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プロローグ
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私は3か月前に、4歳年上のエリック・ミオファさんと婚約をしました。
エリックさんは侯爵家、私は男爵家の子供で殆ど接点がなかったのですが、とある夜会で出会い、エリックさんは一目惚れをしてくださったのです。
『俺の本能が貴方を求めていて…………こんな気持ちは初めてです。よろしければ、一曲踊ってはいただけませんか?』
白馬の王子様のようなエリックさんは、爽やかに手を差し伸べてきてくれて。そうして私達は親しくなっていって、良いところを沢山知っていって、気が付くと私も、恋に落ちていました。心の中が、エリックさんで一杯になっていました。
『リナ・サーハルさん、俺と婚約してください。そして、五か月後――貴方が結婚できる十八歳になったら、俺と結婚してください』
『はいっ、よろこんで……っ。大好きな人にそう言ってもらえて、幸せです……っ』
片膝をついてリングを差し出された私は泣きながら笑って、あの時の喜びは今でも忘れられません。すでに薔薇色だった日々がもっともっと光り輝いて、本当に、本当に幸せな毎日を過ごしていました。
ですが。
そんな夢のような時間は、突如醒めることになります。
切っ掛けは、4日前の夜。エリックさんのお家に招待されて、ご両親と共に夕食を食べていた時でした。
『一緒に食事が出来て嬉しいよ。予定さえ合えば、毎日リウとご飯を食べるんだけどね』
『??? エリックさん? 私はリナですよ?』
『え? あっ、ああそうだね! ごめんごめん! つい言い間違えてしまったよ!』
『はははははっ。はははははははっ。エリックはおっちょこちょいだな!』
『婚約者の名前を間違えるだなんて困った子だわっ。リナさんウチの子がごめんなさいねっっ!』
私は違う名前で呼ばれて、その後の反応が全員不自然だったのです。その時はお酒を飲まれていましたし、うっかりなんて誰にでもあるのに。変に慌てていて、とても違和感がありました。
そこで帰宅後ユーゴお父様に相談し、本来好ましくないことと理解していますが、お父様のツテを使ってエリックさんの周辺を調査してもらったんです。そうしたら彼の家に、伯爵家の令嬢であるリウ・マーズさんが秘密裏に出入りしていると――交際していると判明しました。
「どうやら彼らは、リナに接触する前から懇意にしていたようだ。エリックという男は、元々リウ・マーズに恋をしていたらしいな」
「そんな……っ。なのにどうして、私と婚約を……?」
「アイツの――アイツらミオファ家は、我がサーハル家が持つ土地を狙っているのだよ。ウチが所有する西側の土地は、上質の葡萄が採れるからな」
サーハル家は、ワインの製造で財を成した――爵位の授与に至った家系で、今でも毎年国王様にワインを献上しています。どうやら、ミオファ家は――次期当主であるエリックさんは酒類の製造販売にも手を伸ばそうとしているらしく、そんな強力な『土台』を欲していたそうです。
「…………。我が家(いえ)はわたしの我儘で、長男および次女が誕生する事はない」
お父様は、薬指に2つ嵌めたリングを――自分のものと、ミサお母様の遺品を一瞥しました。
「そのためいずれはリナが土地も製造所も継承する事になり、上手く立ち回れば夫となる者が権利を得る事ができる。そこでヤツらは以前から目を付けていて、あの場で唾を付けておいたのだろう」
「……結婚後に、何らかの形で私を――私とお父様を殺害し、自分の手元に転がり込むようにして土地達を引き継ぐ。そうして全てを手に入れた後、リウさんと結婚するのですね?」
「ああ。そういう寸法なのだろう」
何食わぬ顔で交際や結婚を申し込み、平然と裏切っていた人――人達です。誰かの命を奪うという恐ろしい事も、目的を果たす為なら平気でやれますよね。
