホフと出して冷まし、しっかりと噛み締めて飲み込む。

「うん! 美味しい! カステラとはちょっと違うけど、これはこれで美味しいよ」

 ルパは大きな声で感想を言う。

「そうなんだ。じゃあ、僕も食べてみようかな」

 僕は焼き菓子を摘まみ、口に放り込む。
 ふわっふわっの噛み応え舌に乗る焼き菓子がとても甘い。
 
 とても柔らかいパンに砂糖が含まれているような感覚だ。

 カステラのようにしっとりとしている訳ではないが、外側がサクっとしておりクッキーのよう。中は甘いパン。

 初めて見た焼き菓子だったが、かなり美味しかった。

 この味で銅貨五枚かと思うと凄く安い。近くに港があるからここまで安くできるんだろうなと思いながら、食べていたら、ルパが僕の服をクイクイと引っ張る。

 隣を見ると袋を逆さにして口を開けたルパがいた。どうやら、全て食べきってしまったがもっと欲しいと言う顔だった。

 僕は仕方ないなぁとため息をつき、ベビーカステラを摘まみ、ルパの口に持っていく。

 ルパは尻尾を振って食いつき、両頬に手を置いて嬉しがっていた。どうやら甘い物が好きなルパはベビーカステラをとても気に入ったらしい。あまりに食べたがるのでルパに袋ごと渡すが……。

「ニクスに食べさせてほしい。その方が……美味しい」

「もう、ルパはまだまだ子供だな」

 僕は袋内のベビーカステラをルパの口に何個も運ぶ。
 その後、モグモグとしているルパの頭を撫でるともっと喜んでいた。

 僕は思った。餌付けと同じだと……。まぁ、ルパが良いのなら別に構わない。別に何かをして報酬として渡している訳ではないので餌付けかどうかも定かではないがルパにベビーカステラを食べさせ、頭を撫でると言う行為が癖になりそうだ。

 そう思っていたら僕の持っていたベビーカステラもなくなり、もう、終わりだと伝えるとルパは残念そうな顔をする。

 僕は仕方なく、頭を撫でてあげるとルパは驚いたのか少し動揺していた。だが、少々俯き、尻尾を動かして僕にくっ付いてくる。甘えん坊だなと思いながら手を繋ぎ、屋台の並ぶ大通を一緒に歩いていく。

 少し進むとあまりの人の数に道がぎゅうぎゅうになっており、何事だと思ったら子供が倒れていた。外傷はなく、喉を手で押さえているところを見ると喉を詰まらせてしまって呼吸が出来ないようだ。
 周りの大人の人は背中を叩いたり、腹部を押したりして吐き出させようとするも、なかなかうまく行かない。

「すみません。僕に任せてもらってもいいですか」

 僕は人込みに割って入り、子供のもとに向った。

「え……」

「この子は何を食べて喉を詰まらせたんですかね?」

 僕は近くにいる泣き崩れている女性に聞いた。きっと子供のお母さんだろう。

「あ、飴玉を飲み込んでしまって、息が出来ないみたいなんです!」

「飴玉ですね。わかりました」

 僕は顔色が真っ青になった子供の口の中に人差し指を入れて『ファイア』を放つ。

「かはっ……。はぁ、はぁ、はぁ……。う、うぅ……、い、息が……」

 喉に詰まった飴玉を「ファイア」で灰にして息が出来るようにした。灰なら、体に少々取り込んでも害はない。子供は大きく息を吸い、顔色が少しずつ戻っていく。

 念のため病院に連れて行った方がいいとお母さんに伝える。

 子供のお母さんは何度も僕に頭を下げてくれた。お礼と言ってくじ引き券を僕にくれた。どうやら街の住民に配られているくじ引き券らしく、豪華賞品が当たるかもしれないと言っていた。

 こんな物しかないと言って何度も頭を下げられたが、人家族一枚と言う貴重なくじ引き券を貰ってしまい申し訳ない。周りからも感謝されたが、ルパが少々辛そうだったので、人込みをすぐに後にする。

「ニクス、なんで知らない子供を助けたの?」

「何でって……。助けられるのなら助けた方がいいでしょ。僕の力を使えば助けられるんだ。助けない理由なんて何一つない。まぁ、むやみやたらに人助けをしようとしたら無理だけど、自分の出来る範囲での人助けなら出来る。それだけだよ」

「じゃあ、私を助けたのもニクスが出来ると思ったからってこと?」

「そうだね。プルスの力を使えば、ルパの黒死病も直せた。ガリガリだったころのルパにはまだ死んでほしくなかった。今はこんな健康体になってくれて僕はすごく嬉しいよ」

 僕はルパの頬を突き、健康体であると伝える。

 ルパは照れくさそうにして俯いていた。あの時の商人は悪質業者だったのか、それとも、運悪くルパが黒死病に掛かってしまったから王都に運ぼうとしていたのかは定かではないが、ルパと引き合わせてくれたのだから、少しは目を瞑ろう。

 僕とルパは道の端を歩き、なるべく人と接触しないように心がける。せっかくもらったくじ引き券を使うため、僕は祭りの本部へとやってきた。

 周りには屋台が並び、子供達の楽しそうな声が響いており、とても平和な街だ。まぁ、街の外では抗争が起っているんだけど。

「うわぁ~ん! 僕、くじ引きしたいよぉ~!」

「あれぇ、おかしいな……。確かに入れたはずなのに……」

 五歳くらいの少年と鞄の中をあさり、何かを探している母親が抽選場にいた。

 僕達は後ろに並ぶも、一向にくじ引き券が見つからないらしく、僕達に順番を譲ろうとしていた。だが、子供がぐずり、地面に寝ころんで泣き叫ぶ始末。

 僕はどうせ貰い物だと思い、少年に自分の持っているくじ引き券をあげた。
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