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怒る相棒 (明神 公人)
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〈悪魔〉が現れたか……。
僕達が〈プレイヤー〉として〈並行世界〉に来てから、人目も気にせずに暴れる〈悪魔〉は久しぶりだ。
いつもは、こちらから調べて向かわなければ姿を見せないのに……。
でも――目の前に〈ポイント〉があることに変わりはない。
僕は部屋に戻り継之介と視線を合わす。長年の呼吸とでもいうのだろうか、それだけで継之介は僕がなにを言いたいのかを理解してくれたようだ。
継之介が両手を合わせて隣に座っている春馬 莉子に言う。
「ごめん、莉子ちゃん。俺達ちょっと行ってくるから、もしよかったら、ここで待ってて? あ、それか話はまた、後日にしてくれると助かるな……。本当、依頼に来てくれたのに申し訳ない!」
暴れている〈悪魔〉が逃げ出す前に、向かって倒したい。
焦る僕達に反し春馬 莉子は何を考えているのか、判断するのが遅かった。依頼人を置いて〈悪魔〉を討伐に行こうというのだから、僕達が文句を言う資格がないのは重々承知だ。
だが、それにしたって判断に時間が掛かり過ぎている。
二分ほど思考を続けたのちに「後日、また来ます」と頭を下げた。
「……申し訳ない」
僕は春馬 莉子に名刺を渡し、依頼に掛かる料金を無償にすることを約束した。
依頼に来た少女の背中が『明神興信事務所』から出るまで、頭を下げる僕と継之介。出入り口の扉が閉じた音を聞いたところで、僕達も部屋を駆け出す。
「いくよ、継之介!」
「ああ」
春馬 莉子は扉から出て階段を下って帰って行ったが、僕達は反対に登りの階段を使う。上の階には資料室やプライベートルーム、運動施設として活用しているが、今はそれを利用しようとしている訳ではない。
階段の踊り場が終わり一枚の扉が見えてきた。
扉を開けるとその先は屋上。
穏やかな日差しに僕は目を細める。
「〈悪魔〉が現れたのは、幹線道路の出入り口らしい」
「そんなところで、暴れてんのかよ」
〈悪魔〉が現れた場所は、僕の携帯電話に送られており、確認済みだ。
高速道路に続く幹線道路――その出口付近に現れているようだ。
ここから、車で向かえば30分は掛かるが、僕達はもっと早く移動する方法を持っている。それを使うために屋上に来たんだ。
継之介は風を纏って宙に浮き、僕は蝙蝠と烏を合成させ足を掴んだ。
これが、僕たちが〈悪魔〉を見つけた際に移動するときの移動方法だ。能力を使って空を飛ぶ。これならば、どれだけ混んでいようが関係ない。
走る車の頭上を越えて現地に辿り着くと〈悪魔〉はいた。
よかった。
竜の〈悪魔〉もまだ表れていないらしい。
僕達は飛行するのを止めて、コンクリに足を付ける。
僕達の存在に〈悪魔〉は気付いていないのか、暴れる手を止めることはなかった。
「これが〈悪魔〉の力か!! そうだ、俺にもっと怯えろ愚民どもが!!」
自分の力に酔っているのか……。
軽自動車を手に生えた角で突き差し、近くにあったコンビニに投げ飛ばした。車がコンビニの窓ガラスを割り、製品が並んでいた棚を押し崩す。
いや、そこだけじゃない。
辺り一面に横転した車たちが多数散乱していた。
これも全て、〈悪魔〉の仕業だろう。僕達の前で雄叫びを上げる〈悪魔〉は、牛と人が合わさった姿をしていた。
黒い筋肉質な肉体。
足の先には厚い蹄。
鼻に付けた赤いリングが荒げる呼吸で揺れていた。
「継之介。あいつはパワープレイを得意とする可能性がある。正面からの戦闘は避けるべきだ」
