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三章 〈統一杯〉の亡霊
24話 回想~ケインとハクハの関係~
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「久しぶりだね、ケイン。少し体が大きくなったんじゃないの?」
「うるせぇ。そういうお前は相変わらずひょろいな。あん? 敵陣に一人で来て、無事で済むと思ってんのかよ?」
友好的な笑みを浮かべる少年に対して、ケインは威嚇する犬の如く牙をむく。
相手がハクハなのだから、仕方ないか。
ユウランは、向けられた敵意に飄々と応じる。
「どうだろうねぇー。でも、僕から言えるのは、ケインは余計なことをしない方が良いってことだよ? 僕はこの人とナツカさんに交渉するように言われてきたんだからさ」
「交渉……?」
だとしたら、俺はできればこの少年に手は出したくない。
……えっと、ケインはさっき、この少年を、ユウランって呼んでいたか。
どうやら、ユウランは指令を受けてカラマリにやって来たようだ。前回、俺とサキヒデさんがクガンに行った時と同で、お使いみたいなもんなのだろう。
うーん。
そう考えると――ユウランに対して、敵って感じはしないんだよな。俺もクガンでジュウロウさんに殺されかけている訳だし。
人にやられて嫌なことはしちゃいけない。
おばあちゃんが言っていた。(あと、小学校の時の先生も!)
「うっせぇ! ハクハのお前がロクなこと考えてるわけねーんだよ! 今、この場で俺が殺す!」
「それは偏見だって? ていうかケインだって、生まれはハクハじゃないか。同じでしょ?」
「うるせぇ!」
ケインはハクハ領で生まれた?
てっきり、カラマリ領で生まれ育ったのだと思っていたが。〈統一杯〉なんて戦争してるくらいなんだから、領間の人の動きはないと考えていたけど、それは俺の勝手な想像だったようだ。
だが、ハクハ領で生まれたことは、ケインは触れて欲しくないようだ。
怒号と共に蹴りだす足に力を込める。
「ケインが戦いたいっていうなら、僕も戦うのはやぶさかではないけれど、でも、君にこれが攻略できるの?」
ユウランが望遠鏡を握っていない手で腰から拳銃を引き出す。
ケインの行動は見透かされていた。
「――っ!」
ケインは、一度その威力を目にしている。だからこそ、今まさに攻撃しようとしていた力を、踏み込んで殺した。
剣道で言うところの足さばきだ。この動きは、何段持っていても出来ないだろう。
……。
高校の授業でしかならったことないから、剣道なんてうろ覚えなんだけどね!
俺がいた高校は柔道か剣道、好きな方を選んで習うことが出来た。で、何故、俺が剣道を習ったかと言えば、単純に、『刀』を使った漫画が好きだったからだ。そんな安易な考えで剣道を受けた俺は、直ぐに後悔することになる。
面、胴、小手は学校所有のモノなので、サイズは合わない。
サイズだけならまだよかった。
一番の苦痛は人の汗が染み込んだものを顔に付けるという不快感。それが俺にはどうしても耐えられなかった。
しかも、その割に動きは地味だったし!
