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ヒロインの年表
プロフィール
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昭和16年1月、慶子は生まれた。
父は明治生まれで31歳で慶市といった。当時としては170㎝と高身長で、農業学校卒。尋常小学校卒で就職するのが普通だった時代では高学歴だった。両親とも若くして亡くなっていたが、家業の農業を継いだ長兄が慶市が学力優秀なことを見抜き、きょうだいの中で唯一進学させてもらえた。卒業後は村役場の職員として働いていたが、当時の地方公務員の給料は安くて生活は決して楽ではなく、家族三人、下宿屋のようなところに住んでいた。
母は大正生まれの24歳のシマ。母も優秀だったが、父は婿養子で木こりをやっている家庭は決して豊かではなく、尋常小学校を卒業後は妹や弟の面倒を見ながら家の手伝いをしていた。
一切の誕生日を迎える直前の12月、日本は大東亜戦争に突入。それから数か月後、母が懐妊していることが分かったが、喜ぶ間もなく慶市に召集令状が来た。
一家は慶市の実家に移った。シマは間もなく長男を出産し、農業を手伝いながら慶市の復員を待つことになった。
写真でしか父親の顔を知らないまま慶子は4歳になった。地元に幼稚園は無かったので、母の実家に下宿して通った。初孫だった慶子は祖父母に可愛がられ、特に祖父はかわいがってくれたので、4歳にして親元を離れても寂しいとは思わなかった。
年少組の夏、戦争は終わった。とは言っても、この辺りには爆撃も無かったため特に変わりは無かった。
秋も更けかけた10月。
先生が慶子を呼んだ。
「すぐ、お家に帰りなさい」
慶子の実家までは6キロほど。子供の脚には結構な距離だったが、言われるままに家に帰った。
そこには、背の高い男がいた。
「慶子か。大きくなったなあ」
幼い頃に出征した父の記憶は無かったが、写真を思い出した。写真では精悍な風貌だったが、かなりやつれていた。
2日ほど過ごし、母の実家に戻った。
優しい祖父と違い、父は昔気質の頑固な性格であることが分かった。元々そうだったのか、戦場の経験がそうさせたのかは分からない。いずれにしても一緒にいて疲れる人だと思った。こちらの生活の方が遥かに気が楽だった。
幼稚園卒業とともに、父の実家に戻った。慶子としてはずっと母の実家にいたかったが、両親は
「戻って来い」
と言った。幼い慶子に逆らえるはずもなかった。
慶子が入学する年度から、学校制度が大きく変わった。それまで「国民学校初等科」だったのが、「新制小学校」になった。
当時は義務教育でも教科書は無料ではなかった。安月給の父は文房具を買い揃えるにも苦労し、
「大切に節約して使うように」
ときつく言いつけた。
間もなく母が妊娠していることが分かった。身重の母に代わって小学1年の慶子は家事もやらなければならなくなった。
正直、家事は好きではなかった。弟は男だという理由で家事はさせられることが無いのが羨ましかった。
「あっちの生活が懐かしいな」
もちろん心の中で思っただけで口には出せないことだった。
年末に母が出産した。男の子二人、二卵性の双子だった。家事の負担はますます慶子にのしかかってきた。さすがにすぐ下の弟も家事をやらないわけにはいかなくなり、手伝わせるようになったが、ほとんど慶子の肩にかかっていた。
「なんで私ばっかり」
「慶子は女の子でしょ」
「好きで女の子に生まれてきたわけじゃないわ」
つくづく女なんて損だと思った。
同居している伯父一家には慶子と同年のいとこがいた。名前は香子。彼女は同年のこともあって慶子と仲が良かったが、家事をやることを苦にしていない様子だった。「きょうこ」「けいこ」と名前も似ていて、同年でしかも同姓のいとこ同士。田舎の学校で一学年二クラスしかなく、どこでも一括りに扱われた。別にそれが嫌だというわけではないけど、家事を喜んでやる香子のことは仕方なしに手伝っているけどできればやりたくない慶子からすれば理解できなかった。
