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密談3
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「被害者」
王子は、先を促す。
「リア嬢が被害者だとしたら、一番に疑えるのは、親友と見なされているショーン。
女性官吏の候補生だったリア嬢がダメになれば、A組の次の候補は、ショーンですからね」
「女性の友情も、薄っぺらいものだね」
「私たちと同じですね」
「同意するよ」
マクシミリアンは19歳。ヴォルフ侯爵子息は、17歳。
同年の友人なら、兄のルーカスの方がふさわしい。
けれど、ルーカスは、きっちりと二人の王子から距離を置いていた。
侯爵家を思えば、中立中庸は、当然の判断だろう。
けれど、弟のヴォルフは、
どこ吹く風で、マクシミリアンにもアレクシスにもフランクに接する。
けれど、ごく内密に、
マクシミリアンと通じている。
いわく、
《バカは嫌いだ⦆
だそうだ。
当のアレクシスは、ヴォルフにバカ呼ばわりされているとは思っていないだろう。
ヴォルフは、狡猾だ。
「マーヤ・ショーンは、犯人ではないよ」
「……何があったんですか」
「人のいないカフェで、彼女がきみの妹に懺悔と告白をしていた」
ヴォルフの目が細くなる。
「安心して。
妹君に、何かしかけたわけではないから。
聞き耳をね、立てていたら、そんな成り行きに」
かいつまんで王子は、いきさつを語る。
エリゼと会話をしたことは、端折って。
「……成程。玉突き状態だったわけですか。
ショーンを押した者、それが真犯人、だと」
ヴォルフはマクシミリアンの思惑を探ろうとするが、泰然自若な王子からは、それ以上は引き出せないだろうと、すぐにあきらめた。
「では、エリゼがターゲットの場合」
「ないだろう」
「……ですね。
いかに虐められ令嬢だとしても、あの子にけがをさせて利する者はいない」
「ばれれば、君や君の兄上が、百倍に返すと、知らないものはいないからね」
「いるでしょう」
「誰」
「同じクラスのココ・セントラル」
馬車は三度、学園の門を横切った。
忠実な御者は、ゆっくりと馬を走らせている。
「後ろ盾に、恋人の王子がいるのですからね。
私ごとき、怖くはないでしょうね。
事実、久しぶりに登校したあの子に、嫌がらせをしたそうだし」
「それでも、ショーンに利はまったくないだろう」
「ですね。
最後に、エレノア・ノースフォース公爵令嬢がターゲットの場合」
「……ここで出てくるのか。
ココ・セントラル。
それほどに、恋は盲目か?」
あいつは、弟は、それほどに馬鹿になりきったのか?
「ええ。
ただし、どの生徒を調査しても、彼女があの場にいたというものはいない。
実際、その時間、階下の教室にいたと、
証言する女生徒もいる」
「アリバイか。どうとでもなる」
「そうです。
しかし、妹やリア・イーストエンドを狙うのと、
公爵令嬢を狙うのとでは、利益もリスクも桁違いです。
……それがわからないセントラルではない、と、思いますが」
「疑惑はぬぐえない、か」
馬車の振動が変わる。
王宮の敷地に入ったようだ。
「私にはわからない感情だ」
「あなたは、恋愛をなさらなかったのですか?」
「ないね」
王子は、張り詰めた空気を和らげて、答える。
「学生の頃まで、ありとあらゆる人物が、近づこうとしていたね。
色恋含みの付き合いなんて、私には必要なかったのに。
そんな私を案じた母や祖母は、様々な令嬢を紹介してきたよ。
でもね、どんな麗しい令嬢も、私にとってはどうでもよかった。
私にとって、外見の美醜などどうでもいいことなのにね」
「成人までに、ご婚約はなさらないんですか」
「どうだろう。
国のためなら、頷くよ。
でも、それは、跡目争いに終止符を打ってからかな。
……君から見て、弟は、
私の希望をかなえてくれそうかい?」
「……彼の恋人に容疑をかけている私に、それを聞きますか」
「……だね。
まあ、どんな婚約者でも、私は誠実な夫となるよう努めるよ。
……あ、」
王子の目がふっと窓を見て、ヴォルフに戻した。
ルビーの瞳がさらに赤く光っている。
「……気になる令嬢なら、いるよ」
というより、見つけたんだけどね……
王子はそう言って、くすくすと忍び笑いを漏らした。
そんな王子をおろして、ヴォルフは御者に
