3 / 41
第1話 いつもとは違う!? エリック視点 (2)
しおりを挟む
「え……? 今、なんて……?」
「今日は、もう少し一緒にいたいです。駄目、ですか……?」
聞き返してみると、聞き覚えのある言葉が返ってきた。
や、やっぱり聞き間違いじゃない。あのリナが、俺を引き留めようとしている。
「き、君らしくないね……。今日は、どうしたんだい……?」
「実はゆうべ、エリックさんがどこか遠くに行ってしまう夢を見ていて……。もう少しだけ、お傍に居て欲しいんですよ」
リナが俯きがちに寄ってきて、俺の服をチョコンと摘まんだ。
チッ、様子がおかしいのはそのせいか……っ。よりにもよってこんなタイミングで、なんて夢を見るんだよ……!
「我が儘を言ってごめんなさい。もう少しだけ、居てくれませんか……?」
「ご、ごめんね、リナ。このあとの予定は、どうしても外せなくて――」
「でしたらお家までご一緒して、ご予定が済むまで待っています。そのあとでしたら、一緒にいても構いませんよね?」
ぐ……。今日のコイツは、ここまで食い下がるのか……っ。
確かにそれなら問題はないが、今夜はリウが一泊する――俺が屋敷に着く頃には、もう内にいる。リウはこの作戦もコイツの存在を知っているものの、リナは全く知らないからな……。家に着いてこられたら、大変だ。
「すごく不安で、ずっとずっと落ち着かなかったんです……。今回だけは、我が儘を聞いてください」
「…………ぁー……。ちょっ、ちょっと待ってね。考え事をさせてねっ?」
彼女の両肩を掴んで距離を取り、心の中で思案を始める。
同行させるのは、NG。絶対にやってはいけないことだ。
((そして、NGはもう一つ。秘密裏に連絡を入れてリウに帰ってもらうのも、絶対にやってはいけないことだ))
リウはウチでの宿泊を心待ちにしてくれていて、その笑顔を曇らせたくない。それに、俺自身も、幸せな一時を失いたくない。
よってキャンセルは、何が何でも回避しなければならない。
((そうすると、全てに対してNOをするという選択が最適になるが……。それはそれで危険だ))
この状況で何もかもを拒否するのは、婚約者としては有り得ない行為。これが切っ掛けで愛がないと感じるようになり、婚約解消に発展する――火種となり得る可能性がある。
((……となると、だ。この状況で一番いい方法は………………予定はずらせるからと嘯き、『少し滞在を延長して満足させる』、だな))
リウを待たせてしまうことになるが、致し方ない。馬車を飛ばせば移動時間は短縮できるし、この作戦でいこう。
((どのくらいで満足するか分からないが、コイツの性格を鑑みると1時間くらいで手を打つだろう。不幸中の幸い、被害は最小限で済みそうだ))
思案を終えると同じく心中で小さく息を吐き、偽りの笑顔を張り付けて要望を快諾。渋々、所謂残業がスタートしたのだった。
「今日は、もう少し一緒にいたいです。駄目、ですか……?」
聞き返してみると、聞き覚えのある言葉が返ってきた。
や、やっぱり聞き間違いじゃない。あのリナが、俺を引き留めようとしている。
「き、君らしくないね……。今日は、どうしたんだい……?」
「実はゆうべ、エリックさんがどこか遠くに行ってしまう夢を見ていて……。もう少しだけ、お傍に居て欲しいんですよ」
リナが俯きがちに寄ってきて、俺の服をチョコンと摘まんだ。
チッ、様子がおかしいのはそのせいか……っ。よりにもよってこんなタイミングで、なんて夢を見るんだよ……!
「我が儘を言ってごめんなさい。もう少しだけ、居てくれませんか……?」
「ご、ごめんね、リナ。このあとの予定は、どうしても外せなくて――」
「でしたらお家までご一緒して、ご予定が済むまで待っています。そのあとでしたら、一緒にいても構いませんよね?」
ぐ……。今日のコイツは、ここまで食い下がるのか……っ。
確かにそれなら問題はないが、今夜はリウが一泊する――俺が屋敷に着く頃には、もう内にいる。リウはこの作戦もコイツの存在を知っているものの、リナは全く知らないからな……。家に着いてこられたら、大変だ。
「すごく不安で、ずっとずっと落ち着かなかったんです……。今回だけは、我が儘を聞いてください」
「…………ぁー……。ちょっ、ちょっと待ってね。考え事をさせてねっ?」
彼女の両肩を掴んで距離を取り、心の中で思案を始める。
同行させるのは、NG。絶対にやってはいけないことだ。
((そして、NGはもう一つ。秘密裏に連絡を入れてリウに帰ってもらうのも、絶対にやってはいけないことだ))
リウはウチでの宿泊を心待ちにしてくれていて、その笑顔を曇らせたくない。それに、俺自身も、幸せな一時を失いたくない。
よってキャンセルは、何が何でも回避しなければならない。
((そうすると、全てに対してNOをするという選択が最適になるが……。それはそれで危険だ))
この状況で何もかもを拒否するのは、婚約者としては有り得ない行為。これが切っ掛けで愛がないと感じるようになり、婚約解消に発展する――火種となり得る可能性がある。
((……となると、だ。この状況で一番いい方法は………………予定はずらせるからと嘯き、『少し滞在を延長して満足させる』、だな))
リウを待たせてしまうことになるが、致し方ない。馬車を飛ばせば移動時間は短縮できるし、この作戦でいこう。
((どのくらいで満足するか分からないが、コイツの性格を鑑みると1時間くらいで手を打つだろう。不幸中の幸い、被害は最小限で済みそうだ))
思案を終えると同じく心中で小さく息を吐き、偽りの笑顔を張り付けて要望を快諾。渋々、所謂残業がスタートしたのだった。
17
あなたにおすすめの小説
敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜
六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。
極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた!
コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。
和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」
これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』
鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがないから、婚約破棄する」――
王太子アルヴィスから突然告げられた、理不尽な言葉。
令嬢リオネッタは涙を流す……フリをして、内心ではこう叫んでいた。
(やった……! これで自由だわーーーッ!!)
実家では役立たずと罵られ、社交界では張り付いた笑顔を求められる毎日。
だけど婚約破棄された今、もう誰にも縛られない!
そんな彼女に手を差し伸べたのは、隣国の若き伯爵家――
「干渉なし・自由尊重・離縁もOK」の白い結婚を提案してくれた、令息クリスだった。
温かな屋敷、美味しいご飯、優しい人々。
自由な生活を満喫していたリオネッタだったが、
王都では元婚約者の評判がガタ落ち、ざまぁの嵐が吹き荒れる!?
さらに、“形式だけ”だったはずの婚約が、
次第に甘く優しいものへと変わっていって――?
「私はもう、王家とは関わりません」
凛と立つ令嬢が手に入れたのは、自由と愛と、真の幸福。
婚約破棄が人生の転機!? ざまぁ×溺愛×白い結婚から始まる、爽快ラブファンタジー!
---
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる