並行世界で悪魔とゲーム

誇高悠登

文字の大きさ
15 / 38

怒る相棒 (明神 公人)

しおりを挟む
〈悪魔〉が現れたか……。
 僕達が〈プレイヤー〉として〈並行世界〉に来てから、人目も気にせずに暴れる〈悪魔〉は久しぶりだ。
 いつもは、こちらから調べて向かわなければ姿を見せないのに……。

 でも――目の前に〈ポイント〉があることに変わりはない。
 僕は部屋に戻り継之介と視線を合わす。長年の呼吸とでもいうのだろうか、それだけで継之介は僕がなにを言いたいのかを理解してくれたようだ。
 継之介が両手を合わせて隣に座っている春馬 莉子に言う。

「ごめん、莉子ちゃん。俺達ちょっと行ってくるから、もしよかったら、ここで待ってて? あ、それか話はまた、後日にしてくれると助かるな……。本当、依頼に来てくれたのに申し訳ない!」

 暴れている〈悪魔〉が逃げ出す前に、向かって倒したい。
 焦る僕達に反し春馬 莉子は何を考えているのか、判断するのが遅かった。依頼人を置いて〈悪魔〉を討伐に行こうというのだから、僕達が文句を言う資格がないのは重々承知だ。

 だが、それにしたって判断に時間が掛かり過ぎている。
 二分ほど思考を続けたのちに「後日、また来ます」と頭を下げた。

「……申し訳ない」

 僕は春馬 莉子に名刺を渡し、依頼に掛かる料金を無償にすることを約束した。
 依頼に来た少女の背中が『明神興信事務所』から出るまで、頭を下げる僕と継之介。出入り口の扉が閉じた音を聞いたところで、僕達も部屋を駆け出す。

「いくよ、継之介!」

「ああ」

 春馬 莉子は扉から出て階段を下って帰って行ったが、僕達は反対に登りの階段を使う。上の階には資料室やプライベートルーム、運動施設として活用しているが、今はそれを利用しようとしている訳ではない。
 階段の踊り場が終わり一枚の扉が見えてきた。
 扉を開けるとその先は屋上。
 穏やかな日差しに僕は目を細める。

「〈悪魔〉が現れたのは、幹線道路の出入り口らしい」

「そんなところで、暴れてんのかよ」

〈悪魔〉が現れた場所は、僕の携帯電話に送られており、確認済みだ。
 高速道路に続く幹線道路――その出口付近に現れているようだ。
 ここから、車で向かえば30分は掛かるが、僕達はもっと早く移動する方法を持っている。それを使うために屋上に来たんだ。

 継之介は風を纏って宙に浮き、僕は蝙蝠と烏を合成させ足を掴んだ。
これが、僕たちが〈悪魔〉を見つけた際に移動するときの移動方法だ。能力を使って空を飛ぶ。これならば、どれだけ混んでいようが関係ない。
 
 走る車の頭上を越えて現地に辿り着くと〈悪魔〉はいた。
 よかった。
 竜の〈悪魔〉もまだ表れていないらしい。

 僕達は飛行するのを止めて、コンクリに足を付ける。
 僕達の存在に〈悪魔〉は気付いていないのか、暴れる手を止めることはなかった。

「これが〈悪魔〉の力か!! そうだ、俺にもっと怯えろ愚民どもが!!」

 自分の力に酔っているのか……。
 軽自動車を手に生えた角で突き差し、近くにあったコンビニに投げ飛ばした。車がコンビニの窓ガラスを割り、製品が並んでいた棚を押し崩す。
 いや、そこだけじゃない。
 辺り一面に横転した車たちが多数散乱していた。

 これも全て、〈悪魔〉の仕業だろう。僕達の前で雄叫びを上げる〈悪魔〉は、牛と人が合わさった姿をしていた。
 黒い筋肉質な肉体。
 足の先には厚い蹄。
 鼻に付けた赤いリングが荒げる呼吸で揺れていた。

「継之介。あいつはパワープレイを得意とする可能性がある。正面からの戦闘は避けるべきだ」

〈悪魔〉が空からやってきた僕達に気付いていないのであれば、これはチャンスだ。〈悪魔〉としてどんな能力を持っているのかは分からないが、車を投げ飛ばした剛腕に正面から挑むのは危険だ。

 だが、継之介は僕の言葉を聞いて尚、「うおおおおお!」叫び声を上げて正面から挑んでいった。

「継之介、待つんだ!」

 僕の声は――継之介に届かない。
 駄目だ、継之介は頭に血が上っている。
 車内に残された人々が血を流しているのを見つけたからか。継之介は目の前で人が傷付けられると――怒りを隠さない。

 初めてこの世界に連れて来られた時もそうだった。まだ、自分たちの力を完全に使いこなせていないのに、〈悪魔〉に挑んだ。
 感情任せに戦ってどうなったのか。
 継之介は既に忘れているようだ――誰一人助けられなかったことを。

「あん、何だお前は……?」

 継之介の叫びに気付いた〈悪魔〉が振り返る。

「俺はお前を倒す〈プレイヤー〉だよ!」

 継之介が最初に選んだ属性は『炎』。
 肩甲骨と踵から炎を噴出し、推進力を強化する。
 力を得意とする〈悪魔〉の角を掴み、そのまま引きずり吹き飛ばそうと力を込めるが――体が浮いたのは継之介の方だった。

「な……、え?」

 そのまま垂直方向へと空高く放られる。
 重力によって落下してくる継之介に対して、〈悪魔〉は両手に生えた角を構えて待ち構える。どうやら、そのまま串刺しにするつもりのようだ。

 相手が待機していることは継之介も分かっているはずだ。ならば、属性を切り替え射線上から外れると選択すべきなのだろうが、今の継之介は冷静じゃない。
 回避することよりも攻撃を加えることを選択した。
 右足に炎を集めて大きく振り下ろす。
 だが、そんな直線落下の攻撃をわざわざ受ける馬鹿はいない。半身になって踵を躱し、胸の前に角を交差させ――、

「継之介!!」

 継之介の腹部に二つの穴を空ける。
 脇腹から突き出た角を引き抜く〈悪魔〉。風穴となった腹部から血液が噴き出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

処理中です...