まあ、俺の高校の失敗談はいいとして、何とか踏ん張りその場に留まったケインは。苦々しい瞳で拳銃に視線を当てて呟いた。
「くそっ。こいつ……。シンリより殺意が薄いから、読めねぇ」
最下位チームとの戦闘を終えたカラマリ領は、『拳銃』の対策をすべく、とある訓練を始めた。
その内容は、殺意を読んで銃弾を避けるというものだ。
なんと、恐ろしいことにクロタカさんを主軸に置いての訓練だった。
となると、当然、狂人との訓練を所望する人間は少ない。結果、ケインとカナツさんの二名だけが残った。
おいおい。
他の兵士は「やってやろう」って気がないのか。カラマリ領特有の「俺が! 俺が!」精神はどうした。
俺は立候補しなかった主力――サキヒデさんをピンポイントで責めた。
「あなたには言われたくないですね」
と、全く動じなかったけどな。それどころか、カラマリには我こそがなんて教えはない。適当なことを言わないでくださいと、眉一つ変えずに返された。
クールな策士だ。
大体、他の兵士やアイリさんが拳銃対策をしないのは、訓練以前の問題なのだ。まず、兵士はクロタカさんがやってみせたように、人の体を貫く銃弾を弾く力はない。
レベル不足だ。
そして、レベルは十分だが、アイリさんとクロタカさんは、愛用する武器の問題から訓練から外れていた。
アイリさんは糸、サキヒデさんは弓を使う。
糸で銃弾は弾けないし、弓は強度が足りないらしい。
薙刀と日本刀という武器を使う二人が残り(俺からすれば武器の違いは余り関係ないような気がするけど……)、狂人の殺意を読む訓練をしていた。
特訓の成果を試すいい機会だとケインは息巻いたが、ユウランには、肝心な殺意が欠片もなかった。
穏やかな表情で拳銃を構える。
殺す気が無いのであれば、それは、只のポーズじゃないかと俺は思うのだが、しかし、知り合いであるからこそ、ケインの考え方は違う。
少しでも動けば、引き金を押し込むことを知っていた。
「……くそっ。分かったよ。ただし、俺も一緒に行く。少しでも妙な真似したら斬るからな」
付いて来いと踵を返して城に向かう。
ケインが連れて行ってくれるならば、俺は行かなくていいな。殺意を持たずに人を殺せるヤバい奴とは極力関わりたくないと、気配を消して自然にフェードアウトしようとするが、
「じゃあ、いこっか」
またも、腕を掴まれてしまった。
しかも、反対の腕でケインを掴む。中心で満足そうに微笑む少年。どういう状況だよ、これ……。
「おい、離せ! リョータはいいけど、俺に触れるな!」
人を売って自分が助かろうとしている。
これはいかん。
自分の身だけを守ろうとするズルイ大人に、ケインにはなって欲しくない!
俺が教えてやらないと!
「こら、人を売るな! そんな生き方したら、いい大人にならないぞ!? そこは自分が犠牲になるから助けてやってくれって言うところだ。ほら、言ってみろ」
「……それも、確かにそうだな。悪かった。俺が案内するから、リョータだけは放してやってくれ――って、これ、お前だけ助かろうとしてるじゃないかよ!」
「…………」
バレたら無視する悪い大人がここにいた。
悪い見本を見せて、反面教師として育って欲しいな。
「やっぱり、こいつの腕を切り落とすか? そうすれば二人共助かるぜ?」
「……」
それが出来ないから、こうなってるんだろ、この単純馬鹿が!
なに、一周回ってるんだよ。
余計なこと言ってユウランが怒ったらどうするんだ。
さりげなーく、横目で見ると、ニコニコ笑っていた。
助かった。
それどころか、
「えー、そんな怖いこと言わないでよ。昔はすごい優しくしてくれたじゃない」
ケインの腕を更に強く引き寄せた。
「黙れ……」
「優しいって言うか、むしろ付き合ってたじゃないか――!」
「お前、それを言うんじゃねぇよ!」
「なに! なに!? それ、どういうこと!?」