〈悪魔〉が空からやってきた僕達に気付いていないのであれば、これはチャンスだ。〈悪魔〉としてどんな能力を持っているのかは分からないが、車を投げ飛ばした剛腕に正面から挑むのは危険だ。
だが、継之介は僕の言葉を聞いて尚、「うおおおおお!」叫び声を上げて正面から挑んでいった。
「継之介、待つんだ!」
僕の声は――継之介に届かない。
駄目だ、継之介は頭に血が上っている。
車内に残された人々が血を流しているのを見つけたからか。継之介は目の前で人が傷付けられると――怒りを隠さない。
初めてこの世界に連れて来られた時もそうだった。まだ、自分たちの力を完全に使いこなせていないのに、〈悪魔〉に挑んだ。
感情任せに戦ってどうなったのか。
継之介は既に忘れているようだ――誰一人助けられなかったことを。
「あん、何だお前は……?」
継之介の叫びに気付いた〈悪魔〉が振り返る。
「俺はお前を倒す〈プレイヤー〉だよ!」
継之介が最初に選んだ属性は『炎』。
肩甲骨と踵から炎を噴出し、推進力を強化する。
力を得意とする〈悪魔〉の角を掴み、そのまま引きずり吹き飛ばそうと力を込めるが――体が浮いたのは継之介の方だった。
「な……、え?」
そのまま垂直方向へと空高く放られる。
重力によって落下してくる継之介に対して、〈悪魔〉は両手に生えた角を構えて待ち構える。どうやら、そのまま串刺しにするつもりのようだ。
相手が待機していることは継之介も分かっているはずだ。ならば、属性を切り替え射線上から外れると選択すべきなのだろうが、今の継之介は冷静じゃない。
回避することよりも攻撃を加えることを選択した。
右足に炎を集めて大きく振り下ろす。
だが、そんな直線落下の攻撃をわざわざ受ける馬鹿はいない。半身になって踵を躱し、胸の前に角を交差させ――、
「継之介!!」
継之介の腹部に二つの穴を空ける。
脇腹から突き出た角を引き抜く〈悪魔〉。風穴となった腹部から血液が噴き出す。
僕達が〈プレイヤー〉として〈並行世界〉に来てから、人目も気にせずに暴れる〈悪魔〉は久しぶりだ。
いつもは、こちらから調べて向かわなければ姿を見せないのに……。
でも――目の前に〈ポイント〉があることに変わりはない。
僕は部屋に戻り継之介と視線を合わす。長年の呼吸とでもいうのだろうか、それだけで継之介は僕がなにを言いたいのかを理解してくれたようだ。
継之介が両手を合わせて隣に座っている春馬 莉子に言う。
「ごめん、莉子ちゃん。俺達ちょっと行ってくるから、もしよかったら、ここで待ってて? あ、それか話はまた、後日にしてくれると助かるな……。本当、依頼に来てくれたのに申し訳ない!」
暴れている〈悪魔〉が逃げ出す前に、向かって倒したい。
焦る僕達に反し春馬 莉子は何を考えているのか、判断するのが遅かった。依頼人を置いて〈悪魔〉を討伐に行こうというのだから、僕達が文句を言う資格がないのは重々承知だ。
だが、それにしたって判断に時間が掛かり過ぎている。
二分ほど思考を続けたのちに「後日、また来ます」と頭を下げた。
「……申し訳ない」
僕は春馬 莉子に名刺を渡し、依頼に掛かる料金を無償にすることを約束した。
依頼に来た少女の背中が『明神興信事務所』から出るまで、頭を下げる僕と継之介。出入り口の扉が閉じた音を聞いたところで、僕達も部屋を駆け出す。
「いくよ、継之介!」
「ああ」
春馬 莉子は扉から出て階段を下って帰って行ったが、僕達は反対に登りの階段を使う。上の階には資料室やプライベートルーム、運動施設として活用しているが、今はそれを利用しようとしている訳ではない。
階段の踊り場が終わり一枚の扉が見えてきた。
扉を開けるとその先は屋上。
穏やかな日差しに僕は目を細める。