強制ではなかったけど、小学三年生以上は女子はセーラー服、男子は詰襟の学生服を着る習慣があった。新品など買ってはもらえず、両親が何処からか貰って来たものを使っていた。もっともよほど裕福な家を別にしてほとんどのうちは似たようなものだったが、姉もいないのにお下がりというのはやはり少ない方だった。
五年の時には一泊二日で修学旅行に行った。指定席などあるわけもなく、数少ない空席を交代で座るような状態で、煙を吐く蒸気機関車が牽引する列車。両親からすればかなり無理をして参加させてくれたのだろうけど、楽しいどころか苦行でしかなかった。
父の遺伝なのか、身長はクラスの中でダントツに高くなった。女子の方が背が伸びる四年生からは体育の授業などで並ぶときは最後部が慶子の定位置になった。いとこの香子はそこまで背が高くならなかった。伯父は慶子の父ほど背が高くなかったからかもしれない。慶子の母も平均的な女性よりは背が高い方だった。
その代わりと言っては何だが、胸は全く大きくならなかった。初潮は他の子と同じ頃に来たけど、慶子の体つきは「女性的」とは言い難いものだった。
中二春、ふたごの弟が小学校に入学した。クラスが別なので、母と慶子で「手分けして」保護者として付き添った。中学は新学期が始まる前だったので休む必要も無かったし、当時父親が仕事を休んで入学式に付き添う習慣は無かった。
この頃ようやく伸長が止まったが、当時の女性としてはかなり高身長の163㎝になっていた。ほとんどの女子は155㎝くらいで、慶子の高身長は学年女子で及ぶ子は他にいなかった。
家の手伝いをしなければならないので部活動には入らなかったが、高身長で誤解されたのか、体育祭などに駆り出されることもあったが、慶子は運動神経が優れていたわけではなく、「見掛け倒し」などと言われていることも知っていた。
その代わりと言っては何だが、勉強はそこそこにできた。成績のことで両親は文句を言わなかった。本当はもっと勉強に専念したかったが、家事をやらなければならず勉強に割ける時間は限られていた。
父は明治生まれで31歳で慶市といった。当時としては170㎝と高身長で、農業学校卒。尋常小学校卒で就職するのが普通だった時代では高学歴だった。両親とも若くして亡くなっていたが、家業の農業を継いだ長兄が慶市が学力優秀なことを見抜き、きょうだいの中で唯一進学させてもらえた。卒業後は村役場の職員として働いていたが、当時の地方公務員の給料は安くて生活は決して楽ではなく、家族三人、下宿屋のようなところに住んでいた。
母は大正生まれの24歳のシマ。母も優秀だったが、父は婿養子で木こりをやっている家庭は決して豊かではなく、尋常小学校を卒業後は妹や弟の面倒を見ながら家の手伝いをしていた。
一切の誕生日を迎える直前の12月、日本は大東亜戦争に突入。それから数か月後、母が懐妊していることが分かったが、喜ぶ間もなく慶市に召集令状が来た。
一家は慶市の実家に移った。シマは間もなく長男を出産し、農業を手伝いながら慶市の復員を待つことになった。
写真でしか父親の顔を知らないまま慶子は4歳になった。地元に幼稚園は無かったので、母の実家に下宿して通った。初孫だった慶子は祖父母に可愛がられ、特に祖父はかわいがってくれたので、4歳にして親元を離れても寂しいとは思わなかった。
年少組の夏、戦争は終わった。とは言っても、この辺りには爆撃も無かったため特に変わりは無かった。
秋も更けかけた10月。
先生が慶子を呼んだ。
「すぐ、お家に帰りなさい」
慶子の実家までは6キロほど。子供の脚には結構な距離だったが、言われるままに家に帰った。
そこには、背の高い男がいた。
「慶子か。大きくなったなあ」
幼い頃に出征した父の記憶は無かったが、写真を思い出した。写真では精悍な風貌だったが、かなりやつれていた。
2日ほど過ごし、母の実家に戻った。
優しい祖父と違い、父は昔気質の頑固な性格であることが分かった。元々そうだったのか、戦場の経験がそうさせたのかは分からない。いずれにしても一緒にいて疲れる人だと思った。こちらの生活の方が遥かに気が楽だった。
