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エリゼの宮殿
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「お兄様、わたくし、すこし、つかれていますの」
この場をとんずらするのが最適解と、リアは判断した。
ふらふら、と体をゆらして、こめかみを抑える。
「いけないね。
久しぶりの登校に、いじめへの反論、おまけに、
亡くなった令嬢の親友とお茶会していて。
挙句に、マクシミリアン殿下のお目見えまで、ねえ」
う。
まって!
な、なんでヴォルフは、マーヤと会ってたことまで知ってるの?
え?
内容まで、漏れてる?
<言ってない!私言ってないわよね?>
<……おっしゃって、ませんわ、よね>
ど、どうしようー
この原黒、どこまで知ってるの?
ますます『エリゼらしくない』状態じゃない!
ヴォルフは、そっとハンケチを出して横に座ってきた。
「汗……暑くもないのに冷や汗かな?
具合がよくないんだね、可哀想に」
追い込んでるあんたのせいだろうが!
どきどきばくばくする心臓が、口から出そうよ……
ときめかない!これは怯え!
私はエリゼ!
「お、にいさま。エリゼはつらいのです」
「そうだね。だから」
柔らかなハンケチで銀髪で覆われたエリゼの額をそっとぬぐわれる。
ひいい、近すぎ。
キスの距離まで迫ってきたヴォルフの口元が、エリゼの耳元に落ちて、
(マクシミリアンから全て聞いたんだよ?
エリゼ、あんな男に、公式なお披露目もないのに話なんかだめだよ?
二度目はないよね?
お兄様に約束できる、ね?)
と、びりびりする色気のある声で、ささやいた。
壊れた人形のように、エリゼはこくこくと首を振り続ける。
「いい子だね。
王子なんかに、目をつけられちゃだめだよ。
君は私や兄さんの宝物なんだから」
リアは、ごっくんとはしたなくもつばを飲みこんで、
「はい」
と返事をした後、
気を失った。
エリゼとリアが住む心内は、リアが戻るたびに、広く複雑になっている。
<……死ぬかと思った>
死んでますけど、もう。
<ヴォルフ兄さまは、ねちっこい気質ですから。
それにしても、どうやってわたくしたちが、マーヤ様の懺悔をうかがったことご存じなのかしら>
エリゼは、レースがふんだんについた純白のドレス姿で、
やはり白いティーテーブルに向って腰かけている。
テーブルには、タワーにサンドイッチやケーキがどっさり。
アフタヌーンティーの時間らしい。
もう、外は夜なのに。
<影がいる?>
<侯爵家の、ですか?
いいえ。お父様は成人していない親族に、影を動かさせてはくださらないわ。
おそらく、お兄様の従者か、わたくしの護衛が通じているか、でしょうね>
どうぞこちらに。おかけになって、
と誘うエリゼは、またサンドイッチを手に取る。
<ここ、ずいぶん模様替えしましたね>
<……わたくしの願望をかなえてくれる場所のようです。
どんどん快適になりますわ>
<私、沢山の食べ物を見ると、胸やけがするのです。
今も、です。
エリゼ様は、痛みや辛さはございませんか>
<……空腹は、感じますわね。
リア様が表に出てくださって、感情の起伏がありますと、
この場所も反応しますわ。
でも、わたくしはわたくしの、ようです>
では。たった今、リアが冷や汗たらたら、心臓バクバクの間、
エリゼ様は、なんら影響なく、ここでお茶していたってこと?
<天井が、ぱあっと光りましたの。
リア様、お兄様にときめかれました?>
<んなわけ、ございません!
あんな原黒!
緊張と怯えは、ありましたよ。
まあ、あんな脅迫なら、問題にならないと思いましたけど>
なにせ、あの美しい顔が
迫って
迫ってきたんだもん!
おまけに、微笑の中の目は、
目は、
ちっとも笑ってないのよ……怖い。
<妙な事おっしゃってましたわね。
殿下とお話しするな、とか>
<偶然でも、二度と会うな、と脅されましたね>
私なんかが、第一王子の気を引くなんてこと、
台地が裂けても、ございませんのにね。
ころころ、と笑うエリゼ。
リアは、何かにひっかかりを感じたが、
今はそれどころではない!と判断した。
<とにかく。次はエリゼ様が表に出てください。
ヴォルフと渡り合えるほど、私はスキルがありません!
私こそが、棺にふさわしいのでは?>
エリゼの向こうには、ぼんやりとした壁沿いに、少し高い床があり、
そこに真っ白い棺が鎮座している。
寝床が棺なんて、ドラキュラ以来だわ。
<わたくしは、ここで死人としていたいのです。
なんとか、わたくしが消える手立てを探りますので、それまでは>
いやいやいや
消えなきゃならないのは、私。
棺が必要なのも、わた、
……ん?
