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仲間が増えた生活

いい肉の日

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「一一月二九日は肉が安いよっ! 全品二九パーセント割引だ。一年に一度の大安売り、見逃したらもったいないよ!」

 肉屋の店主が叫び、多くのお客さんを呼び寄せていた。

「肉……。肉食べたいっ!」

 ルパはいつも通り、肉を食べたがった。

「私も肉が食べたいです。ニクスさん、いいですか?」

 ミアも肉を食べたがった。どうやら、両者共に肉のにおいにつられたらしい。

「わかった。じゃあ、食べられるだけ、買って来てもいいよ。いくら必要か言ってくれれば出すから、気にせずに買って来て」

「ありがとうございます」

 ミアは人込みの中に突っ込んでいった。ルパはしり込みしており、一歩出て一歩下がってを繰り返していた。

「ルパ、食べたい肉が買えなくなるかもしれないよ」

「う、うぅ……。行きたいのに、人が多すぎて行けない……。あそこにいるのが全部魔物だったら余裕で突っ込めるのに」

「無理しなくてもいい。でも、少しずつ慣れていった方が辛い気持ちになりにくいよ。一気に治そうと思っても無理だから、ミアに欲しい肉を頼みに行くように近づいて小さな声で言えば、ミアは気づいてくれるよ」

「わ、わかった……」

 ルパは二歩進んで一歩戻る動作を繰り返す。すると、一歩ずつ一歩ずつ、確かに前に進む。それだけで、ルパの成長を感じられた。人込みに向っていくなんて、前のルパからしたら考えられない。ものすごい進歩だ。

「はぁ、はぁ、はぁ……。み、ミア……。私、カルビ……いっぱい食べたい」

 ルパは人込みに近づき、ぼそぼそと話したあとすぐに戻って来た。

「言えた。言えたよっ!」

 ルパは腕を大きく広げ、僕に抱き着いてくる。

「凄い、凄いよ、ルパっ! 頑張ったね。ほんと、頑張った」

 僕はルパをぎゅっと抱きしめながら背中を撫でる。尻尾がブンブンと振られ、ものすごく喜んでいるのが見てわかる。

「ニクスさん、合計で金貨一二枚、三割引きで、金貨八枚と銀貨四枚だそうです」

「わかった。じゃあ、中金貨一枚でお釣りをもらって」

「わかりました」

 僕はミアに金貨一〇枚の価値がある中金貨を一枚渡す。ミアは、お店の方に戻り、肉を購入していた。

 ――いったい肉屋の肉はどこで手に入れてるんだろう。牧場の経営でも始めたのかな。プルス、なんでかわかる?

「冒険者さんが増え、街の周りにいる魔物を狩る仕事が増えたため、街の魔物被害が減ったのでしょう。自警団も魔物の増加に眼を光らせるようになったため、動物を飼えるようになったと思われます。以前よりも肉の価値が下がり、多くの者が買えるようになったみたいですね」

 ――なるほど。そう言う考えも出来るのか。じゃあ、プルスのおかげで肉が安く買えるわけだね。

「その通りです。私のおかげでルパとミアは肉が沢山食べられるのですよ」

 プルスは誇り高く胸を張り、鳩胸になる。

「ニクスさん、買ってきました」

 ミアは木箱を持ってきた。木箱の中に大きな葉でくるまれた肉が入っている。木箱分の良い肉を食べられるなんてとても贅沢だ。

「はわわーっ! 早く食べたい!」

 ルパは木箱を覗き込み、においを嗅ぐ。涎をじゅるりと啜り、口を服の裾で拭った。

「じゃあ、家に帰ろうか」

「はーいっ!」

 僕達は街の外に出てプルスの翼を使い、家に移動し、夕食の準備を行った。
 今の季節は冬。もう、一二月手前だ。家の外で料理をしたら凍えてしまう。家の中にある囲炉裏で炭を焼き、自在鉤で大きな鍋を釣るし、お湯を沸騰させる。
 買って来た牛筋肉を四角く切り、刻んだニンニクと共にフライパンで炒め、鍋の中入れる。
 野菜を使ったソースと葡萄酒を入れ、弱火で温める。こまめに灰汁を取る。三〇分ほどしたら再度葡萄酒を入れ、はちみつとバター、鳥ガラの出しと塩、海洋生物から取れたソース、各スパイスを加える。最後の方にニンジン、ブロッコリーなどを入れて煮詰めた。ミアに言われた通りの手順で行うと案外できるのか、料理っぽくなった。

 ルパとミアはまた違う料理を作っていた。

 ルパは外で肉を焼いている。炭火焼にすることで焼き肉屋の味を再現するようだ。
 ミアは牛肉のステーキを焼いている。もう、肉尽くしで、こんなに贅沢をしてもいいのだろうかと考えてしまう。肉が安く買えたから行っているわけだが、ルパとミアが楽しそうにしているので、無駄なお金ではないだろう。

 ルパとミアも肉が焼き上がったそうなので、皆で炭と鍋を囲い、座る。

「いや、暖かいねー。プルスが炭の中でぬくぬくしているからかな」

「外は寒かったですけど、家の中は暖かい……。私、もう外で寝られないかも……」

 ルパは炭に手の平を見せ、温まっていた。

「寒いのは苦手ですけど、我慢と言うほど我慢していない気がします。この家の断熱効果が高いんですかね?」

 ミアは肩から角ウサギの毛皮で作ったローブを羽織っており、寒さを和らげていた。

「じゃあ、皆で作った料理を食べていこうか」

 僕はお玉で木製のお椀に鍋の中でくつくつに得ているビーフシチューを注ぐ。黒っぽい茶色で、とても良い匂いがする。牛筋肉が柔らかくなっていたらいいのだが……。

「はむ……。んっ。美味い……」

 ルパは軽く微笑み、尻尾を振った。僕は安堵した。まあ、ルパも僕同様に馬鹿舌な一面もあるので、まだはっきりとは言えない。自分で食べてみても美味しいと感じるが、ミアはどうだろうか。

「いただきます……」

 ミアは神に祈りを捧げてから木製のスプーンで食す。

「はむ……。うん……。美味しいです」

「よ、よかった……。もう料理を作ると心臓に悪いね……」

 僕は胸をなでおろし、安堵する。ミアに美味しいと言われたら、本当に美味しい証拠だ。そう口にしたわけじゃないが、ルパの表情が不服そうだった。私は馬鹿舌じゃないと言いたげな表情で、僕は苦笑いを返す。
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