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第60話 おっさん、捨てる
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「あっ!」
エライザが声を上げた。
いつの間に近づいたのか、敵の一人が俺たちの乗っている馬車によじ登り、エライザの足を掴んでいる。
俺はそいつの腕を踏みつけ、顔面を蹴り飛ばす。
よし、役に立っている!
ちがう。
油断してたか。接近に気づけなかった。
幸い向こうも何もしていなかった俺の存在を認識していなかったのか、俺を見た時に驚いた顔をしていた。
だが、そいつは俺に顔面を蹴られながらも俺の足を掴んできた。
そのせいで俺はバランスを崩し、そのまま馬車の上から落とされてしまった。
落ちた衝撃は結構強かったが、一緒に落ちた敵の近くで転がっている方がまずい。
衝撃に耐えながら俺は立ち上がり、敵から距離を取ると剣を抜いた。
「シン!」
エライザが俺を呼ぶ。
「平気だ!反対を警戒してくれ!」
同じように接近してたやつがいないか警戒させる。
とりあえず俺が落ちたガワにはこいつしかいないようだ。
相手は起き上がったが、まだ落ちた衝撃でふらついているようだ。
この隙を狙わないでどこを狙うというのか。
俺は剣でそいつを一撃、二撃と切りつけた。
無防備に近いところへの斬撃だ。
既に戦闘不能だろう。
そして俺は三撃目で心臓に平突きをいれ、とどめを刺す。
いつもゴブリンを相手にやってることだ。
そう、変わらない。
相手が人間になっただけ。
剣から伝わる、相手の肉を切り裂く感触も、骨を砕く感触も、胸を貫いた感触も、なにも変わらない。
心臓とともに肺も貫いたからか、そいつは口から血をこぼす。
そのせいか、断末魔は小さなうめき声のみ。
俺の剣を掴み、俺を見てくる。
そして脱力し目がぐるんと上を向く。
俺はそいつを剣で押し倒しつつ剣を引き抜く。
ここまで、本当に普段ゴブリンにやっていることと変わらない。
常設依頼でやっていることと何ら変わらない。
はずだ。
はずなのに。
――人を殺した――
その事実がのしかかってくる。
指先が、手が、いや、腕が震える。
視界がまわる。
音が遠くなる。
喉が渇く。
呼吸の仕方を忘れそうになる。
いや、まだだ。
まだ終わっていない。
呆けていられる状況ではない。
そんなのはあとでいい。
俺は無理やり身体を、意識を稼働させる。
手足に力を入れ、動きを確認する。
平衡感覚を取り戻す。
周囲を警戒したあと俺は馬車上に戻った。
「シン・・・!」
エライザが心配するように俺を伺ってくる。
「大丈夫だ、問題ない」
気分的には問題ありありなんだが強がってそう答える。
言うとエライザがぶんっと反対側を向いた。
なんか震えてる?というかむせてる?
マジでどうしたんだ。
なんか深呼吸をして俺の方に向き直ると、笑いをこらえつつ言い放った。
「大丈夫だ、問題ない(きりっ)」
何をやってるんだ。このお嬢さんは。
まだ戦闘は続いてるはずだ。
大勢は決したかもしれないが、ネツァリたちの剣戟も聞こえている。
コンディション・レッド発令中だ。
だからまだそうやってふざけていい場面ではない。
ないんだが。
言葉が出なかった。
なんだこの感情は。
まだそういう状況じゃないと理解している一方で、気持ちが楽になっているのも確かに感じていた。
恥ずかしいというのはある。
確かに「大丈夫だ、問題ない(きりっ)」とはしちゃってたし。
だが違う。
呆れてるというのもある。
まだ戦況が続いている中で、ふざけてるんだから。
だがそれも違う。
今の俺の下がりきっている気分に加えて張り詰めている緊張を溶かすような、このタイミングでそれかというような、そんな誂いが。
本当にどう言い表せばいいのか。
落ち込んだ場所から引き上げてもらえたような、現実に引き戻してくれたような。
ふざけただけかもしれないエライザの振る舞いは、確かに俺の気持ちをとても楽にしてくれたのだ。
いや、ふざけただけってことはないか。
上ってきた俺の表情を一目見て察したのだろう。
それぐらいヒドい顔をしていたはずだ。
そんな俺を見て、ふざけてくれたんだろう。
こんなほわほわした感じの魔法オタクな女の子のくせに。
一発で俺の心境を見抜いて。
そして即座に俺の気持ちをほぐしてくれるなんて。
ずるいな。
やはりいつだって女性が一枚上手なのだ。
「めちゃくちゃカッコイイ詠唱考えてやるからな」
悔し紛れに、悔しそうに何とかそう返すと、エライザは目をキラキラさせながら、
「約束。絶対考えて」
なんて興奮しながら言ってきた。
「・・・」
やっぱ、ふざけただけかもしれん。
――――
作者のモチベーションになりますのでいいね、お気に入り登録、感想など、よろしくお願いします。
いいねだけ、いいねだけでいいからっ。
エライザが声を上げた。
いつの間に近づいたのか、敵の一人が俺たちの乗っている馬車によじ登り、エライザの足を掴んでいる。
俺はそいつの腕を踏みつけ、顔面を蹴り飛ばす。
よし、役に立っている!
ちがう。
油断してたか。接近に気づけなかった。
幸い向こうも何もしていなかった俺の存在を認識していなかったのか、俺を見た時に驚いた顔をしていた。
だが、そいつは俺に顔面を蹴られながらも俺の足を掴んできた。
そのせいで俺はバランスを崩し、そのまま馬車の上から落とされてしまった。
落ちた衝撃は結構強かったが、一緒に落ちた敵の近くで転がっている方がまずい。
衝撃に耐えながら俺は立ち上がり、敵から距離を取ると剣を抜いた。
「シン!」
エライザが俺を呼ぶ。
「平気だ!反対を警戒してくれ!」
同じように接近してたやつがいないか警戒させる。
とりあえず俺が落ちたガワにはこいつしかいないようだ。
相手は起き上がったが、まだ落ちた衝撃でふらついているようだ。
この隙を狙わないでどこを狙うというのか。
俺は剣でそいつを一撃、二撃と切りつけた。
無防備に近いところへの斬撃だ。
既に戦闘不能だろう。
そして俺は三撃目で心臓に平突きをいれ、とどめを刺す。
いつもゴブリンを相手にやってることだ。
そう、変わらない。
相手が人間になっただけ。
剣から伝わる、相手の肉を切り裂く感触も、骨を砕く感触も、胸を貫いた感触も、なにも変わらない。
心臓とともに肺も貫いたからか、そいつは口から血をこぼす。
そのせいか、断末魔は小さなうめき声のみ。
俺の剣を掴み、俺を見てくる。
そして脱力し目がぐるんと上を向く。
俺はそいつを剣で押し倒しつつ剣を引き抜く。
ここまで、本当に普段ゴブリンにやっていることと変わらない。
常設依頼でやっていることと何ら変わらない。
はずだ。
はずなのに。
――人を殺した――
その事実がのしかかってくる。
指先が、手が、いや、腕が震える。
視界がまわる。
音が遠くなる。
喉が渇く。
呼吸の仕方を忘れそうになる。
いや、まだだ。
まだ終わっていない。
呆けていられる状況ではない。
そんなのはあとでいい。
俺は無理やり身体を、意識を稼働させる。
手足に力を入れ、動きを確認する。
平衡感覚を取り戻す。
周囲を警戒したあと俺は馬車上に戻った。
「シン・・・!」
エライザが心配するように俺を伺ってくる。
「大丈夫だ、問題ない」
気分的には問題ありありなんだが強がってそう答える。
言うとエライザがぶんっと反対側を向いた。
なんか震えてる?というかむせてる?
マジでどうしたんだ。
なんか深呼吸をして俺の方に向き直ると、笑いをこらえつつ言い放った。
「大丈夫だ、問題ない(きりっ)」
何をやってるんだ。このお嬢さんは。
まだ戦闘は続いてるはずだ。
大勢は決したかもしれないが、ネツァリたちの剣戟も聞こえている。
コンディション・レッド発令中だ。
だからまだそうやってふざけていい場面ではない。
ないんだが。
言葉が出なかった。
なんだこの感情は。
まだそういう状況じゃないと理解している一方で、気持ちが楽になっているのも確かに感じていた。
恥ずかしいというのはある。
確かに「大丈夫だ、問題ない(きりっ)」とはしちゃってたし。
だが違う。
呆れてるというのもある。
まだ戦況が続いている中で、ふざけてるんだから。
だがそれも違う。
今の俺の下がりきっている気分に加えて張り詰めている緊張を溶かすような、このタイミングでそれかというような、そんな誂いが。
本当にどう言い表せばいいのか。
落ち込んだ場所から引き上げてもらえたような、現実に引き戻してくれたような。
ふざけただけかもしれないエライザの振る舞いは、確かに俺の気持ちをとても楽にしてくれたのだ。
いや、ふざけただけってことはないか。
上ってきた俺の表情を一目見て察したのだろう。
それぐらいヒドい顔をしていたはずだ。
そんな俺を見て、ふざけてくれたんだろう。
こんなほわほわした感じの魔法オタクな女の子のくせに。
一発で俺の心境を見抜いて。
そして即座に俺の気持ちをほぐしてくれるなんて。
ずるいな。
やはりいつだって女性が一枚上手なのだ。
「めちゃくちゃカッコイイ詠唱考えてやるからな」
悔し紛れに、悔しそうに何とかそう返すと、エライザは目をキラキラさせながら、
「約束。絶対考えて」
なんて興奮しながら言ってきた。
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――――
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