私を利用するための婚約だと気付いたので、別れるまでチクチク攻撃することにしました

柚木ゆず

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エピローグ

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 私が目標にしている人は、本当にすごい人でした。
 帝王学や政治学、体術などなど。どの分野においても完璧で、苦手、弱点なんて一つもない。知れば知るほどその背中が遠ざかっていって、十二年の空白を全て知った頃には全く見えなくなっていました。

 努力の天才。
 努力が才能を凌駕できると、証明してみせた人。

 正直に白状すると、無理だと感じた時がありました。
 その人と私は、極める分野は違うのですが。それでも、追いつくことはできない――。そう、思ってしまう時が何度もありました。

 でも。

『リナちゃん。僕は改めて、君を待ち続けると約束するよ』

 そのたびにこの声と小指の感触が蘇ってきて、力をくれました。

 私のために長い間努力をし続けてくれた人がいて、そんな人が私をずっと待っていてくれる。
 その事実は毎回ものすごい量の元気をくれて、『落ち込み』を踏み台へと変えることができました。

 あの人との約束に背中を押してもらって、前に進んでいって。
 そうしているうちに、あの人への想いが強くなっていって。
 力をもらうたびに、好きという感情が大きくなっていて。
 この気持ちを伝える日が、待ち遠しくなって。
 少しでも早くお伝えできるように、もっともっと頑張るようになって。
 ついに私は――

「リナ、合格だ。今のお前になら安心して、葡萄畑と製造所を任せられる」

 自分が目標としてた場所に、たどり着けました。
 取り引き相手を正しく見極められる、『目』。経営や製造に必要な『知識と技術』。先生であり師匠であるお父様から、客観視での太鼓判をもらえたのです。

「……あの日から、二年か。おめでとう、よく頑張ったな」

 私のために、あの時から厳しく指導をしてくれたお父様。葡萄畑にいる時は一切笑わなくなっていたお父様が、満面の笑みを浮かべてくださいました。

「ようやく、あの時の続きをできるな。再開の場所はあの部屋あそこがいいと重々承知だが、すまない。わたし達の我が儘を受け入れて欲しい」
「えっ? わたし達とは――ええっ!? どうして、レオ様がいらしているのですかっ!?」

 馬車が停まり、約束の人が降りてきました。
 あの頃から更に背が伸びて、更にカッコよくなった人。今や社交界でも大人気になっている、レオ・グエールズ様が近づいてきています。

「ここはミサが愛し、ミサの思いが最も詰まった場所。娘の大事な瞬間を見せてやりたくて、こちらにお呼び立てしたのだよ」
「…………そう、だったのですね。素敵な場所を用意してくださり、ありがとうございます」

 私も、嬉しいです。
 お母様。私はようやく一人前になって、これからもう一歩を踏み出します。見守っていて、くださいね。

「リナちゃん、無事合格したみたいだね。おめでとう」
「ありがとうございます。二年もお待たせしてしまいましたが、やっと改めてお願いできるようになりました」

 小走りで彼の前に行って、深呼吸。乱れた呼吸と姿勢を整え、その瞳を見つめます。

「レオ・グエールズ様、私は貴方が大好きです。結婚を前提にして――ううん。私と、結婚をしてくださいっ」

 約束とはちょっとだけ違いますが、このくらいは構いませんよね?
 ずっと、伝えたかった言葉。口にしたかった気持ちを載せた声が葡萄畑に響き、そうして、止まっていた『二人の時間』は再び動き出したのでした。

「喜んで。……約束を守ってくれてありがとう、リナちゃん」

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