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第26話 おっさん、マラソンの結果に満足する
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ちょっと時間を戻り、俺が転けたときのテレビ中継はこんなことになっていた。
「さあ!世紀の瞬間がやってきます!!
いま、ゴ――」
「ああっ!!」
「転倒!伊座間選手、転倒しました。
すごい転び方でしたが大丈夫でしょうか。
ああっ、転げ回ってますね。
相当痛かったようです。
心配です」
「すごい転げ回ってますね。
そのまま転がってゴールできそうなもんですが。
あ、スタッフを呼んでますよ」
「相当ひどい怪我でもしたのでしょうか。
あと、数メートル、何とかゴールまでたどり着いてほしいですが、怪我の方も心配です」
「観客の声援も物凄いです。
あとちょっと頑張れと言ったふうな声が聞き取れますが、私も同じ思いです。
ただ怪我も心配なので無理はしないでほしいですが」
「ええ!?
っ!失礼しました。
伊座間選手、なんとスタッフに棄権を告げたようです」
「ええっ!?棄権ですか?相当ひどい怪我だったんでしょうか。
であれば記録がどうより治療優先で対応してもらいたいですが」
「観客の声援はまだすさまじいです。
あと数メートルですからね。その目で世界記録更新の瞬間を見たいのかも知れませんが。
怒声も混じっている気がしますね。
棄権することが徐々に広まっているのかもしれません」
「あっ、立ち上がりましたよ。
大丈夫なんでしょうか。えっ!?
観客の方へ歩いていきますね。というか歩けるんですね・・・」
「えぇ、いま歩いた距離で十分ゴールまで行けたと思いますが・・・
何があったんでしょうか。
何人かの観客もゴールの方を指差しています」
「観客の一人に対して威嚇と言うかなんか揉めてるみたいですね。
怒鳴っている様子が見受けられます。
もしかするとヤジが気に障ったとかそんな感じかもしれません」
「あっ!ゴールの方に駆け出しました。このままゴールするつもりでしょうか?
あっと、違います。担架に座りました。担架が準備されているのに気づいて向かってたんですね。
そのままゴールできそうなぐらい走れていたと思うんですが」
「これ、担架をゴールテープの向こうに用意してれば彼を釣れたんじゃないでしょうか?
あっ、失言だったかもしれません、忘れてください。
私も世界記録更新の瞬間をこの目で見たいという気持ちがあったようです」
「今スタッフが彼に何か説明しているようです。
説得しているようにも見えますが、あっ、どうやら救護所の方に運ばれていくようです」
「おそらく、担架で持ち上げられた段階で競技中に他者の手を借りて移動した扱いになることを説明していたのかもしれませんね。
今回彼は棄権ということになりますが、大会の規定によっては他者の手を借りた瞬間に失格となるケースがありますからね。
まだ1分ちょっと世界記録更新に猶予もありましたし」
「そうなんですね。
しかしここで伊座間選手、棄権となってしまいました。
いやー、惜しかったですね。
完走と世界記録更新まで、あと一歩というところだったんですが。
えー、おそらく5分50秒ほど世界記録を更新できるだろうというところでの転倒とそして棄権という結果となってしまいました」
「ええ、実際あと2メートルあるかというところでしたからね。
走行中でしかもラストスパート中でもあったので文字通り一歩で進める距離です」
「しかし怪我の方は大丈夫なんでしょうか。
運ばれていく前は元気な様子も見られたんですが。
あ、情報が入ってきました。
えーと、彼が転倒で痛めたのは右手とのことです」
「手ですか。まあ、普通に立ち上がって歩いてましたもんね。駆け足もしてましたし」
「ええ、それでスタッフも本当に棄権でいいのか、歩いてもまだ世界記録でゴールできると説得もしたそうです。
彼は世界記録を更新できそうだったことは把握していなかった様子で驚いたみたいなのですが・・・
・・・えっと、男に二言はないと言って棄権を取り消さなかったそうです」
「それは・・・
なんというか、潔いと言っていいのでしょうか」
「そうですね、我々とは違う感性や価値観を持っているのかもしれません。
しかしこれで今までの2位争いが優勝争いということになります。
現在トップの選手は―――」
と、10分弱後ろを走っていた2位以下、―もうトップだが―の選手の状況を実況していった。
―――
――
―
そして、再度1位の選手を迎えるゴール前。
日本語がおかしいかも知れないが、実際そうなのだ。
誰かさんが棄権したせいだろうか。
若干というか、観客の声援にあまり熱が感じられないような気がする。
何故だろうか。
なんなら例年や他のマラソン大会のトップがゴールする瞬間位の熱もやはり感じられない。
何故だろうか。
世界記録は無理だがそれでも良い記録は出そうな素晴らしい走りである。
なのに声援にそこまでの熱がないような気がする。
何故だろうか、全く分からない。
世界新の更新に期待がかかった瞬間と同じ熱では応援できないなんて、そんなひどいことがあるわけはないと思うから、本当に分からない。
「さあ、今トップの選手が見えてきました」
おそらく解説も気づいているだろうがプロはそんなことを一言も口に出さない。
「こちらもいいタイムが期待できそうです」
しかし、それは失言じゃなかろうか。
もなんて言ったら、他にどんないいタイムを期待できたことがあったんだ?となるじゃないか。
そしてゴールの瞬間は、まるで2位の選手がゴールしたかのような普通の拍手でのフィニッシュとなった。
トップの選手はここで初めて俺の棄権、つまり自分が優勝であることを知らされたのか、驚きそしてガッツポーズをして喜んでいる。
さすがにコーチや応援していた身内はめちゃくちゃ嬉しそうに喜びを分かち合っているが、その他の周囲の反応はわりかし冷めている。
そんな光景を俺は救護所に置いてあったテレビで見ていた。
俺が世界記録直前で棄権したせいで、彼に贈られるはずの惜しみない声援や祝福をこんなものにしてしまったとは。
俺はこの結果に満足していた。
あー申し訳ない。
そんなことを思いながら、もう帰ろうと思い救護所を出ようとすると、
「すみません、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
――――
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いいねだけ、いいねだけでいいからっ。
と声をかけられた。
「さあ!世紀の瞬間がやってきます!!
いま、ゴ――」
「ああっ!!」
「転倒!伊座間選手、転倒しました。
すごい転び方でしたが大丈夫でしょうか。
ああっ、転げ回ってますね。
相当痛かったようです。
心配です」
「すごい転げ回ってますね。
そのまま転がってゴールできそうなもんですが。
あ、スタッフを呼んでますよ」
「相当ひどい怪我でもしたのでしょうか。
あと、数メートル、何とかゴールまでたどり着いてほしいですが、怪我の方も心配です」
「観客の声援も物凄いです。
あとちょっと頑張れと言ったふうな声が聞き取れますが、私も同じ思いです。
ただ怪我も心配なので無理はしないでほしいですが」
「ええ!?
っ!失礼しました。
伊座間選手、なんとスタッフに棄権を告げたようです」
「ええっ!?棄権ですか?相当ひどい怪我だったんでしょうか。
であれば記録がどうより治療優先で対応してもらいたいですが」
「観客の声援はまだすさまじいです。
あと数メートルですからね。その目で世界記録更新の瞬間を見たいのかも知れませんが。
怒声も混じっている気がしますね。
棄権することが徐々に広まっているのかもしれません」
「あっ、立ち上がりましたよ。
大丈夫なんでしょうか。えっ!?
観客の方へ歩いていきますね。というか歩けるんですね・・・」
「えぇ、いま歩いた距離で十分ゴールまで行けたと思いますが・・・
何があったんでしょうか。
何人かの観客もゴールの方を指差しています」
「観客の一人に対して威嚇と言うかなんか揉めてるみたいですね。
怒鳴っている様子が見受けられます。
もしかするとヤジが気に障ったとかそんな感じかもしれません」
「あっ!ゴールの方に駆け出しました。このままゴールするつもりでしょうか?
あっと、違います。担架に座りました。担架が準備されているのに気づいて向かってたんですね。
そのままゴールできそうなぐらい走れていたと思うんですが」
「これ、担架をゴールテープの向こうに用意してれば彼を釣れたんじゃないでしょうか?
あっ、失言だったかもしれません、忘れてください。
私も世界記録更新の瞬間をこの目で見たいという気持ちがあったようです」
「今スタッフが彼に何か説明しているようです。
説得しているようにも見えますが、あっ、どうやら救護所の方に運ばれていくようです」
「おそらく、担架で持ち上げられた段階で競技中に他者の手を借りて移動した扱いになることを説明していたのかもしれませんね。
今回彼は棄権ということになりますが、大会の規定によっては他者の手を借りた瞬間に失格となるケースがありますからね。
まだ1分ちょっと世界記録更新に猶予もありましたし」
「そうなんですね。
しかしここで伊座間選手、棄権となってしまいました。
いやー、惜しかったですね。
完走と世界記録更新まで、あと一歩というところだったんですが。
えー、おそらく5分50秒ほど世界記録を更新できるだろうというところでの転倒とそして棄権という結果となってしまいました」
「ええ、実際あと2メートルあるかというところでしたからね。
走行中でしかもラストスパート中でもあったので文字通り一歩で進める距離です」
「しかし怪我の方は大丈夫なんでしょうか。
運ばれていく前は元気な様子も見られたんですが。
あ、情報が入ってきました。
えーと、彼が転倒で痛めたのは右手とのことです」
「手ですか。まあ、普通に立ち上がって歩いてましたもんね。駆け足もしてましたし」
「ええ、それでスタッフも本当に棄権でいいのか、歩いてもまだ世界記録でゴールできると説得もしたそうです。
彼は世界記録を更新できそうだったことは把握していなかった様子で驚いたみたいなのですが・・・
・・・えっと、男に二言はないと言って棄権を取り消さなかったそうです」
「それは・・・
なんというか、潔いと言っていいのでしょうか」
「そうですね、我々とは違う感性や価値観を持っているのかもしれません。
しかしこれで今までの2位争いが優勝争いということになります。
現在トップの選手は―――」
と、10分弱後ろを走っていた2位以下、―もうトップだが―の選手の状況を実況していった。
―――
――
―
そして、再度1位の選手を迎えるゴール前。
日本語がおかしいかも知れないが、実際そうなのだ。
誰かさんが棄権したせいだろうか。
若干というか、観客の声援にあまり熱が感じられないような気がする。
何故だろうか。
なんなら例年や他のマラソン大会のトップがゴールする瞬間位の熱もやはり感じられない。
何故だろうか。
世界記録は無理だがそれでも良い記録は出そうな素晴らしい走りである。
なのに声援にそこまでの熱がないような気がする。
何故だろうか、全く分からない。
世界新の更新に期待がかかった瞬間と同じ熱では応援できないなんて、そんなひどいことがあるわけはないと思うから、本当に分からない。
「さあ、今トップの選手が見えてきました」
おそらく解説も気づいているだろうがプロはそんなことを一言も口に出さない。
「こちらもいいタイムが期待できそうです」
しかし、それは失言じゃなかろうか。
もなんて言ったら、他にどんないいタイムを期待できたことがあったんだ?となるじゃないか。
そしてゴールの瞬間は、まるで2位の選手がゴールしたかのような普通の拍手でのフィニッシュとなった。
トップの選手はここで初めて俺の棄権、つまり自分が優勝であることを知らされたのか、驚きそしてガッツポーズをして喜んでいる。
さすがにコーチや応援していた身内はめちゃくちゃ嬉しそうに喜びを分かち合っているが、その他の周囲の反応はわりかし冷めている。
そんな光景を俺は救護所に置いてあったテレビで見ていた。
俺が世界記録直前で棄権したせいで、彼に贈られるはずの惜しみない声援や祝福をこんなものにしてしまったとは。
俺はこの結果に満足していた。
あー申し訳ない。
そんなことを思いながら、もう帰ろうと思い救護所を出ようとすると、
「すみません、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
――――
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