並行世界で悪魔とゲーム

誇高悠登

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敗北の恐怖 (明神 公人)

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「くそっ! なんなんだよ、あの〈悪魔〉!」

 継之介が透明なグラスに注がれた水を一気に飲み干して、空になったグラスをテーブルに叩きつけた。
 無理もない。
 僕たちが〈ポイント〉を払って教えて貰った〈悪魔〉を倒されてしまったのだ。当然、手元には支払った対価として〈ポイント〉が減っただけだ。

「あら、機嫌悪いわね……。継之助くん」

「ええ、まあ、彼のことは気にしないでください、清野さん。ちょっと、色々とあったので」

「そうなの……。なんだ、言ってくれたらもっと豪華なお夜食を作っておいたのに」

「いえ、もう、これで十分です。本当、すいません」

 僕と継之介が返ってきた時、時刻は既に0時近かった。学校帰りの飯田 宇美を付けていたから夕飯も食べずに戦っていたことになる。
 毎日、夕食を用意してくれている清野さんには、今日の夕食は必要ないと連絡だけはしておいたのだが、しかし、僕たちの事情を知る数少ない一人として、夜食を用意してくれていたようだ。

 メニューはパスタだった。
 サラダとパスタを混ぜ合わせた簡単なものだが、僕たちの健康に気を使ってのメニュー。本当に清野さんには頭が上がらない。

「あー、くそ。……うまい!!」

「それは良かったわ、嫌なことは食べて発散させましょ」

「……」

 豪快にパスタを啜る継之介。
 彼の食べる姿は、どんな時でも見ていて気持ちがいいものだ。
 いつもならば、それだけで「ま、いいか」という気持ちになるのだが――今の僕は胸に沸いた不審な霧を、発散できそうになかった。

 何故ならば、あの〈悪魔〉は二回連続で僕たちの邪魔をしたのだ。
 二度邪魔された。それだけならば、偶然とも言い切れないかもしれない。だが、加えて〈情報〉を教えてくれなかったこともある。

 その二点から導き出せる答え。
 それは、あの〈悪魔〉が〈ゲームマスター〉サイドの〈プレイヤー〉であるといことだ。
 仲間だったら情報を教えないことにも頷ける。
 だとしたら、

「僕たちに勝ち目はないか」

 どれだけ腕の立つ〈プレイヤー〉がいても、〈ゲームマスター〉には勝つことができない。
 仕組まれた敗北を、僕たちは覆せるのだろうか?
 動くことのない敗北を前に、僕の手は震えていた。
 そんな僕の手を優しく包んで清野さんは言う。

「あら……。公人さんは、お腹……減っていなかったかしら?」
 
 フォークを手にすることなく、遠くを見つめて思考にふけっていた僕の顔を、清野さんが覗いてくる。
 心配そうな彼女の顔を見て僕は慌てて麺を巻く。

「いえ、そんな。いただきます」

 とにかく、諦めるにしても、今は少しでも情報を集めるのが先だ。
 そうなると――もっと人手が欲しい。
〈悪魔〉の情報を集めるだけでも手間がかかる。せめて、僕があの〈悪魔〉について調べられれば――。
 僕は次の手をどうするのか考えながら、パスタを巻きつけて口に運んで行く。
 やっぱり、清野さんの料理は美味しかった。
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