30 / 35
年齢
しおりを挟む
結局、平成の家族の中で1年間過ごした。
この間に敬子には大きな変化があった。老眼がやって来たのである。
もともと目は悪くはなかった。それまで眼鏡をかけて生活したことは全く無い。
それは突然来た。それまで何の苦労もなく読めていた文字が霞んで見える。
「ついに来たか」
両親が老眼になった頃を思い出した。両親も若い頃には眼鏡などかけてはいなかったが、40代半ばころ急に使いだすようになった。
二つの時代に生きる自分は実年齢を意識して来なかったが、こうなっては意識せざるを得ない。両方の時代を生きた年数を合わせればもう40代後半である。
眼鏡屋で作ろうかとも思ったが、平成の時代には百均という店がある。実際には消費税が加算されるから100円ではないが、本来昭和の人間である慶子からすればどれも信じられないほど安く、物も悪くない。
ひょっとして老眼鏡もあるかも、と見てみたら、やはりあった。レンズはプラスチックで付けていないと思うくらい軽い。
帰宅後、ユウさんと娘たちに話す。
「老眼になったみたい。届け出た年齢より、実はかなりいっているのかもしれない」
ユウさんは特に気にする様子は無かった。
「いつかは誰もが通る道だし、眼鏡をかけた君もいいよ」
「ママ、似合ってる」
「ありがとう」
いつ昭和に戻るか決めていないけど、戻ったらすぐ作らなければ。向こうには百均など存在しないから、注文して出来上がるまでは虫眼鏡でも使わなければならないだろう。
ある日、ユウさんからこんなことを言われた。
「今度の夏休み、家族で海外旅行に行かない?」
「嬉しいけど、大丈夫なの?家族全員で行ったら相当かかるんじゃない?」
「格安航空券、ってものがあるらしいよ」
敬子はこういうものに興味が無いので知らなかったが、昭和では考えられないくらい安く海外旅行ができるらしい。場所によってはユウさんの両親も含めて家族7人一緒でもそれほど高額にはならない。
昭和にいた時は海外旅行など行ったことが無い。あんな夫と何日も一緒に旅行するなんて考えただけでもぞっとするが。友人たちと行くのであればいいが、あいにくそんな金は無い。
「どこか行きたいところ、ある?」
あることはあった。敬子は昭和の時代では「赤毛のアン」に夢中になっていたからである。こちらと違って楽しみが少ない生活の中では小説というのは寝る前など短い時間でいつでも楽しめるものだった。そんな「少女趣味」の慶子を夫がバカにしていることは知っていたが、気にしていたらきりがない。慶子の方でもほとんど趣味と言えるようなものを持たず、仕事しか生きがいの無い夫のことを内心バカにしていた。どうせ家にいるのは1年のうち1/3も無いのである。
昭和54年1月からテレビアニメで「赤毛のアン」が放送され始めていた。子供、特に少女向けの作品だが、慶子にとって楽しみが少ない昭和の家では子供たちより慶子の方が夢中になっていた。
舞台になっている「プリンス・エドワード島」に行ってみたかったが、そんなマイナーな場所では格安航空券や格安ツアー旅行は無いだろう。
ユウさんには隠すようなことではないので、正直に話す。
「確かに結構かかりそうだな」
「いいのよ。聞いてくれただけでも嬉しいんだから」
「きみ一人だけなら何とかなるよ」
「でも、悪いわ」
「気にすること無い。行ってきなさいよ」
しばらく考えた。ここで逃したら、一生行くことは無いかもしれない。
「ありがとう。本当にいいの?」
「子供たちのことなら心配いらない。ぼくの両親もいることだし」
決断した。むざむざこの機会を逃すことは無い。
「決めたわ。行ってきます」
それから、パスポートを取得したりし、いよいよその日が来た。
昭和の生活をしているときに既に成田空港は開通していたが、海外旅行の経験が無い慶子は行ったことが無かった。初めての海外旅行、緊張する。
「それじゃ、行ってくるわね。子供たちをよろしく」
50近くなって初めて、しかも一人だけの海外旅行だ。昭和の家族だったら絶対にありえない。
