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四章 ハクハ領の救出作戦
45話 「俺の家、無ぇから!」
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さてと。
これは一体どういうことだ?
カラマリ領の畑に戻ってきた俺は、また、我が家でハクハの使いが待っているのかも知れないと考えて、顔だけ出しに向かった。
そのまま裏をかいてハクハに戻ろうとも思ったのだけれど、またサキヒデさんが椅子代わりにされていたら可哀そうだと、様子を見ることにした。
「もしかしたら、余計なお世話かも知れないけどさ」
慣れた足取りで俺が耕す畑から我が家に戻る。
だが、そこには誰もいなかった。
誰もいないどころか、俺の暮らしていた小屋自体が、木っ端微塵に散乱していた。
「……なにが起きたんだ?」
俺がハクハに向かった手から二日。
たった二日間で俺の家がなくなったぞ? どんな突貫工事だよ。それとも、これはアレか? 「お前の席、ねーから」みたいな意味なのか?
俺、カラマリ領から追い出されるのか?
「リョータ! いい所に来た!」
カラマリ領に捨てられたと信じたくない俺は、なにか別の理由があるはずだと、別の言い訳を考え始めていると、森の中からケインが姿を現した。
良かった。
話しかけて貰ったってことは、一捨てられたわけじゃないのか。
「ケイン! あの、これなにが起こったんだ?」
よく見ると被害に遭っているのは俺の家が家ではないようだ。周囲にある木々にも深々と斬撃が刻まれていた。
「あー、これはな。クロタカとカズカの喧嘩の被害だよ」
苦々しくカラマリに付けられた傷を見渡す。
……カズカ?
ああ、今日、俺を監視に来たのはミワさんじゃなかったのか。
「最初は二人共大人しく、お前の部屋で待ってたんだけどさ、なんか急に大きな音がして、様子を見に来たらこのざまだよ」
「……」
なんだろうな。
これ、俺が言えることではないのだけれど、あの二人を一緒にすれば、なんか喧嘩なりそうなのは、予想できると思うんだけど。
あの二人を混ぜたら危険だって、あからさまに分かるじゃない。
顔に書いてあるじゃない。
最初に大人しくしていたのは、クロタカさんの狂人ゲージが溜まっていなかっただけのこと。だが、カズカと言うもう一人の狂人に影響されて、一気にゲージが振り切ったのだろう。
「一応、皆には伝えたから、すぐに来るとは思うけど、あの二人はヤバいな。正直、今の俺じゃ厳しいわ」
喧嘩をしている二人を、一人で止めるのは無理だとケインが言う。
「そんなに凄いのか?」
〈紫骨の亡霊〉との一件を得て、成長したケイン。
冷静な戦力分析は確かだ。
そのケインが言うのだから、クロタカさんとカズカの喧嘩は相当なモノだろう。
「まあ、なんつうか、そもそも戦うステージが違うって感じだな。あいつらがやってるのは戦じゃない。殺し合いだ」
戦も殺し合いも似たようなものの気がするけれど、ケインにとっては違うらしい。それにしたって、毎度毎度、俺が戻ってくる度にサプライズだな。
サキヒデさんが女王様に虐められていたり、家が無くなっていたり。これだけ聞くとサプライズって言うよりは、殆ど嫌がらせみたいなもんだけどな。
俺とケインが話していると、
「ケイン! これは一体どういうことです? なんで、クロタカとカズカが戦っているのですか……? 見張りはあなたに任せましたよね?」
ケインを責める言葉と共に、弓を手にしたサキヒデさんが姿を見せた。
ん?
