私の中の4人の令嬢

ぽんぽんぽん

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告白

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彼女マーヤは、今、脱力していた。
泣いた顔をぬぐいもせずに、エリゼ……私に向き合う。

「リアが、段を降りようとしていて、
わたしは、むっとして、彼女に声をかけようと、手を挙げて、
その時、急に、
背中に圧を感じて」

「……」

「はずみで、弾みでわたし!
手をリアに……
リア  リア  リアっ!」

わああっ!と泣き出した彼女を私はぼんやりと見ていた。
<中>のエリゼ様は、もらい泣きなさってる。

彼女が押した。
なのに、まだ『真犯人』がいるのか……


それでも、私は、明らかにしなくてはならない。
マーヤ、
私の友人に。




「本当に弾みかしら」
「……え」

<中>のエリゼ様が驚いて立ち上がる。
(リア様なに?
そのかた、悔いておいでるわ。
もうそれ以上は。
お友達、で、いらしゃるのでしょ?)

「だって、あなた……マーヤは押されたのに、落ちなかったのでしょう?
一段下りて、うずくまる程度で。
イーストエンドは、もんどりうって落ちたのよ?
明らかに、圧の伝達が等しくないわ」

(お言葉!おことば!
リア様、素が出ていますわ~)
のんきな令嬢が、心内でちゃちゃを入れている。

「ね?物理学が得意なあなたなら、自明のこと。
力量とベクトルが合致しないでしょ?」

(べ、べくとる?)
(すこし、静かに!)
核心をつきたい私は、心内エリゼ様を無視するようにした。






(ほ、ほんとうに、白豚令嬢?)
マーヤは、この修羅場からどうやったら解放されるか、そればかり考えていた。

白豚は失礼だが、おっとりと物静かなご令嬢だと聞いている。
女生徒のネットワークで、1年の中でいじめにあっている、とも。
兄の生徒会長の耳には、どれほどのことが入っているかわからないが、
それ以上の精神的苦痛を受けているはず。

侯爵令嬢としての行動を生徒会長は待っているのだろう。
貴族としての矜持を守れ。
それが、たとえ妹であっても、兄としての立場なのだろう。
でも。
コップの水の最後の一滴。それさえあれば、あのヴォルフ様のことだ。
一気に制裁するだろう。

それでも、貴族の立場をかさに着ず、反論も反撃もしないため、
一部の女生徒は、やりがいのなさにいじめをやめた。
それでも、愚かな1年生集団は、いまだにこの令嬢をないがしろにしているという。

そして今回の事件。
どんなに火消しをしても、
現在‘生き残った‘令嬢が加害者だという話は、学園に浸透してしまった。
欠席裁判のように、令嬢がいない間に、
それは、事実とすり替わっていたのだ。

「イーストエンド様は」
令嬢は語る。
「あなたの大事な友人だった、のですよね?
 互いに高め合い、ゆくゆくは同じ職場で切磋琢磨しようという……」

「……」

「それとも」

遠くで鐘が鳴る。三講目の始まりだろう。

「憎かったですか?」
(  ……!)
「悔しかったですか?
 推薦を受けた彼女のこと。
 うらやんでいましたか、
 学業では、一度も勝てない相手だと。
 同じように努力しても、
 同じように周りと過ごしても、
 自分は報われず、リアだけが成果を出す。
 そんな相手のこと」

再びマーヤの肩が震える。
こぶしが机を震わせる。

「リアが負傷でもすれば、
インターンの話が、自分に向くと、計算しましたか?」
「……っ」

「初めて、彼女を出し抜ける。
そんな機会を、逃すまいと、
考えましたか?」

令嬢のどの言葉も声も、
マーヤをえぐる。
言霊のように、
マーヤの心のうちを
令嬢は淡々と暴いていく。


「嫌いでしたか?リアを」
「嫌いだったわよ!」

大きく通る声。
テラスには学生はいない。
三講目は、必修科目と決まっているから。

頭を振るせいで、マーヤの手入のない髪はほつれ、
前髪が揺れる。

「だ、い、嫌い、だった、わよ!
いつもいつも!何をしたって、リアにはかなわなかった。
ぶ、文官の
推薦だって!
あの子には声がかかって、
わたしには……!」

能面のような白い顔の令嬢。
でも、その口元は、わずかに歪んでいた。


わああ!っ、と嗚咽をあげて泣くマーヤ。
それでも告白は止まらない。

言わなくては。
この方に、言わなくては。
マーヤは、事件以降ずっと秘めていた心の錘を
そして、リアに対する想いを
一気に吐き出していた。


「わかって、る!
あの子はいつもトップレベルで
わたしはいつも、第二集団。
『お互い、頑張ったよね!』
と、言われるたびに、心に醜い何かが棲みついてたわ!
努力の仕方だって、
きっと、あの子の足元にも及ばない!
わかってる。
才能の違いもあるけど、
あの意思の強さやひたむきさには、
かなわない!
もともとの、育ちや豊かさで、
負けたんじゃない。
だから、
だから!」

だから?

促す令嬢に、マーヤは叫んだ。

「押したわ!強く!
でも!死ねば……い、いなんて!
しぬな、ん、て、わああああああっっ‼」

テーブルに突っ伏すマーヤを眺める令嬢の
リアの

瞳も濡れていた。




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