「〈悪魔〉が現れたのは、幹線道路の出入り口らしい」
「そんなところで、暴れてんのかよ」
〈悪魔〉が現れた場所は、僕の携帯電話に送られており、確認済みだ。
高速道路に続く幹線道路――その出口付近に現れているようだ。
ここから、車で向かえば30分は掛かるが、僕達はもっと早く移動する方法を持っている。それを使うために屋上に来たんだ。
継之介は風を纏って宙に浮き、僕は蝙蝠と烏を合成させ足を掴んだ。
これが、僕たちが〈悪魔〉を見つけた際に移動するときの移動方法だ。能力を使って空を飛ぶ。これならば、どれだけ混んでいようが関係ない。
走る車の頭上を越えて現地に辿り着くと〈悪魔〉はいた。
よかった。
竜の〈悪魔〉もまだ表れていないらしい。
僕達は飛行するのを止めて、コンクリに足を付ける。
僕達の存在に〈悪魔〉は気付いていないのか、暴れる手を止めることはなかった。
「これが〈悪魔〉の力か!! そうだ、俺にもっと怯えろ愚民どもが!!」
自分の力に酔っているのか……。
軽自動車を手に生えた角で突き差し、近くにあったコンビニに投げ飛ばした。車がコンビニの窓ガラスを割り、製品が並んでいた棚を押し崩す。
いや、そこだけじゃない。
辺り一面に横転した車たちが多数散乱していた。
これも全て、〈悪魔〉の仕業だろう。僕達の前で雄叫びを上げる〈悪魔〉は、牛と人が合わさった姿をしていた。
黒い筋肉質な肉体。
足の先には厚い蹄。
鼻に付けた赤いリングが荒げる呼吸で揺れていた。
「継之介。あいつはパワープレイを得意とする可能性がある。正面からの戦闘は避けるべきだ」
〈悪魔〉が空からやってきた僕達に気付いていないのであれば、これはチャンスだ。〈悪魔〉としてどんな能力を持っているのかは分からないが、車を投げ飛ばした剛腕に正面から挑むのは危険だ。
だが、継之介は僕の言葉を聞いて尚、「うおおおおお!」叫び声を上げて正面から挑んでいった。
「継之介、待つんだ!」
僕の声は――継之介に届かない。
駄目だ、継之介は頭に血が上っている。
車内に残された人々が血を流しているのを見つけたからか。継之介は目の前で人が傷付けられると――怒りを隠さない。
初めてこの世界に連れて来られた時もそうだった。まだ、自分たちの力を完全に使いこなせていないのに、〈悪魔〉に挑んだ。
感情任せに戦ってどうなったのか。
継之介は既に忘れているようだ――誰一人助けられなかったことを。
「あん、何だお前は……?」
継之介の叫びに気付いた〈悪魔〉が振り返る。
「俺はお前を倒す〈プレイヤー〉だよ!」
継之介が最初に選んだ属性は『炎』。
肩甲骨と踵から炎を噴出し、推進力を強化する。
力を得意とする〈悪魔〉の角を掴み、そのまま引きずり吹き飛ばそうと力を込めるが――体が浮いたのは継之介の方だった。
「な……、え?」
そのまま垂直方向へと空高く放られる。
重力によって落下してくる継之介に対して、〈悪魔〉は両手に生えた角を構えて待ち構える。どうやら、そのまま串刺しにするつもりのようだ。
相手が待機していることは継之介も分かっているはずだ。ならば、属性を切り替え射線上から外れると選択すべきなのだろうが、今の継之介は冷静じゃない。
回避することよりも攻撃を加えることを選択した。
右足に炎を集めて大きく振り下ろす。
だが、そんな直線落下の攻撃をわざわざ受ける馬鹿はいない。半身になって踵を躱し、胸の前に角を交差させ――、
「継之介!!」
継之介の腹部に二つの穴を空ける。
脇腹から突き出た角を引き抜く〈悪魔〉。風穴となった腹部から血液が噴き出す。
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