ケインが本当は見張りを任されていたのか? でも、そんなこと、本人は言ってなかったぞ? 二人が争いを始めたから、様子を見に来たのだと言っていた。
サキヒデの言葉に眉を顰める俺だが、ケインも俺と同じような表情を作っていた。
「は……? なんのことだよ。俺は大将から、「クロタカを、たまには働かせるように」って言われて変わったんだぜ? そして、それを提案したのがサキヒデなんだろ?」
「そんなこと、私は言っていません! 自分が楽をしたいからと言って、適当なことを言わないでください」
「適当じゃない! 大将に聞けば分かるはずだ」
かみ合わない二人の会話。
どっちが本当なのかは、この場で証明する方法はない。
ならば、優先すべきは争いを止めることだ。
顔と顔を近づけて言葉を言い合う二人。今にも喧嘩が始まりそうだった。ケインとサキヒデが争っても意味ないだろって。
「ほら、ここで言い合ってても、あの二人は止められないでしょ? なんとかしないと被害がどんどん大きくなるのでは?」
俺が二人の間に入って言う。
話を聞いて貰えなかったらどうしようかと不安だったが、良かった。俺の言葉は届いた。
「それは、まあ、確かに……」
互いに顔を背けてクールダウンする。
よし。
じゃあ、皆で協力してクロタカさんとカズカを止めよう! 俺がそう纏めようとしたが、
「こうなっては仕方ありませんね。一先ず、ケインの処罰を考えるのは後にして、彼らを止めますか」
サキヒデさんがチクリと言う。
……いやー、俺、そういうの駄目だと思うな。特にケインみたいな純粋な少年には要っちゃ駄目でしょ?
主力の一人だろうと子供なんだから。
「処罰ってまだ疑ってんのかよ! 大体、迎えがミワの時は自分が進んで引き受けた癖に、なんでカズカは俺に押し付けるんだよ! この、女好きの変態が!?」
俺の予想通りに、ケインが安い挑発を、迷うことなくお買い上げした。
「なっ……。そんなつもりはありませんよ。それに、彼女に私がどんな目にあわされたのか……。リョータさん。あなたも見たでしょう?」
えー、そのことを俺に振るかな。
しかし、この状況。
下手に嘘を付くのは避けた方がいいだろう。
「……喜んでいるサキヒデさんがいました」
「やっぱり!」
ケインが「へーんたい、へーんたい」と煽る。
だから、行動が安いんだってば。
「はぁ。あなたに聞いた私が馬鹿でしたよ。もういいです、クロタカは私一人で止めますから」
「あ、ちょっと!」
一人でクロタカたちの争いに向かおうとする。
その眼前に、人影が舞い降りてきた。
「カラマリ領がピンチなのに、なに、楽しそうに話をしてるんだよー。私も混ぜろよー!」
「カナツさん!」
大将が来てくれた。カナツさんがいれば百人力だ。三人が掛りならば、本気で戦いを続ける狂人達も止められるはずだ。
「あ、あの、ケインが自分の仕事をクロタカに……」
「だから、大将が言ったんだって!」
どちらの言い分が正しいのか。
審判の鍵を握るカナツさんに詰め寄るが、そんな二人を見て寂しそうに視線を落とした。
「……」
「大将?」
俺達に背を向けて肩を震わせる。
もしかして――泣いているのか?
「ねえ、二人はさ、本当にそんなことが大事なのかな? 家が無くなってるリョータの仇を取ろうとか思わないのかな?」
誰が、何を言ったかなんて今はいいでしょうとカナツさん。
確かに、それはそうなんだけどさ、
「……でも、カナツさん混ぜてって言ってましたよね?」
傍から見ていると都合が悪くなったから話題を変えたように見えたのだけれど。
横から口を挟んだ俺に対して言う。
「リョータは黙ってて」
「被害者なのに!?」
怖っ!
被害者の言葉を聞かない大将は、休むことなく自分の思いを語る。
「分かった。二人がカラマリ領の被害よりも、責任の所在の方が大事だって言うなら、それで構わない。ただ――見損なったよ」
カナツさんに嫌われた。
ケインとサキヒデさんはそう捉えたのか、
「いえ、決してそういう訳ではありません」
「俺もだ! 一番大事なのに領の皆だよ!」
どっちが悪いなんてどうでもいいと、互いの肩を組んでアピールする。
「じゃあ……。私に力を貸してくれる?」
「勿論です。ケインもそうですよね?」
「当たり前だぜ、サキヒデ! 俺達の力を見せつけてやろうぜ!」
なんだろうな。
この下らない茶番劇を見せられた気分は。
まあ、確かに茶番だろう。
少なくとも、ここで言い合っている時間分は、被害を抑えられたことは間違いないのだから。でも、まあ、ハクハに比べれば、俺はこっちの方が好きだな。
どんな時でも楽し気な皆に、少しだけ心が安らいだ。
これは一体どういうことだ?
