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四章 ハクハ領の救出作戦
39話 少女の背中
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ミワさんに連れられた俺は、無事ハクハの城にへと戻ってきた。
真夜中の移動は怖かったけれど(だって、ワリュウの渓谷とかあるんだぜ? あそこから落ちたら、普通に死ぬから)、ミワさんは迷うことなくハクハへと足を進めた。
夜が明け、徹夜で歩かされた俺は、かなり疲労が蓄積しているのだが、休みを与えられることなく、玉座のある部屋まで案内されたのだった。
「なんだ……これ?」
中に入ると、兵士たちが膝を着き頭を垂れていた。
いや、この光景はハクハに来てから何回か見ているので、そこまで驚きはしないのだけれど、異様に空気が冷たかった。
いや、これは冷たいと言うよりは――殺気か。
戦を経験した俺の肌をも震わせる。そんなことが出来るのはが、異世界だろうとシンリだけだ。
ハクハの大将は頭を下げた部下たちに、身震いするほどの殺気を与えているのだった。
「貴様ら――それでもハクハの騎士か? 力のない人間を、まさか、これだけの数で見つけることもできないとは……。カズカがいなければ、あの男は、まだ、生きていたことだろう」
どうやら、俺を日暮れまでに殺せなかった騎士たちを責めているようだった。無力な人間を半時掛けても殺すどころか見つけること出来なかった。
いつから、ハクハはそんな使えない人間が集まったのか。
使えない人間ならば、いっそ全員殺してしまおうか。
そう言わんばかりの殺気だ。
少しでも動いたら殺される。
頭を下げる騎士たちは、生きた心地はしないだろう。
そんな空気を壊さんばかりに、玉座のひじ掛けに座った男が笑う。
「いやー。悪いね。チミ達のレベルを上げるためにさ、手を出さないようにって、決めてたんだけど、余りにも見てられなくてさー。つい、殺しちゃった。ま、お陰で俺のレベルが上がったから良しとしよーぜ?」
この声……。
こいつが俺を殺したんだ。
痛みで上がる声を楽しんでいた残虐性。
「……」
なんというか、想像通りの容姿だ。目の下にはピエロのような薄い青の入れ墨。そして刺青と正反対な燃える赤髪。
右側を借り上げた髪は、俺の苦手なDQNが好みそうな髪型だ。
容姿もさることながら、俺を殺した男――『カズカ』と言うらしい。
彼が背負っている剥き出しの剣に俺は顔を顰める。木箱の中からでは、刀の形状までは見えなかったけれど、その刀身は分厚かった。
「という訳で、今回頑張った俺に、ほーしゅうが与えられました! はい、拍手!!」
空気を読まずに一人ではしゃぐカズカ。
猿のように手を叩く男は馬鹿っぽい。
そんな男と一緒になるのが嫌なのか、誰も同調して手を叩こうとはしなかった。いや、単純にシンリが怖くて動けないだけなんだろうけどさ。
「あー、ノリ悪いなー。ま、いいや。で、報酬なんだけど、なんと! 仕えない戦士を好きなだけ殺していいことになりました! 流石、シンリ様だねー。器のデカさが違うぜ」
はしゃぐカズカに、俺の隣に立つミワが五月蠅いと髪を掻き上げた。
「……あーあ。あいつを参加させちゃ駄目でしょ。でも、ま、シンリには私達じゃ考えもしない未来を考えているんだから、間違いはないわね」
シンリの言うことならば、仲間を殺そうが正しい。
ミワはそう考えているようだ。
こいつら……。
本当に仲間なのか?