(このまま馬車溜りに行ってくれ。
車庫の中で、下ろしてほしい)
と告げた。
王子は、先を促す。
「リア嬢が被害者だとしたら、一番に疑えるのは、親友と見なされているショーン。
女性官吏の候補生だったリア嬢がダメになれば、A組の次の候補は、ショーンですからね」
「女性の友情も、薄っぺらいものだね」
「私たちと同じですね」
「同意するよ」
マクシミリアンは19歳。ヴォルフ侯爵子息は、17歳。
同年の友人なら、兄のルーカスの方がふさわしい。
けれど、ルーカスは、きっちりと二人の王子から距離を置いていた。
侯爵家を思えば、中立中庸は、当然の判断だろう。
けれど、弟のヴォルフは、
どこ吹く風で、マクシミリアンにもアレクシスにもフランクに接する。
けれど、ごく内密に、
マクシミリアンと通じている。
いわく、
《バカは嫌いだ⦆
だそうだ。
当のアレクシスは、ヴォルフにバカ呼ばわりされているとは思っていないだろう。
ヴォルフは、狡猾だ。
「マーヤ・ショーンは、犯人ではないよ」
「……何があったんですか」
「人のいないカフェで、彼女がきみの妹に懺悔と告白をしていた」
ヴォルフの目が細くなる。
「安心して。
妹君に、何かしかけたわけではないから。
聞き耳をね、立てていたら、そんな成り行きに」
かいつまんで王子は、いきさつを語る。
エリゼと会話をしたことは、端折って。
「……成程。玉突き状態だったわけですか。
ショーンを押した者、それが真犯人、だと」
ヴォルフはマクシミリアンの思惑を探ろうとするが、泰然自若な王子からは、それ以上は引き出せないだろうと、すぐにあきらめた。
「では、エリゼがターゲットの場合」
「ないだろう」
「……ですね。
いかに虐められ令嬢だとしても、あの子にけがをさせて利する者はいない」
「ばれれば、君や君の兄上が、百倍に返すと、知らないものはいないからね」
「いるでしょう」
「誰」
「同じクラスのココ・セントラル」
馬車は三度、学園の門を横切った。
忠実な御者は、ゆっくりと馬を走らせている。
「後ろ盾に、恋人の王子がいるのですからね。
私ごとき、怖くはないでしょうね。
事実、久しぶりに登校したあの子に、嫌がらせをしたそうだし」
「それでも、ショーンに利はまったくないだろう」
「ですね。
最後に、エレノア・ノースフォース公爵令嬢がターゲットの場合」
「……ここで出てくるのか。
ココ・セントラル。
それほどに、恋は盲目か?」
あいつは、弟は、それほどに馬鹿になりきったのか?
「ええ。
ただし、どの生徒を調査しても、彼女があの場にいたというものはいない。
実際、その時間、階下の教室にいたと、
証言する女生徒もいる」
「アリバイか。どうとでもなる」
「そうです。
しかし、妹やリア・イーストエンドを狙うのと、
公爵令嬢を狙うのとでは、利益もリスクも桁違いです。
……それがわからないセントラルではない、と、思いますが」
「疑惑はぬぐえない、か」
馬車の振動が変わる。
王宮の敷地に入ったようだ。
「私にはわからない感情だ」
「あなたは、恋愛をなさらなかったのですか?」
「ないね」
王子は、張り詰めた空気を和らげて、答える。
「学生の頃まで、ありとあらゆる人物が、近づこうとしていたね。
色恋含みの付き合いなんて、私には必要なかったのに。
そんな私を案じた母や祖母は、様々な令嬢を紹介してきたよ。
でもね、どんな麗しい令嬢も、私にとってはどうでもよかった。
私にとって、外見の美醜などどうでもいいことなのにね」
「成人までに、ご婚約はなさらないんですか」
「どうだろう。
国のためなら、頷くよ。
でも、それは、跡目争いに終止符を打ってからかな。
……君から見て、弟は、
私の希望をかなえてくれそうかい?」
「……彼の恋人に容疑をかけている私に、それを聞きますか」
「……だね。
まあ、どんな婚約者でも、私は誠実な夫となるよう努めるよ。
……あ、」
王子の目がふっと窓を見て、ヴォルフに戻した。
ルビーの瞳がさらに赤く光っている。
「……気になる令嬢なら、いるよ」
というより、見つけたんだけどね……
王子はそう言って、くすくすと忍び笑いを漏らした。
そんな王子をおろして、ヴォルフは御者に
(このまま馬車溜りに行ってくれ。
車庫の中で、下ろしてほしい)
と告げた。
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