カラマリ領の畑に戻ってきた俺は、また、我が家でハクハの使いが待っているのかも知れないと考えて、顔だけ出しに向かった。
そのまま裏をかいてハクハに戻ろうとも思ったのだけれど、またサキヒデさんが椅子代わりにされていたら可哀そうだと、様子を見ることにした。
「もしかしたら、余計なお世話かも知れないけどさ」
慣れた足取りで俺が耕す畑から我が家に戻る。
だが、そこには誰もいなかった。
誰もいないどころか、俺の暮らしていた小屋自体が、木っ端微塵に散乱していた。
「……なにが起きたんだ?」
俺がハクハに向かった手から二日。
たった二日間で俺の家がなくなったぞ? どんな突貫工事だよ。それとも、これはアレか? 「お前の席、ねーから」みたいな意味なのか?
俺、カラマリ領から追い出されるのか?
「リョータ! いい所に来た!」
カラマリ領に捨てられたと信じたくない俺は、なにか別の理由があるはずだと、別の言い訳を考え始めていると、森の中からケインが姿を現した。
良かった。
話しかけて貰ったってことは、一捨てられたわけじゃないのか。
「ケイン! あの、これなにが起こったんだ?」
よく見ると被害に遭っているのは俺の家が家ではないようだ。周囲にある木々にも深々と斬撃が刻まれていた。
「あー、これはな。クロタカとカズカの喧嘩の被害だよ」
苦々しくカラマリに付けられた傷を見渡す。
……カズカ?
ああ、今日、俺を監視に来たのはミワさんじゃなかったのか。
「最初は二人共大人しく、お前の部屋で待ってたんだけどさ、なんか急に大きな音がして、様子を見に来たらこのざまだよ」
「……」
なんだろうな。
これ、俺が言えることではないのだけれど、あの二人を一緒にすれば、なんか喧嘩なりそうなのは、予想できると思うんだけど。
あの二人を混ぜたら危険だって、あからさまに分かるじゃない。
顔に書いてあるじゃない。
最初に大人しくしていたのは、クロタカさんの狂人ゲージが溜まっていなかっただけのこと。だが、カズカと言うもう一人の狂人に影響されて、一気にゲージが振り切ったのだろう。
「一応、皆には伝えたから、すぐに来るとは思うけど、あの二人はヤバいな。正直、今の俺じゃ厳しいわ」
喧嘩をしている二人を、一人で止めるのは無理だとケインが言う。
「そんなに凄いのか?」
〈紫骨の亡霊〉との一件を得て、成長したケイン。
冷静な戦力分析は確かだ。
そのケインが言うのだから、クロタカさんとカズカの喧嘩は相当なモノだろう。
「まあ、なんつうか、そもそも戦うステージが違うって感じだな。あいつらがやってるのは戦じゃない。殺し合いだ」
戦も殺し合いも似たようなものの気がするけれど、ケインにとっては違うらしい。それにしたって、毎度毎度、俺が戻ってくる度にサプライズだな。
サキヒデさんが女王様に虐められていたり、家が無くなっていたり。これだけ聞くとサプライズって言うよりは、殆ど嫌がらせみたいなもんだけどな。
俺とケインが話していると、
「ケイン! これは一体どういうことです? なんで、クロタカとカズカが戦っているのですか……? 見張りはあなたに任せましたよね?」
ケインを責める言葉と共に、弓を手にしたサキヒデさんが姿を見せた。
ん?
