英雄になった婚約者に捨てられた私でしたが、その後魔王にプロポーズされました

柚木ゆず

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プロローグ アリアル・ミーナレット視点

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「「「「「あっ! 英雄様がいらっしゃったぞ!!」」」」」
「「「「「英雄様万歳! 英雄様万歳!」」」」」」

 ああ、なんてことなの。
 私はただ、一番好きだった場所を最期に目に焼き付けたかっただけなのに。
 王都にある広場を訪れると、そこでは大嫌いな人がパレードをしていた。

「みんな、歓迎ありがとう。嬉しいよ」

 大衆が注目している、赤色のマントを纏った美男。爽やかな微笑みを浮かべている彼は、エッジ・イブエイル。およそ2年前に突如として復活した魔王を倒し、英雄となった人物――であり……。私の幼馴染であり、10日前まで婚約者だった人だ。

「わぁ! ミーア王女殿下もいらっしゃるぞ!!」
「「「「「英雄様、ご結婚おめでとうございます!!」」」」」

 今から3週間前。私達は1年間の旅を経て遥か北にある魔王城に辿り着き、魔王ロイドを倒した。
 帰還後魔王ロイドを討ち取ったエッジは英雄と呼ばれるようになり、それが切っ掛けとなって彼は変わってしまった。

『僕は魔王を倒した救世主なんだよ? 平凡で低レベルな血が流れる人間なんて相応しくない』

 世界の脅威が去ったから、なんだと思う。魔王を倒すと白い光に包まれて出発地点である王城に自動的に戻り、その直後にわたし達は勇者と聖女の力を失った――普通の人間に、戻ったのだった。
 ……自分だって平凡になっているし、同じ子爵家の血が流れているのに……。エッジはやがて私との婚約を破棄し、求愛してきたミーア王女殿下と新たな婚約を結んだのだ。
 王女殿下は『英雄』という部分に惹かれ、飛びついてきただけだというのに。

((……そのせいで……。私はあっという間に、全てを失った……))

『アリアル、愛してる。ずっと大切にするよ!』
『エッジ、私も愛してるっ。ずっと大切にしてねっ!』
 私達はお互いに愛し合っていて、あの日大好きだった人を失った。

『なんてことだ!! 英雄の妻になれたはずだったのに……!!』
『貴女にもっと魅力があれば身分なんて関係なかったはずよ!! なんでもっと美しく育たなかったのよ!!』
『……お姉様のせいで、何もかも台無しですわ』
 最高の地位を逃したことで、お父様達は身勝手に激怒。聖女の力もない女に用はないと、家族の縁を切られて追い出された。

 私は、世界を守るために一生懸命戦ったのに……。その結果、人生が崩壊してしまったのだった。

「「「「「英雄様っ! 万歳!!」」」」」
「「「「「英雄様っ! 万歳!!」」」」」

 大衆だって、似たようなもの。
 勇者には魔王を倒せる力があるのに対し、聖女は補助をする力しかなかったからなんでしょうね。
 みんな勇者にばかり感謝をして、まるで勇者の信者。エッジが突然別の相手と婚約をしたのに誰も文句を言ってくれなくて、大喜びするだけ。
 おまけに――。

『聖女アリアルに問題があったんじゃないのか?』
『きっと、世界を救った恩を売りすぎて英雄様が呆れたのよ』

 などと勝手な推測をして、あたかも事実のように流布する始末。おかげで路頭に迷っている私に手を差し伸べてくれる人はなくって、それどころか指をさして嗤われる始末だ。

((……エッジもお父様もお母様もリナもみんなも、嫌い。大嫌い……))

 エッジは弱虫で、旅の最中はいつも励ましていたのに――。よくも裏切ったな――。
 世界のために戦ったのに――。戦わないで放っておいて、全滅すればよかったのに――。

 すっかりそんな風に思うようになってしまって。
 そんな風にばかり考える自分が、嫌になって。
 裏切りに塗れた辛い日々に耐えられなくなって。

 だから――。

 今日命を絶ち、この世に別れを告げることにしたのです。

((…………さようなら、大好きな場所。最期に来れてよかったわ))

 深くローブを被った私は涙を流しながら手を振り、ひっそりと賑々しい広場を去る。
 辛い記憶が浮かんでは消え、浮かんでは消え。
 寄り合いの馬車に乗るお金すらないから……。嫌な走馬灯を見ながら50分ほど歩き、やっと目的地である崖に辿り着いた。

「…………ようやく、楽になれる。神様、今度は人並みに幸せな人生にしてくださいね?」

 空に向かって祈りを捧げ、私は柵を乗り越え――


「アリアル待つんだ! 待ってくれ!!」


 ――乗り越えようとした、その時でした。
 急に背後から、男性の大声が響いてきたのでした。

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