頑張った部下に報酬を与えるのはいいことだ。
俺も殺される回数が多くなったときは、特別報酬として金貨を大目に貰ったりしてたし、嬉しかった。
でも、シンリが与えた報酬はお金じゃない。
部下の命だ。
そして、部下の命をを貰って喜ぶカズカ。
カラマリからしたら、考えられない光景だった。蛇のように舌を出して、誰を殺そうかと品定めをしている。
「あの、まさか、今から仲間を殺そうって言うんじゃないですよね?」
「さー、殺すんじゃない? 別にカズカが誰を殺して、誰が死んでもシンリが生きていたら、同じでしょ?」
ミワに取って仲間が何人いようが関係ないようだ。
シンリがいればそれでいい。
「……そうかよ」
ふざけんなよ。
ここで俺が動くメリットもないけど――見てられない。
「おい! 殺すなら俺を殺せ! その為に連れてきたんだろ?」
虚勢を張り叫んだ。
俺だってあんな残虐性の高い殺し方をされたんだ。その男に、「俺を殺せ!」なんて、自分からは言いたくはない
だけど、こんな仲間殺しを見てられるか。
俺は格好つけて指を突き刺す。
「……俺を殺せって、お前、誰だよ」
「……」
あ、そうでした。
俺、こいつと顔あわせてないじゃん。俺が殺された時は木箱の中だったし。格好つけたのに、自分が殺された状況を、自分から説明するのは格好悪いしな……。
どうしたものかと悩んでいると、玉座の裏に隠れていたユウランが助けてくれた。
小悪魔少年にも優しい所はあるようだ。
「彼が『経験値』ですよ? カズカさん。殺したんでしょう?」
「おお! お前がか。いやー、すげーな。あんな楽してレベルが上がるとは思ってなかったぜ。だから、もう一度、殺さしてくれよぉ!!」
ふっと離れた場所から剣を振るおうとする。その動作にあわせるようにして、兵士たちが一斉に頭を抱えて更に深くしゃがみ込んだ。
なにしてるんだ?
Jアラートでもなったのか? この世界にそんな発達した機器があるとは思えないけど? 意図の読めない騎士たちの行動。
おいおい。
飛ぶ斬撃でもない限り、あんな場所で剣を振ろうが届かないでしょ? この世界の人間は『魔法』なんて使えない。
だから、あんなのは只の威嚇だ。
――と、鷹を括る俺の前に一筋の刃が迫った。
「……」
ここで初めてカズカの剣が分厚い理由が分かった。
四角い刃が鎖のように連なっていたのだ。剣を振るうことで、固定されていた刃が外れ、飛ぶ斬撃の如く、俺に迫って来たのだ。
『魔法』は無くても『武器』は作れるんだったな……。
本来、避ける動作をしていなかったのだから、こんな冷静に武器の特徴を分析することはできないはず。
ハクハにきて10分もしないうちに殺されているところだった。
だが、俺はこうして考えを続けられている。
その理由は一つ。俺は――一人の騎士に救われたのだ。
兵士たちの中でも最後尾にいた少女が、一人立ち上がって刃を受け止めていた。
カズカの斬撃を防いだ少女は、その姿勢のままシンリに訴える。
「次こそ、彼は私が倒しますので、それまで殺すのは待ってもらえないでしょうか?」
しかし、反応したのはシンリではなくカズカ。
一介の騎士に斬撃を止められたことに気を悪くしたのが、別人のような視線で少女を睨んでいた。
「あーん? なんだ、お前……? 誰に口きいているのか分かってんのか? 俺のお遊びを止めたくらいで調子に乗ってんじゃねーよ!」
ふっと、受け止めていた刃が急に動き出す。
刃の鎖が少女の体に絡まった。鎧を身に着けているので、直ぐに肌を傷つけることはないだろうが、鉄と鉄が擦れて軋む。
鎧ごと砕けそうだ。
それに、少しでも刃がズレれば、首を切り落とされるだろう。
「で、どうする? お前が『経験値』の代わりに死ぬか……?」
『キシっ』と絞めつけが強くなる。
返事次第ではいつでも殺せると見せつけたようだ。
命が掛かっている問答。
……一体、この狂人を前になんて答えれば正解になるのか、俺は考えてみるが――なにを言っても殺されるだけではないか。
少女はどう答えるのだろう……?
