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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

仕事が上手い者

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「そりゃあ、ディアさんは可愛くて強くてカッコよくて男子皆の憧れでしたからね。僕も何度か告白しようかなと思いましたけど、住む次元が違ったのでやめました」

「馬鹿だな、ニクス。ディアは熱い女だからな、ニクスみたいな熱い男が告白すればもしかしたら、あっただろ」

「どうでしょうね~。ディアさんはルークス王国の第一王子と婚約が決まっていたとかないとか、噂で聞いたんですよ。もう、そんなこと聞いちゃったら告白どころじゃないですし」

 僕に突っかかって来たスグルさんは普通に良い人だった。ただ、人との関わり方がよくわからないだけの男性で、消極的な僕と逆だった。積極的が故、孤立を味わっている。

「にしても、こんなところでニクスに合うとは思わなかった。万年最下位でも、卒業出来たのなら、どこかの配属先に送られてるんだと思っていたが、冒険者になってるなんてな。ま、それも人生か」

「スグルさんはディアさんよりも立場が上になったんですね。上級騎士からたった二年で特級騎士になるなんてすごいですよ」

「まぁ……、ディアの場合は今回の件みたく、騎士団とそりが合わないんだ。あいつ、集団行動が苦手だろ。だから、仲間内からも批判があるし、あいつ自身がべらぼうに強いから、男の騎士達から目の仇にされてるんだ。学生の頃はディアの尻を追ってたくせにな。ま、俺も人のこと言えないんだけど」

 スグルさん達は自分とディアさんとの力の差に絶望し、追うのを止めたそうだ。告白したときも、途中であきらめるような奴は好かんと言われバッサリと振られたようだ。

「俺も結婚しちまったし、家庭を支えるために騎士を続けざるを得ない。ま、特級昇格筆頭だったディアがああだから、俺が運よく特級に昇格したわけだ。ありがたいような荷が重いような……」

「スグル! どこに行った! 飛行船の準備をしろと言っただろうが!」

「あちゃ~、副団長、切れてやがる……。これは出て行かないと俺の首があやういな」

 スグルさんは頭を掻き、副団長のもとに向かう。

 ――スグルさん、わざと準備していなかったんだ。街の人の救出に時間を当てるために……。すごく良い人じゃん。

「スグル……。あと、半日持たせられるか……」

 先ほどディアさんを庇っていた騎士がスグルさんのもとにやってきて小さな声を掛ける。

「半日ですね。厳しいっすけど了解っす。はぁ、気難しい副団長の相手を押し付けられる俺の身にもなってほしいですよ」

「今度、高級な葡萄酒を二本送ってやる。副団長の機嫌取りは任せた」

「はいはい。先輩は引き続き、人の救出を頼みます」

「ああ、任せておけ」

 スグルさんに声を掛けていた騎士はまたすぐに移動する。

「スグル! 何をしている! 飛行船の準備が全く進んでいないじゃないか!」

「あ~、すみません、今、海から吹く東向きの風が強すぎてですね、飛行船が飛ばせない状況なんですよ。俺の予想ではあと半日ほど風が止まないかと思われます。なので、副団長殿は優雅にティータイムでも過ごしたあと、風呂に入って仮眠をとって、すっきりとした表情で王都に帰りましょう。その方が、凱旋感が出てカッコよく見えますよ」

「ちっ……。無駄に頭を使いよって。仕方ない、その話しに乗ってやる」

 副団長は瓦礫にドカッと腰を下ろして脚を組んだ。スグルさんはお茶の準備をしてさサッと出す。

「無駄に上手い茶を出しおって……」

「お褒めいただきありがとうございます。こちら、茶菓子です」

「うむ……」

 副団長はスグルさんの手によって抑え込まれていた。やはり次席なだけあって優秀な人なんだな。僕は全く覚えてなかったけど……。

「副団長殿、ディアの件ですが、私に一存願えませんでしょうか? 彼女とは同期なので、性格や考え方などが手に取るようにわかります。副団長殿のイライラの種であるディアは私の方で……」

「それはならん。今回の件は私が持つ。無能に利用価値はないからな、お前のように優秀な者の時間を割くのはもったいないだろう」

「それならば、副団長殿の時間の方が私の時間の何倍も貴重だと考えます。一分一秒だって無駄には出来ないでしょう。ですから、私にタダ働きをさせてください」

「まぁ、お前がそこまで言うのなら、変わってやらなくもない」

「ありがとうございます」

 スグルさんは騎士団長と一緒に会話をして上手く丸め込んでいた。ほんと世渡り上手なんだな……。

 僕に話し掛けてきた時は怖い人なのかもしれないと思っていたけど、全然怖い人じゃなかった。対する相手に顔を上手く変えられるのはすごいな。僕には絶対に出来ない芸当だ。

 僕はルパの隣に添い寝し、ギュッと抱きしめる。

 僕はルパに何もかもさらけ出している。良い顏も悪い顏も、全部見せているからこそ、仲が深まっているのかもしれない。

 ルパの柔らかい頬に軽く口づけすると、ルパはふにゃふにゃ~っと顔がふやけて笑う。寝ているのに嬉しい反応をしてくれちゃって……。

「ここで少し休んだら、僕も他の人達と一緒に救助を再開しよう」

 僕は寝ていた。でも、人以外の脚音が聞こえ、警戒を強める。

「…………」

「ディアを傷つけないようにするためにはこうするしかない……」

 僕は頭上に危機が迫っていると感じ、眼を開けて頭を少しだけずらす。すると、大きな脚が僕の頭があった位置に踏み落とされており、地面が潰れていた。

「くっ! 寝てねえのかよ!」

 僕の寝こみを襲ったのはディアさんと一緒にいたペガサスだった。

 僕は手でペガサスの前脚をつまずかせ、頭を前のめりにさせたあと、両脚で首を挟み、投げ飛ばす。

「ぐおあぁあっ!」

 ベガサスは地面に叩きつけられ、僕に首を押さえられているため、動けない。

「何のつもりですか。寝込みを襲うなんて騎士あるまじき行為ですけど」

「くっそ……。そう簡単に殺させてはくれねえか……」

 ペガサスは大きな姿から、プルスと同じようにぬいぐるみのように小さくなった。

「頼む、ディアを殺さないでくれ……」

 小さくなったペガサスは頭を付けて僕にお願いしてきた。
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