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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

強盗を追う

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「ニクス、あの包から変な音が聞こえる……。カチカチって、時計の進む音みたい」

 ――どう考えても危険な爆弾だ。さっさと処理しないと。

 僕は盗賊を追うよりも爆弾の処理の方を最優先に動く。

「ルパ、少し待っていて。すぐに済ませるから」

「ま、また待たせるの……」

 ルパは泣きそうな目をしており、待たされるのが嫌いらしい。僕はルパの頬にキスをして、和ませたあと、頭を撫でる。

「大丈夫。すぐに戻ってくるよ」

「ぜ、絶対だからね」

「うん。絶対すぐに戻ってくる」

 僕はルパから手を放し、爆弾と思わしき物体に触れる。上からローブを掛け『ファイア』で火薬が爆発する間もなく燃やし尽くす。火薬が爆発するにはガスが高圧にさらされなければならい。だが、あまりに一瞬で燃え尽きるので、ガスなど発生しない。

 包は灰になり、一個目の処理が終わった。一個ずつ行うのは面倒なので、革袋に三個の爆弾を入れ『ファイア』で燃やし尽くす。三個とも灰になり、袋をひるがえして灰を出した。プルスはむしゃむしゃと食べ、爆弾の処理は終了する。

「よし、これで無駄な死人は出ない」

 僕はルパのもとに戻り、抱き着かれた。見えていたはずなのに、少し離れただけでこれである。盗賊をすぐに追いたかったのだが、ルパの抱き着きのせいで数秒遅れた。

「ルパ、襲ってきた男達のにおいはわかる?」

「う、うん。わかる。でも、あの男達の元に行くの?」

「そうしないと、他の人も被害にあう。お金だって他の人が預けてあるお金だし、取り返さないと、皆が困ってしまうよ」

「別にニクスがしなくてもいいじゃん。他の人に頼めばいいのに、なんでニクスがするの」

「僕たちしか、盗賊の行き先がわからないからだよ。他の騎士が周りの人の証言から探すよりも、においのわかっている僕たちが行った方が早い」

「うぅ……。わかった。行くよ……」

「ありがとう、ルパ。今日も美味しい肉を食べようね」

「う、うん。絶対だからね」

 ルパはフードを外し、スンスンとにおいを嗅ぎながら耳を動かす。においと足音で敵を探っているらしい。こういう索敵に関してはプルスよりも性格で早い。

「いた。北の方向に移動している。まだ、馬車に乗ってないからすぐに追いつけるよ」

「よし、じゃあ行こうか」

 僕とルパは入口から飛び出し、北の方向へ走る。ルークス銀行の周りは混乱状態になっており、人が数名血を出して倒れていた。助けられる人は助けるものの、亡くなっている方もおり、時間が取られる。

「ニクス、早くしないと逃げられるよ。においがドンドン遠くになる」

「わかってる。でも、死にそうな人は放っておけないよ」

 僕は失血多量の人の傷口に手を当て『ファイア』で焼き回復させる。最低限の回復をした後、盗賊を追った。
ルークス銀行から少し離れると、静かな雰囲気の一等地にやってきた。人々の恐怖していない顔から見ると騒ぎを知らないらしい。

「ニクス、草むらに服をはぎ取られた男がいる。多分、変装して移動しているんだと思う。でも、においは消えてないから、追えるよ」

「よし。じゃあ、追いかけよう」

 僕とルパは盗賊を追いかけ、話合っている四人の男達を見つけた。先ほどと服装が変わっているが、風貌は変わっておらず、人相も悪い。ルパも臭いからしてあの四人で間違いないと言っている。後方には逃走用の馬車が準備されており、何かを待っているようだった。

「ニクス、他のやつらが南の方角から来た……」

「本当だ。って、騎士の女性が一人捕まってるよ。人質に取られたのか、騎士達の攻撃を掻い潜るために利用されたんだな……」

 僕とルパは茂みに隠れ、様子を窺っている。南の方から戻ってきた盗賊たちは人込みの少ない道を通って来たらしく、変装をしておらず、人数で言うと四人ほど。
 騎士を合わせて五人か。騎士は重い鎧をはぎ取られ、鎖帷子だけを付けた状態で手足を縛られ、口に銃口を入れられており、何もできない状態にされている。

「おいおい、何連れてきてんだよ。さっさと殺して捨ててこればよかったのによ」

「すみません、お頭。最近してないもんですから、収まりが利かなくって」

「たく、さっさと済ませろよ。時間がねえんだ」

 お頭と呼ばれていたのは先ほど、お金を受け取っていた男だった。四人が馬車の中に女性と入り、うめき声のような声をあげる。何とか抵抗しているのかもしれないが、ディアさんでもない限り、普通の女騎士に男八人を相手にしてかなう訳がない。

 馬車の周りには変装した四人が見張りをしていた。

「ニクス、どうするの……」

「ルパは周りから敵が来ないか見張っておいて。僕は盗賊たちを無力化してくる」

「わかった。気をつけてね。ニクスが本気で殴ったら頭が吹き飛んで死んじゃうから」

「相手の心配をするなんて、ルパも少しは優しくなったのかな?」

「いや、死んでもいいと思うけど、ニクスが犯罪者になったら私の行き先が無くなる」

「はは……、現実を見てたのか。わかった、殺さないように縛りあげるよ」

 僕はいかにも迷った人を演じて、馬車の方に近づいていく。

「あれ……。ここ、どこだ……」

 僕は身を縮め、弱弱しく動き、敵を油断させながら近づいていく。人は数秒で敵を判断し、強いか弱いかを決め、警戒度合を決める。そのため、僕の弱弱しさは彼らにも通じた。

「あ、人がいた。すみません。少しお尋ねしてもいいですか?」

「あ、あぁ、構わねよ」

 僕が一番に向ったのはお頭と呼ばれていた、男性だ。服装はスーツ姿になっており、鉄砲や剣を持っていたら不自然なのでどこかに隠しているようだ。周りの四人はお頭なら大丈夫だろうと言う安心感から、見向きもせず、他の警戒をしていた。

「えっと、冒険者ギルドってどこですかね。始めてきた街でわからなくて……」

「ぼ、冒険者ギルドなら、南の方向にありますよ。この道を真っすぐ進んでもらって大通に出たら、右に曲がっていただければ冒険者ギルドです……」

「そうですか、ありがとうございます」

――惜しい。冒険者ギルドは真っ直ぐ進んで左だ。なんで知らないんだろう。焦っているのかな。まあ、合ってようが間違ってようが関係ないけど。

 僕はウェストポーチから縄を瞬時に取り出し、お頭の両脚を縛る。

「なっ! きさま! うわっつ!」

 僕は縄を引っ張り、お頭を地面に顔面から叩きつける。一撃で伸びたのか、動かなくなったので脚を曲げ縛りあげたのち、両手も関節から動かないよう、完璧に縛り上げる。ルパを縛っているので、瞬時に縛る行為には慣れていた。
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