いや、それ以前に速く助けにいかないと。
俺の為に少女はこうなっているのだから―――。
当てもなしに、一歩、俺が踏み出すのと同じタイミングで、少女も前に足を進めた。
刀に絡めとられた状態で、少女は一歩前に出たのだ。
なんという――勇気だ。
死に巻き付かれた少女は、真っ直ぐな視線でカズカを見据える。
「こうしてカズカ様の前に立った時点で、死ぬ覚悟はできています」
その返答に、カズカは驚いたようだ。しかし、それはすぐに消えて、意地の悪い笑みを浮かべた。
……なんか、武器と相まってか蛇みたいだな。
「そうか。なら、望み通りに――殺してやるよ。喚かない相手を殺すのは趣味じゃないんだけどな。本人が望んでるなら仕方ない」
その獰猛な刀で止めを刺そうとする。巻き付く刃を引き抜こうと腕を動かすカズカ。
「そこまでだ」
力の込められたカズカは、刃を引き抜くことができなかった。
「カズカを相手に引き下がらなかったのは面白かったぞ。それに免じて許してやれ」
しかし、この状況。
ただ、黙って引くのは面目が立たないと考えたのか、
「でも、俺だって――。じゃあ、報酬をこいつに使う! なあ、それならいいだろ!?」
シンリが与えた権利を使うから問題はないだろうとアピールする。
だが、シンリの答えは変わらなかった。
「いいから、許してやれ。それとも――お前が代わりに死ぬか?」
懐に手を入れる。
恐らく、その手には拳銃が握られているだろう。
シンリは例え相手が自身の領の主力だろうとも平気で殺す。
それは、俺よりシンリと長くいるカズカの方が分かっているようで、
「悪かったよ。はいはい、俺は何もしませんにょー」
お道化た口調で謝ると、ふっと大きく刀を引いた。無数に繋がる刃が、絡まることなく戻っていく。
すげーな。
俺の世界ならこの芸で一生暮らせるぜ?
狂人は居心地悪そうに部屋から出て行く。
ユウランは楽しそうに結末を笑い、ミワさんは変わらず興味なさそうだった。
刃から解放され、呆然とする少女にシンリが聞いた。
「貴様……、名前はなんて言う?」
名前を聞かれた少女は、
「私は――トウカと申します」
シンリに怯むことなく堂々と名乗った。
俺は少女の背中しか見れていないけれど、小さい背中は俺よりも大きく感じた。
少女の態度に満足げに頷いて玉座に座るシンリ。あれ、この人、こんな顔出来るんだ。冷酷無比で仲間には興味ないと性格なのかと思っていたけど、意外だな……。
「そうか……。次は期待しているぞ?」
えーと。
これで誰も死ななくて済んだんだよな?
想定外のことが起こり過ぎて、どうなったのか分からなかった。まあ、結果は良好だったてことだよな。
死者はでなかったし。
こうして俺はハクハで初めて『経験値』としての仕事を終えた。
一日でこの疲労感。
俺はいつまで、疲労感を味わえばいいのだろうか?
真夜中の移動は怖かったけれど(だって、ワリュウの渓谷とかあるんだぜ? あそこから落ちたら、普通に死ぬから)、ミワさんは迷うことなくハクハへと足を進めた。
夜が明け、徹夜で歩かされた俺は、かなり疲労が蓄積しているのだが、休みを与えられることなく、玉座のある部屋まで案内されたのだった。
「なんだ……これ?」
中に入ると、兵士たちが膝を着き頭を垂れていた。
いや、この光景はハクハに来てから何回か見ているので、そこまで驚きはしないのだけれど、異様に空気が冷たかった。
いや、これは冷たいと言うよりは――殺気か。
戦を経験した俺の肌をも震わせる。そんなことが出来るのはが、異世界だろうとシンリだけだ。
ハクハの大将は頭を下げた部下たちに、身震いするほどの殺気を与えているのだった。
「貴様ら――それでもハクハの騎士か? 力のない人間を、まさか、これだけの数で見つけることもできないとは……。カズカがいなければ、あの男は、まだ、生きていたことだろう」
どうやら、俺を日暮れまでに殺せなかった騎士たちを責めているようだった。無力な人間を半時掛けても殺すどころか見つけること出来なかった。