幼稚園卒業とともに、父の実家に戻った。慶子としてはずっと母の実家にいたかったが、両親は
「戻って来い」
と言った。幼い慶子に逆らえるはずもなかった。
慶子が入学する年度から、学校制度が大きく変わった。それまで「国民学校初等科」だったのが、「新制小学校」になった。
当時は義務教育でも教科書は無料ではなかった。安月給の父は文房具を買い揃えるにも苦労し、
「大切に節約して使うように」
ときつく言いつけた。
間もなく母が妊娠していることが分かった。身重の母に代わって小学1年の慶子は家事もやらなければならなくなった。
正直、家事は好きではなかった。弟は男だという理由で家事はさせられることが無いのが羨ましかった。
「あっちの生活が懐かしいな」
もちろん心の中で思っただけで口には出せないことだった。
年末に母が出産した。男の子二人、二卵性の双子だった。家事の負担はますます慶子にのしかかってきた。さすがにすぐ下の弟も家事をやらないわけにはいかなくなり、手伝わせるようになったが、ほとんど慶子の肩にかかっていた。
「なんで私ばっかり」
「慶子は女の子でしょ」
「好きで女の子に生まれてきたわけじゃないわ」
つくづく女なんて損だと思った。
同居している伯父一家には慶子と同年のいとこがいた。名前は香子。彼女は同年のこともあって慶子と仲が良かったが、家事をやることを苦にしていない様子だった。「きょうこ」「けいこ」と名前も似ていて、同年でしかも同姓のいとこ同士。田舎の学校で一学年二クラスしかなく、どこでも一括りに扱われた。別にそれが嫌だというわけではないけど、家事を喜んでやる香子のことは仕方なしに手伝っているけどできればやりたくない慶子からすれば理解できなかった。
強制ではなかったけど、小学三年生以上は女子はセーラー服、男子は詰襟の学生服を着る習慣があった。新品など買ってはもらえず、両親が何処からか貰って来たものを使っていた。もっともよほど裕福な家を別にしてほとんどのうちは似たようなものだったが、姉もいないのにお下がりというのはやはり少ない方だった。
五年の時には一泊二日で修学旅行に行った。指定席などあるわけもなく、数少ない空席を交代で座るような状態で、煙を吐く蒸気機関車が牽引する列車。両親からすればかなり無理をして参加させてくれたのだろうけど、楽しいどころか苦行でしかなかった。
父の遺伝なのか、身長はクラスの中でダントツに高くなった。女子の方が背が伸びる四年生からは体育の授業などで並ぶときは最後部が慶子の定位置になった。いとこの香子はそこまで背が高くならなかった。伯父は慶子の父ほど背が高くなかったからかもしれない。慶子の母も平均的な女性よりは背が高い方だった。
その代わりと言っては何だが、胸は全く大きくならなかった。初潮は他の子と同じ頃に来たけど、慶子の体つきは「女性的」とは言い難いものだった。
中二春、ふたごの弟が小学校に入学した。クラスが別なので、母と慶子で「手分けして」保護者として付き添った。中学は新学期が始まる前だったので休む必要も無かったし、当時父親が仕事を休んで入学式に付き添う習慣は無かった。
この頃ようやく伸長が止まったが、当時の女性としてはかなり高身長の163㎝になっていた。ほとんどの女子は155㎝くらいで、慶子の高身長は学年女子で及ぶ子は他にいなかった。
家の手伝いをしなければならないので部活動には入らなかったが、高身長で誤解されたのか、体育祭などに駆り出されることもあったが、慶子は運動神経が優れていたわけではなく、「見掛け倒し」などと言われていることも知っていた。
その代わりと言っては何だが、勉強はそこそこにできた。成績のことで両親は文句を言わなかった。本当はもっと勉強に専念したかったが、家事をやらなければならず勉強に割ける時間は限られていた。
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