私を捨てた元婚約者は、新しい恋人に飽きられてきたらしい

柚木ゆず

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第8話 あの日の『もし』が起きた日、その理由に気付く日 ロティナ視点(1)

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((…………違う。そうでは、なかったんだわ))

 デートの約束をした日から、4日後。その日の夜。行きつけの高級レストランテでディナーを摂っていたわたしは、グラスを置いたあと首を左右に振った。


『ロティナ様、おはようございます。今日はこのシモン・ハヌエが、貴方をエスコートさせていただきます』
『ええ、お願いするわ』((…………あら? あの日のように、ワクワクした気分にならないわね? 始まったばかり、だからかしら?))

 出発の時もそう。

『この景色、わたしは意外と好きなの。シモン、貴方はどう?』
『俺も、好きですよ。庶民とは住む世界が違いますが・・・・・・・・・・・・・・、彼らが作る雰囲気や物は気に入っております』
『そうよね。やっぱり、わたし達って気が合うわね』((まだ、ワクワクしないわね? 前回は、とっくになっていたのだけれど……?))

 市井を散策している時もそう。

『この日のために、劇団サンティエルを勉強してきました。俺自身もすでに熱心なファンになっておりまして、開演が楽しみで仕方がありません』
『でしょう? そうでしょう? 触れてみたら、一瞬にして魅了されてしまうのよね。彼らは、素晴らしい集団よ』((?? 全然ワクワクしない。……もしかして、ミュージカルを心待ちにしているせい?))

 観劇の時もそう。

『さすがは、ロティナ様行きつけの店。こんなにも美味なフルコースと出会ったことは、ついぞありません』
『産地と鮮度にこだわった食材を、えりすぐりのシェフが調理するんですもの。そうなるのは、必然というものよ』((……………………。今も、一切ワクワクしていないわね))

 ディナーの時もそう。


 最愛の人と最高の時間を過ごしているはずなのに、喜びも興奮も一切ない。
 楽しかったのは楽しいことをしているからであって、シモンと一緒だからではない。今日のこの人はプラスもマイナスもなくって、だから『無』。

 居ても居なくてもおんなじ。

 そんな存在になっている。

((……邸じゃなくて外で過ごしたのに、こうなっている――前回よりも、悪化してる。だからあの予想はハズレで…………。どうして、こうなっているの……?))

 あんなに愛していたのに、急にこんな風になった原因はなに? わたしはナイフとフォークを動かしながらそれを考え始めて、やがて――

 その理由に、気付いたのだった。

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