ケインが本当は見張りを任されていたのか? でも、そんなこと、本人は言ってなかったぞ? 二人が争いを始めたから、様子を見に来たのだと言っていた。
サキヒデの言葉に眉を顰める俺だが、ケインも俺と同じような表情を作っていた。
「は……? なんのことだよ。俺は大将から、「クロタカを、たまには働かせるように」って言われて変わったんだぜ? そして、それを提案したのがサキヒデなんだろ?」
「そんなこと、私は言っていません! 自分が楽をしたいからと言って、適当なことを言わないでください」
「適当じゃない! 大将に聞けば分かるはずだ」
かみ合わない二人の会話。
どっちが本当なのかは、この場で証明する方法はない。
ならば、優先すべきは争いを止めることだ。
顔と顔を近づけて言葉を言い合う二人。今にも喧嘩が始まりそうだった。ケインとサキヒデが争っても意味ないだろって。
「ほら、ここで言い合ってても、あの二人は止められないでしょ? なんとかしないと被害がどんどん大きくなるのでは?」
俺が二人の間に入って言う。
話を聞いて貰えなかったらどうしようかと不安だったが、良かった。俺の言葉は届いた。
「それは、まあ、確かに……」
互いに顔を背けてクールダウンする。
よし。
じゃあ、皆で協力してクロタカさんとカズカを止めよう! 俺がそう纏めようとしたが、
「こうなっては仕方ありませんね。一先ず、ケインの処罰を考えるのは後にして、彼らを止めますか」
サキヒデさんがチクリと言う。
……いやー、俺、そういうの駄目だと思うな。特にケインみたいな純粋な少年には要っちゃ駄目でしょ?
主力の一人だろうと子供なんだから。
「処罰ってまだ疑ってんのかよ! 大体、迎えがミワの時は自分が進んで引き受けた癖に、なんでカズカは俺に押し付けるんだよ! この、女好きの変態が!?」
俺の予想通りに、ケインが安い挑発を、迷うことなくお買い上げした。
「なっ……。そんなつもりはありませんよ。それに、彼女に私がどんな目にあわされたのか……。リョータさん。あなたも見たでしょう?」
えー、そのことを俺に振るかな。
しかし、この状況。
下手に嘘を付くのは避けた方がいいだろう。
「……喜んでいるサキヒデさんがいました」
「やっぱり!」
ケインが「へーんたい、へーんたい」と煽る。
だから、行動が安いんだってば。
「はぁ。あなたに聞いた私が馬鹿でしたよ。もういいです、クロタカは私一人で止めますから」
「あ、ちょっと!」
一人でクロタカたちの争いに向かおうとする。
その眼前に、人影が舞い降りてきた。
「カラマリ領がピンチなのに、なに、楽しそうに話をしてるんだよー。私も混ぜろよー!」
「カナツさん!」
大将が来てくれた。カナツさんがいれば百人力だ。三人が掛りならば、本気で戦いを続ける狂人達も止められるはずだ。
「あ、あの、ケインが自分の仕事をクロタカに……」
「だから、大将が言ったんだって!」
どちらの言い分が正しいのか。
審判の鍵を握るカナツさんに詰め寄るが、そんな二人を見て寂しそうに視線を落とした。
「……」
「大将?」
俺達に背を向けて肩を震わせる。
もしかして――泣いているのか?
「ねえ、二人はさ、本当にそんなことが大事なのかな? 家が無くなってるリョータの仇を取ろうとか思わないのかな?」
誰が、何を言ったかなんて今はいいでしょうとカナツさん。
確かに、それはそうなんだけどさ、
「……でも、カナツさん混ぜてって言ってましたよね?」
傍から見ていると都合が悪くなったから話題を変えたように見えたのだけれど。
横から口を挟んだ俺に対して言う。
「リョータは黙ってて」
「被害者なのに!?」
怖っ!
被害者の言葉を聞かない大将は、休むことなく自分の思いを語る。
「分かった。二人がカラマリ領の被害よりも、責任の所在の方が大事だって言うなら、それで構わない。ただ――見損なったよ」
カナツさんに嫌われた。
ケインとサキヒデさんはそう捉えたのか、
「いえ、決してそういう訳ではありません」
「俺もだ! 一番大事なのに領の皆だよ!」
どっちが悪いなんてどうでもいいと、互いの肩を組んでアピールする。
「じゃあ……。私に力を貸してくれる?」
「勿論です。ケインもそうですよね?」
「当たり前だぜ、サキヒデ! 俺達の力を見せつけてやろうぜ!」
なんだろうな。
この下らない茶番劇を見せられた気分は。
まあ、確かに茶番だろう。
少なくとも、ここで言い合っている時間分は、被害を抑えられたことは間違いないのだから。でも、まあ、ハクハに比べれば、俺はこっちの方が好きだな。
どんな時でも楽し気な皆に、少しだけ心が安らいだ。
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