この間に敬子には大きな変化があった。老眼がやって来たのである。
もともと目は悪くはなかった。それまで眼鏡をかけて生活したことは全く無い。
それは突然来た。それまで何の苦労もなく読めていた文字が霞んで見える。
「ついに来たか」
両親が老眼になった頃を思い出した。両親も若い頃には眼鏡などかけてはいなかったが、40代半ばころ急に使いだすようになった。
二つの時代に生きる自分は実年齢を意識して来なかったが、こうなっては意識せざるを得ない。両方の時代を生きた年数を合わせればもう40代後半である。
眼鏡屋で作ろうかとも思ったが、平成の時代には百均という店がある。実際には消費税が加算されるから100円ではないが、本来昭和の人間である慶子からすればどれも信じられないほど安く、物も悪くない。
ひょっとして老眼鏡もあるかも、と見てみたら、やはりあった。レンズはプラスチックで付けていないと思うくらい軽い。
帰宅後、ユウさんと娘たちに話す。
「老眼になったみたい。届け出た年齢より、実はかなりいっているのかもしれない」
ユウさんは特に気にする様子は無かった。
「いつかは誰もが通る道だし、眼鏡をかけた君もいいよ」
「ママ、似合ってる」
「ありがとう」
いつ昭和に戻るか決めていないけど、戻ったらすぐ作らなければ。向こうには百均など存在しないから、注文して出来上がるまでは虫眼鏡でも使わなければならないだろう。
ある日、ユウさんからこんなことを言われた。
「今度の夏休み、家族で海外旅行に行かない?」
「嬉しいけど、大丈夫なの?家族全員で行ったら相当かかるんじゃない?」
「格安航空券、ってものがあるらしいよ」
敬子はこういうものに興味が無いので知らなかったが、昭和では考えられないくらい安く海外旅行ができるらしい。場所によってはユウさんの両親も含めて家族7人一緒でもそれほど高額にはならない。
昭和にいた時は海外旅行など行ったことが無い。あんな夫と何日も一緒に旅行するなんて考えただけでもぞっとするが。友人たちと行くのであればいいが、あいにくそんな金は無い。
「どこか行きたいところ、ある?」
あることはあった。敬子は昭和の時代では「赤毛のアン」に夢中になっていたからである。こちらと違って楽しみが少ない生活の中では小説というのは寝る前など短い時間でいつでも楽しめるものだった。そんな「少女趣味」の慶子を夫がバカにしていることは知っていたが、気にしていたらきりがない。慶子の方でもほとんど趣味と言えるようなものを持たず、仕事しか生きがいの無い夫のことを内心バカにしていた。どうせ家にいるのは1年のうち1/3も無いのである。
昭和54年1月からテレビアニメで「赤毛のアン」が放送され始めていた。子供、特に少女向けの作品だが、慶子にとって楽しみが少ない昭和の家では子供たちより慶子の方が夢中になっていた。
舞台になっている「プリンス・エドワード島」に行ってみたかったが、そんなマイナーな場所では格安航空券や格安ツアー旅行は無いだろう。
ユウさんには隠すようなことではないので、正直に話す。
「確かに結構かかりそうだな」
「いいのよ。聞いてくれただけでも嬉しいんだから」
「きみ一人だけなら何とかなるよ」
「でも、悪いわ」
「気にすること無い。行ってきなさいよ」
しばらく考えた。ここで逃したら、一生行くことは無いかもしれない。
「ありがとう。本当にいいの?」
「子供たちのことなら心配いらない。ぼくの両親もいることだし」
決断した。むざむざこの機会を逃すことは無い。
「決めたわ。行ってきます」
それから、パスポートを取得したりし、いよいよその日が来た。
昭和の生活をしているときに既に成田空港は開通していたが、海外旅行の経験が無い慶子は行ったことが無かった。初めての海外旅行、緊張する。
「それじゃ、行ってくるわね。子供たちをよろしく」
50近くなって初めて、しかも一人だけの海外旅行だ。昭和の家族だったら絶対にありえない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる