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第5話 モンスターを追い払う為に遺書を書く 前編

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馬車に乗り込んでから、どのぐらい時間が経ったのだろう……
ミラは前を見つめながらも、その表情は悲しそうだった。
まあ、全部俺のせいなんだけど……

「暗くなってきたわね。ここら辺で野宿にしましょうか」

馬車を止め、外に出ると夕刻が過ぎあっという間に辺りが真っ暗になり始めていた。
ここで野宿か……キャンプなら何回かやった事はあるけど、それとは違うんだよな?

「火をつけるの手伝ってくれる?」
「え?ああ、うん。でも俺はライターとかマッチ持ってないけど」
「は?何言ってるの?」

しまった!つい前世の感覚で言ってしまった。ミラを見ると「なんだコイツ?」って言わんばかりの顔をして俺を見るし……。もういっその事、異世界から来ましたって言おうかな。

「火の魔法で付けられるでしょ?」
「魔法!?マジで魔法使うのか、この世界!」
「……もういいわ。貴方がなんかまともな人じゃない事は分かった。よく見てて」

するとミラは細長い木の枝の先端をつまんで、何か単語の様な言葉を言った瞬間――――
微かに彼女の手が黄色く光り、つまんでいた所から煙が立ち焦げ小さな炎が出現した。

「っ……すげ……すげぇけど、なんか思った以上に地味だな」
「何言ってるの。私は魔術師や魔女じゃないんだから、大それた魔法は使えないわよ」

俺の呟きを聞いたのか、軽く説明しながら手慣れた手つきで薪に火をつけた。
そして、小さな鍋に刻んだ山菜と乾し肉を加えて炒める。

「何作ってるんだ?」
「そうね、ミルシチでも作ろうかな」

炒めた具材に牛乳らしき白い液体を鍋に入れてかき混ぜる。シチューの様な料理だなと思っていると、あっという間に出来上がったようだ。

「はい、これ。後でちゃんと食事代も払ってよね」
「ええー!……分かったよ、俺の分まで有難う」

一口食べると独特な風味豊かな山菜と乾し肉が、牛乳とよく合っていて中々絶品だ。
勢いよくシチューもどきを食べていると、遠くから犬の遠吠えが聞こえた。

「っ……!今のは!?オオカミ……でもどっちかしら?」
「オオカミ!?今の遠吠えがそうなのか!初めて聞いた」

ミラは注意深く辺りを警戒する。

「どっちにしろ、まずいわ。一応獣避けのおまじないもしたんだけど……貴方、戦える!?」
「えっ!?」

どうしよう戦えるわけがない、街のチンピラにさえボコボコにされ殺されたんだから。
でも、これ以上ミラに迷惑かけるわけにはいかない――――!!

「た、戦える!任せてくれ!」

嘘を言ってしまった。でも俺は主人公だ!きっと凄い魔法を出して戦えるかもしれない!
ミラは馬車から片手剣を持ち出し、構えた。


つづく
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