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プロローグ マエリス視点
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「先に謝っておきたい。俺は今後どんなに君の素敵な一面を知ったとしても、君を好きになることはないんだ」
今から5年前。わたしがマリエス・ハーライトではなくマリエス・フォルトエナだった頃のこと。政略結婚を交わすために、初めてジョルロア様とお会いした際のことでした。
彼は心底申し訳なさそうに、謝罪の言葉を口にしたのでした。
「え……? それは、どういう……?」
「……実はね……。俺は、人を好きになれないんだ」
当時から遡ること2年半――15歳の時に起きてしまった、ジョルロア様のおじい様の逝去。そちらが切っ掛けで、『好き』という感情を失ってしまったそうです。
ジョルロア様は物心ついた時から所謂おじい様っ子で、おじい様が大好き――世界で一番大好きな存在だった。ですのでその日は涙が涸れるまで泣き続け、その後も数日間ショックで寝込んでしまう。心身共に、ボロボロになってしまったそうです。
――もしまた同じようなことがあったら、今度こそ心も身体も壊れてしまう――。
そんな悲劇を防ぐために、ジョルロア様の精神が心にロックをかけた。
好きな人がいなければ、深く傷つくことはない。
それによって『LOVE』はもちろんのこと、『LILE』の好きさえも抱くことはなくなってしまった。友人知人のみならずご家族にさえも、そういった感情を持てなくなってしまったのでした。
「医者が言うには元通りになる可能性は非常に低くてね、俺自身も二度と取り戻せないと感じているんだ」
「……そう、なのですね……」
「だから婚約者になっても夫婦になっても、君を好きになれないし愛せない。いずれ子どもを設けても、その子を愛することもできない。……こんな男とは縁を結ぶべきではないのだけれど、俺達の関係は俺達の意思では決められない」
わたしはフォルトエナ子爵家の、ジョルロア様はハーライト子爵家の、駒。決定権は両家当主にあって拒否権などは存在しないと、かつて思い知らされました。
「申し訳ない。許して欲しい」
「そんなっ、頭をお上げください! ……そんな風に仰っていただけるだけで、わたしは幸せです」
わたし達の家は同格ではありますが、立場はハーライト家の方が上。こちらは呑ませてもらっている立場なので、あちらの当主様のように強気に出てきてもおかしくないのです。
にもかかわらず、このようにしていただけた。
充分すぎますし、こんな方とならそれでも上手くやっていける気がしました。ですのでわたしは再度の謝罪に微笑みを返し、よろしくお願いしますの握手を交わして――
その後の日々は、想像通りでした。
婚約中も結婚した時も夫婦になったあとも、2年半前にライズが産まれてからも、精一杯接してくれて。おかげでわたし達は、とても幸せな毎日を過ごせていたのでした。
あの日、までは。
今から5年前。わたしがマリエス・ハーライトではなくマリエス・フォルトエナだった頃のこと。政略結婚を交わすために、初めてジョルロア様とお会いした際のことでした。
彼は心底申し訳なさそうに、謝罪の言葉を口にしたのでした。
「え……? それは、どういう……?」
「……実はね……。俺は、人を好きになれないんだ」
当時から遡ること2年半――15歳の時に起きてしまった、ジョルロア様のおじい様の逝去。そちらが切っ掛けで、『好き』という感情を失ってしまったそうです。
ジョルロア様は物心ついた時から所謂おじい様っ子で、おじい様が大好き――世界で一番大好きな存在だった。ですのでその日は涙が涸れるまで泣き続け、その後も数日間ショックで寝込んでしまう。心身共に、ボロボロになってしまったそうです。
――もしまた同じようなことがあったら、今度こそ心も身体も壊れてしまう――。
そんな悲劇を防ぐために、ジョルロア様の精神が心にロックをかけた。
好きな人がいなければ、深く傷つくことはない。
それによって『LOVE』はもちろんのこと、『LILE』の好きさえも抱くことはなくなってしまった。友人知人のみならずご家族にさえも、そういった感情を持てなくなってしまったのでした。
「医者が言うには元通りになる可能性は非常に低くてね、俺自身も二度と取り戻せないと感じているんだ」
「……そう、なのですね……」
「だから婚約者になっても夫婦になっても、君を好きになれないし愛せない。いずれ子どもを設けても、その子を愛することもできない。……こんな男とは縁を結ぶべきではないのだけれど、俺達の関係は俺達の意思では決められない」
わたしはフォルトエナ子爵家の、ジョルロア様はハーライト子爵家の、駒。決定権は両家当主にあって拒否権などは存在しないと、かつて思い知らされました。
「申し訳ない。許して欲しい」
「そんなっ、頭をお上げください! ……そんな風に仰っていただけるだけで、わたしは幸せです」
わたし達の家は同格ではありますが、立場はハーライト家の方が上。こちらは呑ませてもらっている立場なので、あちらの当主様のように強気に出てきてもおかしくないのです。
にもかかわらず、このようにしていただけた。
充分すぎますし、こんな方とならそれでも上手くやっていける気がしました。ですのでわたしは再度の謝罪に微笑みを返し、よろしくお願いしますの握手を交わして――
その後の日々は、想像通りでした。
婚約中も結婚した時も夫婦になったあとも、2年半前にライズが産まれてからも、精一杯接してくれて。おかげでわたし達は、とても幸せな毎日を過ごせていたのでした。
あの日、までは。
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