二人が言い争っているあいだに抜け出すことを計画していた俺だったが、面白そうな会話に食いついた。
敵が隣にいるのにも関わらずに……。
なんという下種な男なのだろう。
俺なんだけども。
「ケインがハクハにいた時、告白されたから付き合ってたんだー」
「つっても、本当、ガキの頃だからな! 勘違いしないでくれ」
「でも、付き合ってたことは本当なんだ」
「思い出したくない過去なんだ。掘り返さないでくれ」
子供の頃か。
俺が勘違いして日替わりで女の子と帰ってたときか……。確かに思い出したくない。今なお、それが続いていれば、武勇伝として誇らしく話せるだろうが、それ以降、甘酸っぱいエピソードが一つもないのだ。
俺はケインの黒歴史を聞いてしまったがために、俺の黒い過去を話し、仲間だと励まそうとした。
「お前……嫌味か」
「へぇー、リョータってモテたんだー。見えないー」
「……」
この話、俺とケインが共に傷を負って終わった。
流石ハクハの人間。
精神的な攻撃も得意なようだった。
「うるせぇ。そういうお前は相変わらずひょろいな。あん? 敵陣に一人で来て、無事で済むと思ってんのかよ?」
友好的な笑みを浮かべる少年に対して、ケインは威嚇する犬の如く牙をむく。
相手がハクハなのだから、仕方ないか。
ユウランは、向けられた敵意に飄々と応じる。
「どうだろうねぇー。でも、僕から言えるのは、ケインは余計なことをしない方が良いってことだよ? 僕はこの人とナツカさんに交渉するように言われてきたんだからさ」
「交渉……?」
だとしたら、俺はできればこの少年に手は出したくない。
……えっと、ケインはさっき、この少年を、ユウランって呼んでいたか。
どうやら、ユウランは指令を受けてカラマリにやって来たようだ。前回、俺とサキヒデさんがクガンに行った時と同で、お使いみたいなもんなのだろう。
うーん。
そう考えると――ユウランに対して、敵って感じはしないんだよな。俺もクガンでジュウロウさんに殺されかけている訳だし。
人にやられて嫌なことはしちゃいけない。
おばあちゃんが言っていた。(あと、小学校の時の先生も!)
「うっせぇ! ハクハのお前がロクなこと考えてるわけねーんだよ! 今、この場で俺が殺す!」
「それは偏見だって? ていうかケインだって、生まれはハクハじゃないか。同じでしょ?」
「うるせぇ!」
ケインはハクハ領で生まれた?
てっきり、カラマリ領で生まれ育ったのだと思っていたが。〈統一杯〉なんて戦争してるくらいなんだから、領間の人の動きはないと考えていたけど、それは俺の勝手な想像だったようだ。
だが、ハクハ領で生まれたことは、ケインは触れて欲しくないようだ。
怒号と共に蹴りだす足に力を込める。
「ケインが戦いたいっていうなら、僕も戦うのはやぶさかではないけれど、でも、君にこれが攻略できるの?」
ユウランが望遠鏡を握っていない手で腰から拳銃を引き出す。
ケインの行動は見透かされていた。
「――っ!」
ケインは、一度その威力を目にしている。だからこそ、今まさに攻撃しようとしていた力を、踏み込んで殺した。
剣道で言うところの足さばきだ。この動きは、何段持っていても出来ないだろう。
……。
高校の授業でしかならったことないから、剣道なんてうろ覚えなんだけどね!
俺がいた高校は柔道か剣道、好きな方を選んで習うことが出来た。で、何故、俺が剣道を習ったかと言えば、単純に、『刀』を使った漫画が好きだったからだ。そんな安易な考えで剣道を受けた俺は、直ぐに後悔することになる。
面、胴、小手は学校所有のモノなので、サイズは合わない。
サイズだけならまだよかった。
一番の苦痛は人の汗が染み込んだものを顔に付けるという不快感。それが俺にはどうしても耐えられなかった。
しかも、その割に動きは地味だったし!
