私を利用するための婚約だと気付いたので、別れるまでチクチク攻撃することにしました

柚木ゆず

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第1話 いつもとは違う!? エリック視点 (2)

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「え……? 今、なんて……?」
「今日は、もう少し一緒にいたいです。駄目、ですか……?」

 聞き返してみると、聞き覚えのある言葉が返ってきた。
 や、やっぱり聞き間違いじゃない。あのリナが、俺を引き留めようとしている。

「き、君らしくないね……。今日は、どうしたんだい……?」
「実はゆうべ、エリックさんがどこか遠くに行ってしまう夢を見ていて……。もう少しだけ、お傍に居て欲しいんですよ」

 リナが俯きがちに寄ってきて、俺の服をチョコンと摘まんだ。
 チッ、様子がおかしいのはそのせいか……っ。よりにもよってこんなタイミングで、なんて夢を見るんだよ……!

「我が儘を言ってごめんなさい。もう少しだけ、居てくれませんか……?」
「ご、ごめんね、リナ。このあとの予定は、どうしても外せなくて――」
「でしたらお家までご一緒して、ご予定が済むまで待っています。そのあとでしたら、一緒にいても構いませんよね?」

 ぐ……。今日のコイツは、ここまで食い下がるのか……っ。
 確かにそれなら問題はないが、今夜はリウが一泊する――俺が屋敷に着く頃には、もう内にいる。リウはこの作戦もコイツの存在を知っているものの、リナは全く知らないからな……。家に着いてこられたら、大変だ。

「すごく不安で、ずっとずっと落ち着かなかったんです……。今回だけは、我が儘を聞いてください」
「…………ぁー……。ちょっ、ちょっと待ってね。考え事をさせてねっ?」

 彼女の両肩を掴んで距離を取り、心の中で思案を始める。
 同行させるのは、NG。絶対にやってはいけないことだ。

((そして、NGはもう一つ。秘密裏に連絡を入れてリウに帰ってもらうのも、絶対にやってはいけないことだ))

 リウはウチでの宿泊を心待ちにしてくれていて、その笑顔を曇らせたくない。それに、俺自身も、幸せな一時を失いたくない。
 よってキャンセルは、何が何でも回避しなければならない。

((そうすると、全てに対してNOをするという選択が最適になるが……。それはそれで危険だ))

 この状況で何もかもを拒否するのは、婚約者としては有り得ない行為。これが切っ掛けで愛がないと感じるようになり、婚約解消に発展する――火種となり得る可能性がある。

((……となると、だ。この状況で一番いい方法は………………予定はずらせるからと嘯き、『少し滞在を延長して満足させる』、だな))

 リウを待たせてしまうことになるが、致し方ない。馬車を飛ばせば移動時間は短縮できるし、この作戦でいこう。

((どのくらいで満足するか分からないが、コイツの性格を鑑みると1時間くらいで手を打つだろう。不幸中の幸い、被害は最小限で済みそうだ))

 思案を終えると同じく心中で小さく息を吐き、偽りの笑顔を張り付けて要望を快諾。渋々、所謂残業がスタートしたのだった。

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