いつから、ハクハはそんな使えない人間が集まったのか。
使えない人間ならば、いっそ全員殺してしまおうか。
そう言わんばかりの殺気だ。
少しでも動いたら殺される。
頭を下げる騎士たちは、生きた心地はしないだろう。
そんな空気を壊さんばかりに、玉座のひじ掛けに座った男が笑う。
「いやー。悪いね。チミ達のレベルを上げるためにさ、手を出さないようにって、決めてたんだけど、余りにも見てられなくてさー。つい、殺しちゃった。ま、お陰で俺のレベルが上がったから良しとしよーぜ?」
この声……。
こいつが俺を殺したんだ。
痛みで上がる声を楽しんでいた残虐性。
「……」
なんというか、想像通りの容姿だ。目の下にはピエロのような薄い青の入れ墨。そして刺青と正反対な燃える赤髪。
右側を借り上げた髪は、俺の苦手なDQNが好みそうな髪型だ。
容姿もさることながら、俺を殺した男――『カズカ』と言うらしい。
彼が背負っている剥き出しの剣に俺は顔を顰める。木箱の中からでは、刀の形状までは見えなかったけれど、その刀身は分厚かった。
「という訳で、今回頑張った俺に、ほーしゅうが与えられました! はい、拍手!!」
空気を読まずに一人ではしゃぐカズカ。
猿のように手を叩く男は馬鹿っぽい。
そんな男と一緒になるのが嫌なのか、誰も同調して手を叩こうとはしなかった。いや、単純にシンリが怖くて動けないだけなんだろうけどさ。
「あー、ノリ悪いなー。ま、いいや。で、報酬なんだけど、なんと! 仕えない戦士を好きなだけ殺していいことになりました! 流石、シンリ様だねー。器のデカさが違うぜ」
はしゃぐカズカに、俺の隣に立つミワが五月蠅いと髪を掻き上げた。
「……あーあ。あいつを参加させちゃ駄目でしょ。でも、ま、シンリには私達じゃ考えもしない未来を考えているんだから、間違いはないわね」
シンリの言うことならば、仲間を殺そうが正しい。
ミワはそう考えているようだ。
こいつら……。
本当に仲間なのか?
頑張った部下に報酬を与えるのはいいことだ。
俺も殺される回数が多くなったときは、特別報酬として金貨を大目に貰ったりしてたし、嬉しかった。
でも、シンリが与えた報酬はお金じゃない。
部下の命だ。
そして、部下の命をを貰って喜ぶカズカ。
カラマリからしたら、考えられない光景だった。蛇のように舌を出して、誰を殺そうかと品定めをしている。
「あの、まさか、今から仲間を殺そうって言うんじゃないですよね?」
「さー、殺すんじゃない? 別にカズカが誰を殺して、誰が死んでもシンリが生きていたら、同じでしょ?」
ミワに取って仲間が何人いようが関係ないようだ。
シンリがいればそれでいい。
「……そうかよ」
ふざけんなよ。
ここで俺が動くメリットもないけど――見てられない。
「おい! 殺すなら俺を殺せ! その為に連れてきたんだろ?」
虚勢を張り叫んだ。
俺だってあんな残虐性の高い殺し方をされたんだ。その男に、「俺を殺せ!」なんて、自分からは言いたくはない
だけど、こんな仲間殺しを見てられるか。
俺は格好つけて指を突き刺す。
「……俺を殺せって、お前、誰だよ」
「……」
あ、そうでした。
俺、こいつと顔あわせてないじゃん。俺が殺された時は木箱の中だったし。格好つけたのに、自分が殺された状況を、自分から説明するのは格好悪いしな……。
どうしたものかと悩んでいると、玉座の裏に隠れていたユウランが助けてくれた。
小悪魔少年にも優しい所はあるようだ。
「彼が『経験値』ですよ? カズカさん。殺したんでしょう?」
「おお! お前がか。いやー、すげーな。あんな楽してレベルが上がるとは思ってなかったぜ。だから、もう一度、殺さしてくれよぉ!!」
ふっと離れた場所から剣を振るおうとする。その動作にあわせるようにして、兵士たちが一斉に頭を抱えて更に深くしゃがみ込んだ。
なにしてるんだ?
