黒鍵令嬢と陰陽師執事~救済と断罪~

柚木ゆず

文字の大きさ
3 / 4

第1話 プロローグ、その直前の出来事

しおりを挟む
 とある県の中央部内の、とある場所。そこに存在する広大な私有地の中に建つ、築100年超の洋館。全3階で構成された大きな建物の一室では、品の良い香りが漂っていました。

「お嬢様、どうぞ。カモミールでございます」

 洗練された所作で大理石のテーブルにカップやソーサーを置くのは、安倍司(あべのつかさ)。
 肩にかかる程度に伸ばされた、澄んだ冬の夜空のように美しい黒髪。知的さを窺える切れ長の瞳と、燕尾服を着こなしてしまう長背の肢体。
 街ですれ違った女性は誰もが振り返ってしまう容姿を持つ、『お嬢様』と呼ぶ存在の執事を務める22歳の美男子です。

「ありがとう、司。いただくわね」

 目の前に置かれたカップを優雅に持つのは、件のお嬢様ことこの館の主・宝城アリス18歳。
 腰まで流れる髪は、金糸の如く。その下にあるツリ目の瞳は、ブルーサファイアの如く。
 その姿はまるで、漆黒のドレスを着た西洋人形。
 美の女神によって創られている――。一度でもその姿を目にした者はそう確信せざるをえず、人々からは『生きる奇跡』と呼ばれていました。

「………………ん、今夜も美味しいわ。やはり、貴男が淹れるものが一番ね」
「痛み入ります。本日はサブレがございますが、いかがでしょう?」
「3枚、貰うわ。きっと今夜も、仕事があるでしょうしね」

 午前2時9分を示す掛け時計を見やり、司特製の焼き菓子を食べる。そんな動作もまた、絵になるもの。
 食事姿も芸術となってしまう彼女は微笑と共に3つを味わい、乾燥してきた口内をカモミールで再び潤します。そうして優雅に英気を養っていると、午前の2時30分を回り――。それを合図にして、アリスはソファーから立ち上がりました。

「お嬢様」
「ええ、今夜も『生まれた』わ。発生地点は、座標はXが12564でYが25326。11時の方角へと進んでいるわ」

 いつの間にか右手に携えていた黒色の鍵を額に当て、アリスは気配を『捜索(そうさく)』。僅か数秒でターゲットを正確に特定し、首を少しばかり11時の方向へと動かしました。

「この負霊の怨みが向けられている相手は、そちらにある家の住人ね。司、X14323、Y31651の座標に飛ぶわ」
「X14323、Y31651でございますね。畏まりました」

 素早く繰り返して確認をした彼は、懐から長方形の和紙――呪符(じゅふ)と呼ばれるものを取り出し、両目を閉じて「転」と呟きます。そうすれば札に記された文字が発光し、2人の足元に大きな魔法陣が展開。五芒星が描かれたその陣はやがてまばゆく輝き、

「あたし達が行くから、もう大丈夫よ。必ず貴女を救済するわ」

 光が消失すると、アリスと司の姿もまた消えていたのでした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...