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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

回復した騎士

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「と、とりあえず、ディアには近づくな。わかったか」

「近づくなと言われても……、もうすぐそこまで来ていますよ」

「なにっ!」

 ペガサスさんは辺りを見渡し、仮設テントの辺りを警戒する。

「ぺガ~! どこに行ったんだ! ペガ~! 私が迷子になるだろ~! 早く出て来い!」

 ディアさんは大きな声を出し、歩いているようだ。

「く……。出て行くか……」

 ペガサスさんはディアさんのもとに駆けていく。

「ぺガ。どこをほっつき歩いていたんだ。心配したぞ」

「ディアの方こそ、もう目を覚ましたのか。早いお目覚めだな」

「私の回復速度を舐めてもらったら困る。持久力も上がってるしな。ところで、ニクス君はどこにいるか知らないか? 助けてもらったお礼を言いたいのだが……」

「あ、あのガキはもうこの街にはいない。さっさと見切りをつけて逃げて行ったぜ。ほんと情けない奴だな~。ディアはあんな男を忘れてさっさと仕事に戻ろうぜ」

 ペガサスさんはありもしない嘘を饒舌にペラペラと喋り、ディアさんに教える。ディアさんに僕を嫌わせたいのだろうか。

「そうか、ニクス君はもういないのか……、残念だ」

 ディアさんは胸に付けているブローチを握り、俯く。

「スンスン……、この匂い……、金髪のカッコいいお姉さん」

 ルパがディアさんのにおいに反応したのか、目を覚ました。プルスの炎のおかげで体力が回復したのかもしれない。

「ん……。胸がもぞもぞする……」

 ルパは自分の手を服の内側に入れ、プルスを摘まみ出すと握りつぶして殺した。

「勝手に入って来るな、エロヒヨコ。ニクスじゃあるまいし」

 プルスは灰になり、ルパに叩かれる。そのまま、五秒だってプルスは復活した。

「ぴよ~。いきなり殺さないでくださいよ。こちとら、ルパさんの体を癒してあげていたんですからね。もう少し感謝してほしいですよ」

「ふ~ん。そうなんだ。じゃあなんで胸の中にいたの?」

「主がルパさんの胸の中に入って温めてあげてと命令してくださったんですよ」

「そうなんだ……。じゃあ、許してあげる」

 ルパはプルスを包むように持ち、胸の内に戻す。いちいち戻さなくても良いと思うけど……。

「こんなヒヨコと話している場合じゃなかった。お礼を言いに行かないと!」

 ルパは僕が止めるよりも先にテントを飛び出していった。僕も仕方なく、後を追いかける。

「た、助けてくれて、ありがとうございました。魔法、すごくカッコよかったです」

 ルパはディアさんのもとに駆けつけ、お礼を言っていた。ペガサスさんは蹴り掛かろうとしているが、ディアさんにがっしりと後ろ脚を掴まれ、逆さまにされている。

「この声……君はニクス君と一緒にいた子かな?」

「はい。私はルパと言います。助けてくれてありがとうございました」

 ルパはディアさんに頭を深く下げる。

「いやいや、私の方こそ、君たちの声援に救われた。あの声が無かったら私は途中で力尽きていただろう。本当に感謝している」

「あの、あの! ディアさんって言うんですよね。ニクスから聞きました。すごく強いんですよね。私も強くなりたくて手合わせしてもらってもいいですか!」

「ニクス君が私の話をしていたのか? 具体的にどんな?」

「え? えっと……、僕よりも強くてカッコイイ騎士だって言ってた気がします。私はニクスに勝ちたいんです。ニクスよりも強い相手と戦えば少しは強く成れると思うんです」

「ニクス君に勝つか……。それはたしかに難しいな。よし、戦ってみようか!」

「ほんとですか! ありがとうございます!」

 ルパは頭を下げる。

「でぃ、ディア。今は疲れているだろ。早く王都に戻ろう! お前の父上も心配しているはずだ。これ以上勝手な行動はお前の身を危険にさらす羽目になる」

「ぺガ、お前はいつからそんな冷めた性格になったんだ? 昔はもっと血気盛んに戦いを望んでいただろ」

「今と昔は情況が違う。今のお前は騎士だ。騎士以外に能が無いお前が位を失えば生きていけないぞ」

「そうかもしれないな……。だが私は、自分の騎士道を貫く。従うのは自分の心だけだ!」

 ――ディアさん、相変わらず熱いな……。

「はあぁ……。もう、知らん!」

 ペガサスさんは宙ぶらりんになりながら、前足をだらんと下げた。

「ニクス~! 私、ディアさんと戦えるって~!」

 ルパは僕の方向に手を振る。出て行くしかない状況に、僕は天幕を上げて外に出た。

「に、ニクス君……。きょ、今日はお日柄もよく……」

「物凄く曇ってますけどね」

「んっ、んん。あー、この子はニクス君の知り合いなのかい?」

「僕の友達です。最近はずっと一緒に住んでいます」

「へ、へぇ……。つまるところ、同居と言うことかな?」

 ディアさんの口角が引きつりながら笑っている。

「そうですね。同居しています。と言うか、ルパはもとの家がありませんでしたからね。元奴隷ですし、僕が商人から引き取った形で知り合いました」

「奴隷?」

 ディアさんはルパのフードをそっとめくる。すると愛らしい大きな獣耳が立、ルパの表情が少し強張る。

「じゅ、獣族……、可愛い~!」

「へ?」

 ルパはディアさんの反応に戸惑い、頬擦りされて耳やら頭を撫でられている。

「ちょ、ちょっと、ディアさん。いきなりどうしたんだ」

「す、すまない。最近、心が疲れていてな。動物を愛でるのが趣味になってしまって……。昔飼っていた犬のポチがこんな耳をしてたんだ。驚かせてすまなかったな」

「貴族なのに、獣族に可愛いなんて気持ちを抱くなんて珍しいな……」

 ルパは照れながら、呟く。

「そうだな。確かに貴族の中には獣族を嫌う者もいるが、私のように嫌わない者もいる。にしてもルパは可愛いな~。妖精のようだ」

「ほ、褒めても何も出ないぞ……」

「別に何も出さなくていいさ。ルパのおかげで私の心が回復したからな。じゃあ、早速戦うとしよう」

 ディアさんは移動し、戦いがギリギリ出来そうな広場にやって来た。ディアさんの武器はランス。ルパは双剣だ。

「はぁ、何で俺がニクスに捕まっていないといけないだ……」

 ペガサスさんは僕の肩にべた~っとお腹を付けて乗っており、僕の相棒のようになっていた。加えて僕のローブの中にはプルスがおり、僕は神獣の二体に止まり木にされている。
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