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第7話
しおりを挟むこの世界は、製造元が日本だからなのか日本にあったものが結構反映されているから特に不便を感じない。
電気はあるし、電話もある。
流石に携帯とかスマートフォンは無いけれど‥‥
あと、テレビもない。だけど、劇や漫画、本は結構いろんな種類があると知った。
この世界の恋愛小説がとても面白くて、この3日ほどずっと本を読んで居た。
今日も、中庭の木陰で読書をして楽しんでいる。
「ん~今日もとても気持ちのいい日ね、ユーリ。」
伸びをして、私の隣に付いていてくれるユーリに話しかける。
「そうですね。でも、南の方ではハリケーンが発生してて結構な被害が出ているそうですよ。」
「へぇ~そうなんだ‥‥」
「水不足も、結構深刻らしいですよ~今日の新聞で書いてありました。」
「え!新聞もあるの?読んで見たい!」
「では、後でお持ちしますね。」
「うん!お願い。ありがとう。」
ユーリとは、だいぶ打ち解けて気軽な日常会話をする程度には仲良くなれている。
「いえ、欲しいものがありましたら何なりとお申し付け下さい。」
ニコリと笑顔で言ってくれた言葉に裏表がない事がわかる私は、安心してその言葉を受け取れる。
「え~結構もう、よくしてもらいっぱなしだからなぁ。逆に、お礼がしたいくらいだよ。こんなにグータラしてて、大丈夫かな?そう言えば、今って夏休みなんだよね?」
「そうですね、夏休みです。」
「宿題とか課題って出てないの?」
「出ていますよ、課題。でも、リリアーナ様は夏休み入った1週目で全て終わらせていました。」
「そうなんだ‥‥結構、真面目な人なんだね。」
「‥‥はい、真面目な方でした。だから、余計に‥‥」
『心が壊れてしまったんだわ‥‥‥‥』
「‥‥っ。そっか、そうなんだね。」
「皆様は誤解しがちですけど、お優しいところもあったんです。それに、強く見せていましたけれど、とても弱い方でした‥‥。」
「そうなんだ。」
(確かに、私もリリアーナはただの傲慢な悪役令嬢にしか思ってなかった‥‥)
ユーリの話を聞きながら、私はなんで近くにいてくれた味方を見付けられなかったのかってリリアーナに同情した。
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「お嬢様。」
「ん?なに??ヘンリー。」
ヘンリーは少しだけ肩で息をして、息を少し整えたかと思ったら、胸ポケットに入れていた上質そうな手紙を手渡してきた。
「ん?これは‥‥?」
「‥‥王太子殿下から、王宮の夜会に招待されました。」
「‥‥‥‥‥‥へ?」
素っ頓狂な声が思わず出てしまった。
ユーリも、驚きのあまり口元に手を添えて目を見開いている。
ヘンリーでさえ、今まで無かった事なのか少しだけ険しい顔をしていた。
「確認なんだけど‥‥‥‥」
「はい。」
「欠席したら‥‥‥‥」
「生死の関わる病気や怪我以外は、欠席は難しいでしょう。」
「‥‥‥‥‥‥そう。」
覚悟を決めるしかないらしい。
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作戦会議をしたいと言って、ユーリとヘンリーだけ自室に来てもらった。
「まず、夜会はいつかは出なきゃなんだから、行こうと思う。」
出るなら早めの方がいいと思ったからその決意を二人に伝える。
「はい、それがいいと思います。」
『大丈夫かは置いておいて、確かに避けられない道だからな。』
ヘンリーも、同じことを思っていたのかすぐに頷いてくれた。
「そ、そうですね。」
『うーん。結構、心配だわ‥‥』
(うん。そうよね、二人とも心配でしかないわよね。)
私は、そこである重大発表をする。
「二人の知恵を借りたいのだけれど‥‥あのね、私ね‥‥」
二人とも、何を言い出すのか気が気じゃないのかゴクリと唾を飲む音が無音の部屋に響く。
「まずは、私、フィンセント様と婚約破棄したいの。」
二人とも、驚きすぎて目を丸くして思考も止まっている。
『え?婚約破棄といったか?何故だ?お嬢様は‥‥』
「‥‥‥‥はい。」
返事をくれたのはヘンリーが早かった。
「でもっ、お嬢様は、フィンセント殿下の事が‥‥‥‥!」
