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実家に向かう

クワルツ兄さんの仕事場

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「そうだよ。行き帰りは馬車で移動していたんだ。でも、学生の時は寮に泊まっていたから、年に数回しか通らなかったけどね」

「ふ~ん」

 空を移動すると本当に早い。馬車で移動しても、四日ほどかかる道が半日も掛からずに王都の城門が見えてきた。高さ五〇メートル近くある、岩の壁だ。王都の境目に作られた壁が空から見ると立体模型のように感じる。でも王都を取り囲むように作られている本物だ。

「王都……。私達もあそこにいたんだ……。ほぼ外に出た記憶はないけど……」

 ミアはぼそぼそと呟き、いい思い出が全くないと言う。僕は辛い印象が少しでも払拭できるように、頑張らないとな。

 飛行船の高度がどんどん落ちていく。王都内に作られた飛行場に向っているらしく、滑走路にゆっくりと降りて行った。長い空の旅が終わり、僕たちは久しぶりの地上に降り立つ。

「う、うわっ。これが地面。ここが地上。安定感が違う……」

 ルパは足踏みをして地面の大切さを実感していた。

「あぁ~! 早く動きたいです~!」

 ミアはぐぐ~っと伸びをして運動不足を解消のために走りたがっている。

「そうだね。じゃあ、王都の中は僕が案内……。出来るほど土地勘が無いや」

 僕は一二歳から一五歳までの間、王都に住んでいた。だが、騎士養成学校にしかいなかったので、土地勘がほぼ無い。遊ぶ友達もいなければ、連れ出してくれる強引な男達もいなかった。なので、休みの日は学園の体育館で鍛錬をしていたり、剣を振っていたりしただけだ。

「ん~。とりあえず、見えている王城に向かおう。誰か知り合いがいるかもしれない」

「大丈夫なの……」

 ルパは眼を細め、苦笑いをしながら、僕の方を見ている。

「まあ、王都は警備がしっかりとしているはずだから、悪人は簡単に動けないよ。親切な人も多い……気がする」

 実際、王都の人としっかりと喋った経験がないので、親切な人が多いのかどうかもわからない。僕、王都に三年間も住んでいたんだよな……。

「じゃあ、ニクスさんも私達と同様、ほぼ初めて王都を回るんですね」

「そう言うことになるね。王城に行けば誰かしらいると思うから、早速行こう」

 僕たちは王都の無駄に大きな飛行場を出る。すると今まで見て来たどの街よりも雰囲気がお金持ちだった。加えて煌びやかとでもいうんだろうか、歩いている人がとんでもなくカッコよく見える。僕の格好がみすぼらしい。別に気にしている訳じゃないが、冒険者っぽい人が今のところ見当たらないのだ。

 建物は白っぽく、レンガや石などで立てられていた。きっと値段が高い素材なんだろうな。

 辺りを見渡せば、奴隷たちが建物の素材を運んでいたり、仕事をしている王都の人間がいたり、何ともせわしない所だ。

「なんか歩いていると疲れるな……。飛行船に乗っていたからかな。そのせいで筋力が落ちているのかも。一大事だ」

「うへぇ、私も足が重い……。三日動けなかったと考えると九日も戻っちゃったってわけか」

「私は体が重いと感じませんけど、ちょっと太った気はします……」

 僕たちは三日間も運動をしていなかったため、体の機能が衰えていた。移動していたのだから仕方ない。もとに戻すには運動するしかない。

「ちょっと駆け足で王城に行こうか。その方が、体の感覚が戻るはずだよ」

「わかった」

 ルパとミアは駆け足になった僕の後ろについてくる。全力で走るのは危ないので、駆け足にした。人と衝突しないように配慮し、王都の中央に位置している王城に移動した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ、でっか~!」

 ルパは大きな声を出し、高さ一〇〇メートル以上の建物を見て口をあんぐりと開けていた。

「大きすぎて近くで見ると視界に入り切りません」

 ミアも頭を上下に動かして視線を変えている。

「僕も始めて来た。クワルツ兄さんが仕事をしていると思うんだけど、どこにいるのかな」

 僕たちは王城にやってきたは良いものの、どうやって中に入れてもらおうかと悩んでいた。

「あの、王城に入れてもらえませんか?」

 僕は王城を守っている近衛騎士の男性に話しかけた。

「なにようですか?」

「王城で働いている兄と話をしたいなと思いまして」

「兄? でしたら、名前を教えてください。知っている人物なら、連れてきます」

「クワルツ・ガリーナと言う王宮教師なんですけど」

「ああ~。クワルツさんですか。私も剣術の指導をしていただいております。身分証の方をお見せいただけますか?」

「わかりました」

 僕は近衛騎士の方にギルドカードを見せた。

「ニクス・フレイズ……。家名が違うようですけど?」

「えっと、色々訳がありまして、クワルツ兄さんに聞いてもらえばわかると思います」

「そうですか。では、少々お待ちください」

 近衛騎士の方は別の騎士と入れ替わり、王城内に入っていった。

「ニクスの兄、こんなでっかい建物で働いてるの?」

 ルパは口を未だにあんぐりと開けながら聞いてきた。

「そうだよ。すごいでしょ」

「兄がすごいのに、ニクスは無職なんだね」

「い、今は一応冒険者ってことになっているんだから、無職じゃないよ」

 僕はルパの頭に手を置いて髪をグシャグシャにしてやった。

「もう、髪を直すの意外と面倒なんだから、やめてよね」

 ルパは顔を振り、髪をはためかせたあと、手櫛で髪を整え始めた。

「たとえ、ニクスさんが無職でも、二人のもと奴隷を養えるだけの経済力があるんだからいいじゃないですか。私はニクスさんが無職でもお仕えしますよ」

 ミアは僕を守ってくれているようだが、全然守れておらず、逆に心を攻撃して来ていた。

 僕の心に無職と言う剣が突き刺さり、何度も止まりかけている。

 僕が白くなっていると、近衛騎士と見覚えのある顔がいた。

「ニクス!」

 知り合いと言うのも、赤髪の長髪を靡かせながら一八〇センチメートル越えの長身男性が万歳し、僕の方に掛けてくる。どう見てもクワルツ兄さんだ。服装は教師っぽく、白っぽいローブを羽織っており、剣を腰に掛けている。

「あれ? もう、ニクス、何でかわすんだよ」

「ひ、久しぶり。クワルツ兄さん。一年ぶりかな」

 僕はクワルツ兄さんの抱き着き攻撃をかわし、挨拶をした。
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