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第7話 思い出の場所で アリス視点(2)

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「アルチュール、様。小屋は、どこにあるのでしょうか……?」
「わ、分からない……。どうなっているんだ……!? なぜどこにもないんだ……!?」

 右隣へと顔を向けると、そこにあったのは周章狼狽。アルチュール様はわたし以上に驚かれていて、口と瞳が限界まで開かれていました。

「俺は長年ここで過ごしたっ、一昨日発つまでここに居たんだ! なのに、どうして……!? なにもないんだ……!?」
「「「「「…………」」」」」

 アルチュール様は全身を震わせ、護衛の方々も唖然となっています。そしてその状態で何度も何度も四方を見回し、アルチュール様は頭を抱えました。

「確かに、この場所なんだ。ここ、なんだ……! 護衛達お前達も知っているだろう!?」
「「「「「は、はい……」」」」」
「なのに、小屋がない……。それどころか、建物があった痕跡すらないなんて……。夢でも見ているのか!? 何が起きているんだ!?」
「ファズエルス様。ここは紛れもない現実ですし、なにも起きてはいませんよ」

 たまらず天を仰がれていると、オーレリアン様の口元が小さな笑みを作りました。

「貴方様がここで過ごしたことは、一度もない。そんな建物は、最初からなかった。だからない、それだけのお話ですよ」
「違う! 俺はこの森この場所で過ごしたっ! それは事実だ!!」
「でしたら、小屋があるはずですよね? けれどそんな建物は、どこにもなかった。したがってそちらは、出任せ。恐らくは僕が森に来て欲しいと頼んだことで、『コイツは家を見せる気なんだ!』『そうなったら終わりだ』――。などと考え、急遽ご自身も住居を披露することにしたのでしょう」
「そうではな――」
「そうではないのなら、小屋が存在していますよね?」

 これまでとは違って早口で喋り、初めてアルチュール様のお声を遮ったオーレリアン様。更にはアルチュール様をしっかりと見つめ、ハッキリと嘲笑を浮かべられました。

「嘘であっても、慌てて見せれば信用してもらえるはず。そんな浅はかなお考えをお持ちだったのでしょうが、無駄ですよ。そんなものが成立するのは、貴方様の頭の中だけ。この場に――いいえ。この世に、そんな愚かな言い分を信じる人はいませんよ」
「っっ! てっ、適当なことをほざくな!! 事実だと言っているだろうが!!」

 嘲笑うお顔と、台詞。そちらに我慢できくなったアルチュール様はオーレリアン様の胸ぐらを掴み、大音声が森の中に響き渡りました。

「そんなおめでたい思考の持ち主がいるものか!! いいか!? 俺は大急ぎで証拠を用意したんだ!! 臣下に命じてこの場に小屋を作らせたんだ!! 俺の手の者が現地で確認をしているんだぞ!! なのにないからこうなって――なんだ!? なにがおかしい!?」
「……語るに落ちるとは、まさにこのことですね。…………アリス、リーエンデルス様。答えが出ましたね」

 はい。出ました。
 偽者の王子様。それは、アルチュール様です。
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