<エリゼ様>
<はい>
<……増えてませんか?>
<ケーキ?>
私はお行儀悪く、指をさした。
ゆっくりと、指さす方向をエリゼが見やった。
<あら>
……白い棺が、
増えていた。
2つ。
エリゼの棺とリアの棺。
そして、新たな棺が2つ。
エリゼの心内宮殿には、
4つの棺となっていた。
この場をとんずらするのが最適解と、リアは判断した。
ふらふら、と体をゆらして、こめかみを抑える。
「いけないね。
久しぶりの登校に、いじめへの反論、おまけに、
亡くなった令嬢の親友とお茶会していて。
挙句に、マクシミリアン殿下のお目見えまで、ねえ」
う。
まって!
な、なんでヴォルフは、マーヤと会ってたことまで知ってるの?
え?
内容まで、漏れてる?
<言ってない!私言ってないわよね?>
<……おっしゃって、ませんわ、よね>
ど、どうしようー
この原黒、どこまで知ってるの?
ますます『エリゼらしくない』状態じゃない!
ヴォルフは、そっとハンケチを出して横に座ってきた。
「汗……暑くもないのに冷や汗かな?
具合がよくないんだね、可哀想に」
追い込んでるあんたのせいだろうが!
どきどきばくばくする心臓が、口から出そうよ……
ときめかない!これは怯え!
私はエリゼ!
「お、にいさま。エリゼはつらいのです」
「そうだね。だから」
柔らかなハンケチで銀髪で覆われたエリゼの額をそっとぬぐわれる。
ひいい、近すぎ。
キスの距離まで迫ってきたヴォルフの口元が、エリゼの耳元に落ちて、
(マクシミリアンから全て聞いたんだよ?
エリゼ、あんな男に、公式なお披露目もないのに話なんかだめだよ?
二度目はないよね?
お兄様に約束できる、ね?)
と、びりびりする色気のある声で、ささやいた。
壊れた人形のように、エリゼはこくこくと首を振り続ける。
「いい子だね。
王子なんかに、目をつけられちゃだめだよ。
君は私や兄さんの宝物なんだから」
リアは、ごっくんとはしたなくもつばを飲みこんで、
「はい」
と返事をした後、
気を失った。
エリゼとリアが住む心内は、リアが戻るたびに、広く複雑になっている。
<……死ぬかと思った>
死んでますけど、もう。
<ヴォルフ兄さまは、ねちっこい気質ですから。
それにしても、どうやってわたくしたちが、マーヤ様の懺悔をうかがったことご存じなのかしら>
エリゼは、レースがふんだんについた純白のドレス姿で、
やはり白いティーテーブルに向って腰かけている。
テーブルには、タワーにサンドイッチやケーキがどっさり。
アフタヌーンティーの時間らしい。
もう、外は夜なのに。
<影がいる?>
<侯爵家の、ですか?
いいえ。お父様は成人していない親族に、影を動かさせてはくださらないわ。
おそらく、お兄様の従者か、わたくしの護衛が通じているか、でしょうね>
どうぞこちらに。おかけになって、
と誘うエリゼは、またサンドイッチを手に取る。
<ここ、ずいぶん模様替えしましたね>
<……わたくしの願望をかなえてくれる場所のようです。
どんどん快適になりますわ>
<私、沢山の食べ物を見ると、胸やけがするのです。
今も、です。
エリゼ様は、痛みや辛さはございませんか>
<……空腹は、感じますわね。
リア様が表に出てくださって、感情の起伏がありますと、
この場所も反応しますわ。
でも、わたくしはわたくしの、ようです>
では。たった今、リアが冷や汗たらたら、心臓バクバクの間、
エリゼ様は、なんら影響なく、ここでお茶していたってこと?
<天井が、ぱあっと光りましたの。
リア様、お兄様にときめかれました?>
<んなわけ、ございません!
あんな原黒!
緊張と怯えは、ありましたよ。
まあ、あんな脅迫なら、問題にならないと思いましたけど>
なにせ、あの美しい顔が
迫って
迫ってきたんだもん!
おまけに、微笑の中の目は、
目は、
ちっとも笑ってないのよ……怖い。
<妙な事おっしゃってましたわね。
殿下とお話しするな、とか>
<偶然でも、二度と会うな、と脅されましたね>
私なんかが、第一王子の気を引くなんてこと、
台地が裂けても、ございませんのにね。
ころころ、と笑うエリゼ。
リアは、何かにひっかかりを感じたが、
今はそれどころではない!と判断した。
<とにかく。次はエリゼ様が表に出てください。
ヴォルフと渡り合えるほど、私はスキルがありません!
私こそが、棺にふさわしいのでは?>
エリゼの向こうには、ぼんやりとした壁沿いに、少し高い床があり、
そこに真っ白い棺が鎮座している。
寝床が棺なんて、ドラキュラ以来だわ。
<わたくしは、ここで死人としていたいのです。
なんとか、わたくしが消える手立てを探りますので、それまでは>
いやいやいや
消えなきゃならないのは、私。
棺が必要なのも、わた、
……ん?
<エリゼ様>
<はい>
<……増えてませんか?>
<ケーキ?>
私はお行儀悪く、指をさした。
ゆっくりと、指さす方向をエリゼが見やった。
<あら>
……白い棺が、
増えていた。
2つ。
エリゼの棺とリアの棺。
そして、新たな棺が2つ。
エリゼの心内宮殿には、
4つの棺となっていた。
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