まあ、俺の高校の失敗談はいいとして、何とか踏ん張りその場に留まったケインは。苦々しい瞳で拳銃に視線を当てて呟いた。
「くそっ。こいつ……。シンリより殺意が薄いから、読めねぇ」
最下位チームとの戦闘を終えたカラマリ領は、『拳銃』の対策をすべく、とある訓練を始めた。
その内容は、殺意を読んで銃弾を避けるというものだ。
なんと、恐ろしいことにクロタカさんを主軸に置いての訓練だった。
となると、当然、狂人との訓練を所望する人間は少ない。結果、ケインとカナツさんの二名だけが残った。
おいおい。
他の兵士は「やってやろう」って気がないのか。カラマリ領特有の「俺が! 俺が!」精神はどうした。
俺は立候補しなかった主力――サキヒデさんをピンポイントで責めた。
「あなたには言われたくないですね」
と、全く動じなかったけどな。それどころか、カラマリには我こそがなんて教えはない。適当なことを言わないでくださいと、眉一つ変えずに返された。
クールな策士だ。
大体、他の兵士やアイリさんが拳銃対策をしないのは、訓練以前の問題なのだ。まず、兵士はクロタカさんがやってみせたように、人の体を貫く銃弾を弾く力はない。
レベル不足だ。
そして、レベルは十分だが、アイリさんとクロタカさんは、愛用する武器の問題から訓練から外れていた。
アイリさんは糸、サキヒデさんは弓を使う。
糸で銃弾は弾けないし、弓は強度が足りないらしい。
薙刀と日本刀という武器を使う二人が残り(俺からすれば武器の違いは余り関係ないような気がするけど……)、狂人の殺意を読む訓練をしていた。
特訓の成果を試すいい機会だとケインは息巻いたが、ユウランには、肝心な殺意が欠片もなかった。
穏やかな表情で拳銃を構える。
殺す気が無いのであれば、それは、只のポーズじゃないかと俺は思うのだが、しかし、知り合いであるからこそ、ケインの考え方は違う。
少しでも動けば、引き金を押し込むことを知っていた。
「……くそっ。分かったよ。ただし、俺も一緒に行く。少しでも妙な真似したら斬るからな」
付いて来いと踵を返して城に向かう。
ケインが連れて行ってくれるならば、俺は行かなくていいな。殺意を持たずに人を殺せるヤバい奴とは極力関わりたくないと、気配を消して自然にフェードアウトしようとするが、
「じゃあ、いこっか」
またも、腕を掴まれてしまった。
しかも、反対の腕でケインを掴む。中心で満足そうに微笑む少年。どういう状況だよ、これ……。
「おい、離せ! リョータはいいけど、俺に触れるな!」
人を売って自分が助かろうとしている。
これはいかん。
自分の身だけを守ろうとするズルイ大人に、ケインにはなって欲しくない!
俺が教えてやらないと!
「こら、人を売るな! そんな生き方したら、いい大人にならないぞ!? そこは自分が犠牲になるから助けてやってくれって言うところだ。ほら、言ってみろ」
「……それも、確かにそうだな。悪かった。俺が案内するから、リョータだけは放してやってくれ――って、これ、お前だけ助かろうとしてるじゃないかよ!」
「…………」
バレたら無視する悪い大人がここにいた。
悪い見本を見せて、反面教師として育って欲しいな。
「やっぱり、こいつの腕を切り落とすか? そうすれば二人共助かるぜ?」
「……」
それが出来ないから、こうなってるんだろ、この単純馬鹿が!
なに、一周回ってるんだよ。
余計なこと言ってユウランが怒ったらどうするんだ。
さりげなーく、横目で見ると、ニコニコ笑っていた。
助かった。
それどころか、
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ケインの腕を更に強く引き寄せた。
「黙れ……」
「優しいって言うか、むしろ付き合ってたじゃないか――!」
「お前、それを言うんじゃねぇよ!」
「なに! なに!? それ、どういうこと!?」
二人が言い争っているあいだに抜け出すことを計画していた俺だったが、面白そうな会話に食いついた。
敵が隣にいるのにも関わらずに……。
なんという下種な男なのだろう。
俺なんだけども。
「ケインがハクハにいた時、告白されたから付き合ってたんだー」
「つっても、本当、ガキの頃だからな! 勘違いしないでくれ」
「でも、付き合ってたことは本当なんだ」
「思い出したくない過去なんだ。掘り返さないでくれ」
子供の頃か。
俺が勘違いして日替わりで女の子と帰ってたときか……。確かに思い出したくない。今なお、それが続いていれば、武勇伝として誇らしく話せるだろうが、それ以降、甘酸っぱいエピソードが一つもないのだ。
俺はケインの黒歴史を聞いてしまったがために、俺の黒い過去を話し、仲間だと励まそうとした。
「お前……嫌味か」
「へぇー、リョータってモテたんだー。見えないー」
「……」
この話、俺とケインが共に傷を負って終わった。
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