ユーリは思考は纏まってないが、リリアーナの事を一番に気遣ってくれている。
「うん。リリアーナは、フィンセント様が大好きよね。でも、フィンセント様が好きなリリアーナはもう、この世界にいない。そして、私はあの腹黒ドS王子は好きじゃない。それに‥‥」
(早めに婚約破棄しないと断罪されるなんて言ってもなぁ‥‥)
どう、言葉をつなげばいいのか分からずにいい淀む
『それに?‥‥‥‥まさか、もう、心に決めた方がいらっしゃるって事か‥‥?誰だ?それは‥‥もしかして、元の世界に‥‥?いや、しかし・・・』
ジッとヘンリーに見つめられて、"声"が聞こえてきた。
そして、盛大に勘違いを起こしかけている。
「や、あ、えと!好きな人がいるとか、心に決めた人がいるとか、そーいうんじゃないんだけれど‥‥なんて言うのかな‥‥もっと、自由にのびのび過ごしたいんだよね。心に余裕を持ちたいって言うか‥‥だから、”王太子妃候補”とか、”王太子の婚約者”は荷が重すぎるって言うか‥‥この先、好きな人ができた時も今のままだったら恋もできないじゃない?可能性を狭めたくないって言うか‥‥」
「「はぁ‥‥」」
私の言い分に、二人はイマイチピンと来てないように感じる。
思考も、???ばっかりだし‥‥。まぁ、私の考えはこの世界ではあまりないよね、特に貴族としては失格の考えだと思う。
「まぁ、要は私、好きな人以外と結婚したくないんだよね。」
ハハハって明るく言い切ると、二人ともまた驚いた表情になった。
現代社会だと当たり前の考えなんだけどなぁーって他人事のように考えてしまう。
「だって、侯爵令嬢になったって言ってもつい数週間だしさ、『貴族の常識』とか、『お家問題』とか、私にははっきり言って関係ないじゃん!こっちに来てからだって、両親に会って恩を感じたわけでもないし、寧ろ、冷たい両親のせいでリリアーナだって病んで行ったわけじゃん。ちゃんと、愛情を持って接していれば、もっと違う結果になったと思うんだよね。もしも、婚約破棄して出て行け!とか、勘当だ!って言われたら、私はそれを受け入れるつもり。元々庶民なんだから今更庶民になったって別になんとも思わないしね!」
『‥‥‥‥‥‥お嬢様が庶民になる?』
私が必死に言い訳を探してヘンリーがちゃんと真面目に話を聞いてくれていたかと思ったら、ヘンリーが色々抜粋して一言だけ理解したみたいだった。
「‥‥確かに、そうですね。分かりました。私も、出来る範囲にはなりますが‥‥協力いたします。」
ちゃんと理解してくれて、いい返事をくれたのはユーリだった。
嬉しくてありがとう!と手を差し出すと、力強く握り返してくれてまたそれも、嬉しくて頬が緩む。
『お嬢様が庶民に‥‥?庶民‥‥。もし、そうなったとしたら、俺とも結婚出来るんじゃ‥‥!?本当に、一生一緒に過ごせるんじゃ‥‥!!!???お嬢様は働いたりなんかしなくていい、、だから、俺だけを目に映して、俺のために生きていてくれる俺だけのお嬢様になってもらえれば‥‥もしかして、現実に‥‥?もしそうなったらーーーーー・・・』
「あーあーえっと、ヘンリー???どうかな??」
色々ヤンデレな怖い発想になって来たのを無理矢理断ち切ってヘンリーを現実世界に戻す。
「‥‥とても、良いと思います。私、ヘンリーがこの命に代えてもお嬢様のご希望を叶えましょう。」
「‥‥死なれるのは、嫌だけどね?でも、賛成してくれてありがとう!」
(監禁、軟禁なんか絶対嫌だけど!)
少しだけ苦笑いを交えつつ、ヘンリーにも手を差し出す。握手して、手を離すと何故かヘンリーは握った手をグーパーしていた。なにか、不快感があったのかな?と、不安に思ったが…
『お、お、お、お嬢様のっ!!!お手が!!!!!お手を触れてしまった!!、えぇぇい!!!あぁ~…一生手ェ洗わない。絶対、洗わないでおこう。‥‥っうはぁーーー、やらかかったぁ…とても小さな手だったな…あぁ、この小さな手を一つに纏めて身動き取れなくしたり‥‥この手で俺の・・・・』
(ちょ、この人真面目な顔してなに考えてんの!?この人は!!!)
ヘンリーはその後も涼しい顔をして、頭の中がむっつりすけべなことばかり考えていた。
そんなヘンリーを放っておいて、今度の夜会の作戦会議をする事にした。
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