Jアラートでもなったのか? この世界にそんな発達した機器があるとは思えないけど? 意図の読めない騎士たちの行動。
おいおい。
飛ぶ斬撃でもない限り、あんな場所で剣を振ろうが届かないでしょ? この世界の人間は『魔法』なんて使えない。
だから、あんなのは只の威嚇だ。
――と、鷹を括る俺の前に一筋の刃が迫った。
「……」
ここで初めてカズカの剣が分厚い理由が分かった。
四角い刃が鎖のように連なっていたのだ。剣を振るうことで、固定されていた刃が外れ、飛ぶ斬撃の如く、俺に迫って来たのだ。
『魔法』は無くても『武器』は作れるんだったな……。
本来、避ける動作をしていなかったのだから、こんな冷静に武器の特徴を分析することはできないはず。
ハクハにきて10分もしないうちに殺されているところだった。
だが、俺はこうして考えを続けられている。
その理由は一つ。俺は――一人の騎士に救われたのだ。
兵士たちの中でも最後尾にいた少女が、一人立ち上がって刃を受け止めていた。
カズカの斬撃を防いだ少女は、その姿勢のままシンリに訴える。
「次こそ、彼は私が倒しますので、それまで殺すのは待ってもらえないでしょうか?」
しかし、反応したのはシンリではなくカズカ。
一介の騎士に斬撃を止められたことに気を悪くしたのが、別人のような視線で少女を睨んでいた。
「あーん? なんだ、お前……? 誰に口きいているのか分かってんのか? 俺のお遊びを止めたくらいで調子に乗ってんじゃねーよ!」
ふっと、受け止めていた刃が急に動き出す。
刃の鎖が少女の体に絡まった。鎧を身に着けているので、直ぐに肌を傷つけることはないだろうが、鉄と鉄が擦れて軋む。
鎧ごと砕けそうだ。
それに、少しでも刃がズレれば、首を切り落とされるだろう。
「で、どうする? お前が『経験値』の代わりに死ぬか……?」
『キシっ』と絞めつけが強くなる。
返事次第ではいつでも殺せると見せつけたようだ。
命が掛かっている問答。
……一体、この狂人を前になんて答えれば正解になるのか、俺は考えてみるが――なにを言っても殺されるだけではないか。
少女はどう答えるのだろう……?
いや、それ以前に速く助けにいかないと。
俺の為に少女はこうなっているのだから―――。
当てもなしに、一歩、俺が踏み出すのと同じタイミングで、少女も前に足を進めた。
刀に絡めとられた状態で、少女は一歩前に出たのだ。
なんという――勇気だ。
死に巻き付かれた少女は、真っ直ぐな視線でカズカを見据える。
「こうしてカズカ様の前に立った時点で、死ぬ覚悟はできています」
その返答に、カズカは驚いたようだ。しかし、それはすぐに消えて、意地の悪い笑みを浮かべた。
……なんか、武器と相まってか蛇みたいだな。
「そうか。なら、望み通りに――殺してやるよ。喚かない相手を殺すのは趣味じゃないんだけどな。本人が望んでるなら仕方ない」
その獰猛な刀で止めを刺そうとする。巻き付く刃を引き抜こうと腕を動かすカズカ。
「そこまでだ」
力の込められたカズカは、刃を引き抜くことができなかった。
「カズカを相手に引き下がらなかったのは面白かったぞ。それに免じて許してやれ」
しかし、この状況。
ただ、黙って引くのは面目が立たないと考えたのか、
「でも、俺だって――。じゃあ、報酬をこいつに使う! なあ、それならいいだろ!?」
シンリが与えた権利を使うから問題はないだろうとアピールする。
だが、シンリの答えは変わらなかった。
「いいから、許してやれ。それとも――お前が代わりに死ぬか?」
懐に手を入れる。
恐らく、その手には拳銃が握られているだろう。
シンリは例え相手が自身の領の主力だろうとも平気で殺す。
それは、俺よりシンリと長くいるカズカの方が分かっているようで、
「悪かったよ。はいはい、俺は何もしませんにょー」
お道化た口調で謝ると、ふっと大きく刀を引いた。無数に繋がる刃が、絡まることなく戻っていく。
すげーな。
俺の世界ならこの芸で一生暮らせるぜ?
狂人は居心地悪そうに部屋から出て行く。
ユウランは楽しそうに結末を笑い、ミワさんは変わらず興味なさそうだった。
刃から解放され、呆然とする少女にシンリが聞いた。
「貴様……、名前はなんて言う?」
名前を聞かれた少女は、
「私は――トウカと申します」
シンリに怯むことなく堂々と名乗った。
俺は少女の背中しか見れていないけれど、小さい背中は俺よりも大きく感じた。
少女の態度に満足げに頷いて玉座に座るシンリ。あれ、この人、こんな顔出来るんだ。冷酷無比で仲間には興味ないと性格なのかと思っていたけど、意外だな……。
「そうか……。次は期待しているぞ?」
えーと。
これで誰も死ななくて済んだんだよな?
想定外のことが起こり過ぎて、どうなったのか分からなかった。まあ、結果は良好だったてことだよな。
死者はでなかったし。
こうして俺はハクハで初めて『経験値』としての仕事を終えた。
一日でこの疲労感。
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