並行世界で悪魔とゲーム

誇高悠登

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敗北からの目覚め (正大 継之介)

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 俺が目を覚ますと、そこはいつものベッドの上だった。
 見慣れた天井を見つめ、俺は一体、いつ、自分が毛布を被ったのか思い出そうとするが――よく覚えていない。
 昼間、『明神興信事務所』の前で春馬 莉子ちゃんに出会った処までは記憶しているが、それ以降の記憶がなかった。
 窓の外を見ると空は夕日で赤く染まっていた。
 どうやら、まだ夜じゃない。

「あ、起きた?」

 おぼつかない視線で、窓の外を見つめていた俺に話しかけてきたのは、一人の少女――柚木 誠子だった。
 スナック菓子の袋を抱え、自分の部屋のように横になって寝そべっていた。

「……誠子。お前がなんでここにいるんだよ!」

 ここは俺の部屋だ。
 記憶がない+くつろぐ少女に、一瞬だけ焦るが大丈夫ここは俺の部屋だ。
 俺も誠子も服はしっかり来てるし問題はないし、間違いもないはずだ。

 俺の問いかけに、スナック菓子の袋に手を入れる。しかし、袋の中は既に空になってしまっていたのか、袋から手を出し開いた口に傾けて、一気に流し込む。
 女子高生らしからぬ食べ方だ。
 空になった袋をゴミ箱に捨て、俺が眠るベッドの脇に座った。

「なんでって、ツッギーが意識失ってるーって聞いて、からかいに来たんじゃない」

「意識を失った……? 俺が……?」

 俺は眠っていたわけじゃないのか……?
 誠子の言葉にゆっくりと、止まった記憶を進めていく。
 莉子ちゃんにあって、依頼を受けたんだ。
 その依頼の内容は――、あ、いや。違う。
 俺達は莉子ちゃんの依頼をまだ、受けていないんだ。話を聞く前に〈悪魔〉が現れて――。

「……完全に思い出した」

 俺は腹部を貫かれて、負けたんだ。
 そっと、身体を起こして自分のわき腹を擦る。傷跡も残らずに回復しているということは、恐らく、公人が〈ポイント〉を使ってくれたのだろう。

「へっへっへー。ツッギー、〈悪魔〉に負けちゃったんだってねー。ドンマイ、ドンマイ!」

 誠子は公人から話を聞いているのか、俺の頭を撫でて励ましてくる。
 俺や公人と話すときは〈悪魔〉を話題に出しても罰せられることはない。
 それでも、〈悪魔〉と関わっていると知れば、普通は距離を置きたくなるはずだ。だが、誠子も、純さんも、『明神興信事務所』の皆も、むしろ俺達に良くしてくれてる。

「誠子……。悪いな、ちょっと、その端末取ってくれ」

「はいはい、どうぞ、どうぞ!」

 スナック菓子を食べていた手で端末を取る。俺は綺麗好きではないけれど、それでも油に塗れた腕を拭いてはくれないかと思うが、取ってもらう以上文句は言えない。

 渡された端末を起動して、メイン画面を見る。
 メイン画面に表示された俺の〈ポイント〉は『回復』で扱う分がきっかりと減っていた。
 その数字を見て、「やっちまった」と俺は頭を抱える。

「本当にもう。ツッギーの悪い癖だよ? 直ぐに熱くなったりするのはさ」

「分かってるよ。でもよ、目の前であんなことされたら、誰だって怒るだろ?」

 自動車の中には人がいた。いや、例え運転手がいなかったところで、車もコンビニも利用者がいるのだ。

 急になくなったら、どれだけの人が困ることか。
 それなのに――無関係に破壊された。
 俺は助けられなかった。
 自分の不甲斐なさに視線を落とす。

 落ち込む俺に、

「ま、それでこそツッギーなんだけどね!」

 何故か嬉しそうな笑みを浮かべて、誠子は部屋から出て行った。
 一人残った俺はベッドから立ち上がる。

「なんだよ、それ」

 しかし、目覚めた時に誠子がいてくれて良かった。
 少しだけ気が紛れたよ。

「公人にも礼と詫びをしないとな」


 俺はベッドから起き上がって、部屋を出ようとする。扉に手をかけて外に出ようとした時、扉の脇に置かれたゴミ箱が目に入った。
 中には一杯の菓子袋が捨てられていた。

「おいおい、まさかな」

 もしかして、誠子は俺が目覚めるまで待っていてくれたのだろうか?

「て、そんわけないか。いくらなんでも、これは女子高生が一人で食べる量じゃないもんな」

 きっと、持っていたゴミを俺の部屋で捨てただけだ。
 俺は勘違いすることなく、部屋を出るのだった。
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