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仲間が増えた生活

美味い話

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 僕はミアの持っている紙袋を代わりに持つ。

「ニクスさん……」

「持ちにくそうにしてたし、これくらい軽いからさ。持ち役くらいにはなるよ」

「えへへー、ありがとうございますっ」

 ミアは僕の腕に抱き着いてくる。獣族の奴隷を回りにつれている者はいるが、ここまで仲良くしている姿は見えない。周りで少々浮いてしまうほど仲が良すぎるのも大概にした方が良いか。

「冬ですし、カボチャのシチューとかどうですか?」

「いいんじゃない。すごく美味しそう」

「私も食べたーい」

 僕達はカボチャに玉ネギ、ジャガイモ、ニンジン、牛乳、バター、牛肉、小麦粉、と言う具合に食材を大人数分買い、家に戻る。
 ミートさんとマリアさん、ルパ、ミアの四名が食事を作り、僕と父さん、クワルツ兄さん、ガイアス兄さんの四名はテーブルで家族同士、話しあっていた。

「父さんとガイアス兄さん、どっちもお金をしっかりと払えてるようだね」

「さすがに息子に金を借りっぱなしなのは親としての沽券にかかわる」

「俺も、弟から金を借りっぱなしは情けない。少しでも早く返せるよう、努力している」

 父さんとガイアス兄さんはお酒が抜け、素面に戻っていた。

「二人共、ここだけの話、オリハルコンを買って残しておくと言う投資しない?」

 クワルツ兄さんは何やら怪しげな話をし始めた。

「オリハルコンを買って投資になるのか?」

「オリハルコンを買うって言っても相当高いだろう」

「それが、最近、沢山流通しているんだよ。同じ量でも前より一〇分の一くらいの値段なんだ。多くの貴族が買い溜めして価値が上がっている時に売るんだよ」

 クワルツ兄さんは目をお金に変えて絶対儲かると熱弁を振るう。なんなら、すでに買っているらしく、一〇〇グラム金貨一〇〇〇枚で買ったそうだ。今持ってきているらしく、懐からリングケースのような箱を取り出し、見せてきた。

 ――僕以外の人がオリハルコンを見つけたのかな。じゃあ、オリハルコンの価値も落ちていくなー。ま、沢山儲けさせてもらったし、十分か。でも、なんかこの話、怪しいんだよな。

「クワルツ兄さん、買ったオリハルコンをちょっと見せて」

「金貨一〇〇〇の価値があるんだからな。丁重に扱うんだぞ」

「う、うん……」

 僕はクワルツ兄さんから、オリハルコンと思われる鉱物を受け取った。少々輝いており、ぱっと見たところオリハルコンのようだ。ただ、僕が知っているオリハルコンと比べて何とも魅力がない。

 ――これがオリハルコン? こんな、へんてこな金属が? 僕が見つけたオリハルコンはもっと光り輝いていたんだけどな……。

「クワルツ兄さん、言いにくいんだけど、この品は偽物だよ」

「へ?」

 クワルツ兄さんはあまりにも間抜けな顔をした。頭が良いのでこういう悪徳商売に引っかからないと思ったが、オリハルコン自体、本物を見た覚えがある人物が限られる。現物を知らないなら、騙されても仕方がない。

「な、なんでそんなことがわかるんだい?」

「んー、じゃあ。魔力を流して叩いてみてよ。壊れなかったら僕が金貨一〇〇〇払うからさ」

「ちょ……。今、オリハルコンはすごい高騰しているんだよ。今じゃ金貨五〇〇〇枚くらいの値段になっていると言うじゃないか。そんな簡単に使えるわけない」

「じゃあ。壊れなかったら金貨五〇〇〇枚払うよ」

「むむ……、そ、そこまで言うなら……」

 クワルツ兄さんはオリハルコンと思われる金属に魔力を流す。
 魔力に当てられたオリハルコンは形が固定され、何物にも壊されないと言われるほど硬くなる。魔力を流す前は火で編成させることができ、様々な武器や防具として使用できるため、とても使いやすく価値が高いそうだ。

 クワルツ兄さんの持っているオリハルコンにしっかりと魔力が流れた後、机の上においた。そのまま、握り拳で叩く。すると、パチンと言う快音を鳴らす。クワルツ兄さんの顔が青ざめ、拳の尻には割れた金属片がくっ付ていた。

「はは……。ははは……。わ、割れちゃった……」

「ぷぷっ……」

 父さんとガイアス兄さんが笑い、泣いているクワルツ兄さんを見る。あまりにも不憫だ。まあ、美味い話に騙されたクワルツ兄さんも悪い。金貨一〇〇〇枚は一瞬で笑いの種となり、水の泡となった。

「ああ……。私の金貨一〇〇〇枚……」

 クワルツ兄さんはテーブルに突っ伏しながら涙を流し、握り拳を作っていた。

「でも、金貨一〇〇〇枚で済んでよかったね。クワルツ兄さんなら嵌りすぎてもっと負債を抱えるところだったよ」

「よかったのか? うぅ……、良くはないだろう……。金貨一〇〇〇枚あったら、色々出来たのに……」

「まあ、よくわからないお金儲けに手を出したら痛い目を見ると言うことがわかってよかったじゃん。苦い経験を買えたと思えば安いんじゃない?」

「うぅ……、私の老後の資金が……」

 クワルツ兄さんは魂が抜け、灰になってしまったのかと思うほど覇気を失った。

「もう、だからやめておいたほうがいいと言ったのに。結局偽物だったんですね」

 ミートさんはシチューが注がれた皿をクワルツさん前に出す。

「ああ……良い匂い」

「お金が無くても楽しく生活していければいいじゃないですか。何なら、私がまた冒険者の仕事をして稼ぎますよ」

 ミートさんは頼りがいのある女性で、クワルツ兄さんは泣き顔になりながらミートさんにこれでもかと抱き着く。

「もう、クワルツさんは甘えん坊ですねー。よしよしー」

 ミートさんはクワルツ兄さんの頭を優しく撫でていた。その姿にいつぞや母さんの面影とかぶさる。

「はーい、あなたー。私特製シチューですよ。たくさん召し上がってください」

 マリアさんはガイアス兄さんの前に皿を置いた。

「マリア。いつも美味しい料理を作ってくれてありがとう」

「そんなー。私に出来ることと言えばこれくらいですから、気にしないでください。あなたはいっぱい食べてもっと体力をつけてくださいね」

「ああ、そうするよ」

 ガイアス兄さんは微笑み、マリアさんから食事を受け取っていた。

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