「だが幸いにも、わたしには頼もしい味方がいる。すでにその方に頼み、正しく裁いてくれる事になっているから安心してくれ」
「そう、なんですか……っ。よかったです…っっ」
「とはいえこの件の性質上、明確な証拠などが要るため十日程度要するようだ。そのため何度かは、ヤツと顔を合わせなくてはならないのだよ」
デートの予定や公爵主催のパーティーなど、その期間には3回会う約束をしています。
もし仮病を使ったとしても様子を見に来ますから、接触は回避できませんよね。
尤も、そんなものを使うつもりはありませんが。
「…………リナよ。やはりお前は、動くのだな?」
「あの人はお父様と、お母様が愛した葡萄畑に危害を加えようとしていました。ですので三度の機会を利用して、その分のお礼をさせてもらいます」
まずは、両頬を思いっきり叩いて――原因の一因である自分にお仕置きをして、首を縦に振りました。
私に対する裏切りは自業自得なので構わないのですが、そちらへの悪意は絶対に許せません。
あの頃とは違って、周りに迷惑がかからないやり方で――。ストレスなどなど、精神への攻撃を行います。
「ふふ。お前は昔から、根っこは変わらんな。……エリック達にあのような魂胆がある以上、何があっても絶対に婚約破棄はしない。その面も最大限活かして、思う存分やってやれと――ごほん。ああいや、なんでもない」
「??? お父様?」
「今のは、忘れてくれ。些末事だ」
お父様が『些末事』で誤魔化す時は、大きな隠し事がある時です。けれど私に悪影響を及ぼす隠し事は決してしない方なので、従っておくようにしました。
「とにかくだ。リナの意思を尊重する。娘に全てを任せるのは情けないが、わたしの怒りも一緒にぶつけてくれ」
「はい、分かりました。こういう状況は初めてですが、色々と勉強をして作戦を立てたいと思います。……エリックさん、覚悟してくださいね」
改めて自分の両頬を叩いた後お父様と指輪に頭を下げ、自室に入って机に向かいます。
まずは、明日。ウチでお喋りをする時に、仕掛けさせてもらいます!
エリックさんは侯爵家、私は男爵家の子供で殆ど接点がなかったのですが、とある夜会で出会い、エリックさんは一目惚れをしてくださったのです。
『俺の本能が貴方を求めていて…………こんな気持ちは初めてです。よろしければ、一曲踊ってはいただけませんか?』
白馬の王子様のようなエリックさんは、爽やかに手を差し伸べてきてくれて。そうして私達は親しくなっていって、良いところを沢山知っていって、気が付くと私も、恋に落ちていました。心の中が、エリックさんで一杯になっていました。
『リナ・サーハルさん、俺と婚約してください。そして、五か月後――貴方が結婚できる十八歳になったら、俺と結婚してください』
『はいっ、よろこんで……っ。大好きな人にそう言ってもらえて、幸せです……っ』
片膝をついてリングを差し出された私は泣きながら笑って、あの時の喜びは今でも忘れられません。すでに薔薇色だった日々がもっともっと光り輝いて、本当に、本当に幸せな毎日を過ごしていました。
ですが。
そんな夢のような時間は、突如醒めることになります。
切っ掛けは、4日前の夜。エリックさんのお家に招待されて、ご両親と共に夕食を食べていた時でした。
『一緒に食事が出来て嬉しいよ。予定さえ合えば、毎日リウとご飯を食べるんだけどね』
『??? エリックさん? 私はリナですよ?』
『え? あっ、ああそうだね! ごめんごめん! つい言い間違えてしまったよ!』
『はははははっ。はははははははっ。エリックはおっちょこちょいだな!』
『婚約者の名前を間違えるだなんて困った子だわっ。リナさんウチの子がごめんなさいねっっ!』
私は違う名前で呼ばれて、その後の反応が全員不自然だったのです。その時はお酒を飲まれていましたし、うっかりなんて誰にでもあるのに。変に慌てていて、とても違和感がありました。
そこで帰宅後ユーゴお父様に相談し、本来好ましくないことと理解していますが、お父様のツテを使ってエリックさんの周辺を調査してもらったんです。そうしたら彼の家に、伯爵家の令嬢であるリウ・マーズさんが秘密裏に出入りしていると――交際していると判明しました。
「どうやら彼らは、リナに接触する前から懇意にしていたようだ。エリックという男は、元々リウ・マーズに恋をしていたらしいな」
「そんな……っ。なのにどうして、私と婚約を……?」
「アイツの――アイツらミオファ家は、我がサーハル家が持つ土地を狙っているのだよ。ウチが所有する西側の土地は、上質の葡萄が採れるからな」
サーハル家は、ワインの製造で財を成した――爵位の授与に至った家系で、今でも毎年国王様にワインを献上しています。どうやら、ミオファ家は――次期当主であるエリックさんは酒類の製造販売にも手を伸ばそうとしているらしく、そんな強力な『土台』を欲していたそうです。
「…………。我が家(いえ)はわたしの我儘で、長男および次女が誕生する事はない」
お父様は、薬指に2つ嵌めたリングを――自分のものと、ミサお母様の遺品を一瞥しました。
「そのためいずれはリナが土地も製造所も継承する事になり、上手く立ち回れば夫となる者が権利を得る事ができる。そこでヤツらは以前から目を付けていて、あの場で唾を付けておいたのだろう」
「……結婚後に、何らかの形で私を――私とお父様を殺害し、自分の手元に転がり込むようにして土地達を引き継ぐ。そうして全てを手に入れた後、リウさんと結婚するのですね?」
「ああ。そういう寸法なのだろう」
何食わぬ顔で交際や結婚を申し込み、平然と裏切っていた人――人達です。誰かの命を奪うという恐ろしい事も、目的を果たす為なら平気でやれますよね。
「だが幸いにも、わたしには頼もしい味方がいる。すでにその方に頼み、正しく裁いてくれる事になっているから安心してくれ」
「そう、なんですか……っ。よかったです…っっ」
「とはいえこの件の性質上、明確な証拠などが要るため十日程度要するようだ。そのため何度かは、ヤツと顔を合わせなくてはならないのだよ」
デートの予定や公爵主催のパーティーなど、その期間には3回会う約束をしています。
もし仮病を使ったとしても様子を見に来ますから、接触は回避できませんよね。
尤も、そんなものを使うつもりはありませんが。
「…………リナよ。やはりお前は、動くのだな?」
「あの人はお父様と、お母様が愛した葡萄畑に危害を加えようとしていました。ですので三度の機会を利用して、その分のお礼をさせてもらいます」
まずは、両頬を思いっきり叩いて――原因の一因である自分にお仕置きをして、首を縦に振りました。
私に対する裏切りは自業自得なので構わないのですが、そちらへの悪意は絶対に許せません。
あの頃とは違って、周りに迷惑がかからないやり方で――。ストレスなどなど、精神への攻撃を行います。
「ふふ。お前は昔から、根っこは変わらんな。……エリック達にあのような魂胆がある以上、何があっても絶対に婚約破棄はしない。その面も最大限活かして、思う存分やってやれと――ごほん。ああいや、なんでもない」
「??? お父様?」
「今のは、忘れてくれ。些末事だ」
お父様が『些末事』で誤魔化す時は、大きな隠し事がある時です。けれど私に悪影響を及ぼす隠し事は決してしない方なので、従っておくようにしました。
「とにかくだ。リナの意思を尊重する。娘に全てを任せるのは情けないが、わたしの怒りも一緒にぶつけてくれ」
「はい、分かりました。こういう状況は初めてですが、色々と勉強をして作戦を立てたいと思います。……エリックさん、覚悟してくださいね」
改めて自分の両頬を叩いた後お父様と指輪に頭を下げ、自室に入って机に向かいます。
まずは、明日。ウチでお喋りをする時に、仕掛けさせてもらいます!
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