大切な人のためにできること

柚木ゆず

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プロローグ リシャール・オブロズエ視点(1)

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 ――ずっと疑問だったことがある――。
 ウチことオブロズエ子爵家は、父、母、長男の俺、長女のアリス、次女マリオンの5人家族。その中で長男と長女は双子で、アリスは俺の妹なのだけれど――。そのアリスに関して、ずっと違和感を覚えていたのだった。

 違和感その1・父と母の態度。

「ふふ、こらこら。リシャール、好き嫌いはよくないぞ?」
「ちゃんと栄養を摂らないと、駄目。頑張って食べましょうね」

「マリオン、そこにニンジンが残っているぞ? ちゃんと食べよう」
「食べたくないという気持ちは分かるけど、マリオンのために言っているの。ほら、頑張って」

「こらアリス! なにをやっているんだ!」
「また残そうとして……! 食材に申し訳ないと思わないの!? 食べるまで席を立つことは許さないわよ!」

 たとえば幼い頃、それぞれが嫌いな野菜を残そうとした時。俺とマリオンには優しくするのに、アリスに対しては怒声が飛んできていた。
 父と母は『一番だらしがないから厳しくしている』『これはアリスのためにやっていること』と繰り返していたけれど、それにしてもやり過ぎだと思っていた。

 違和感その2・俺の見え方、感じ方。

 ソレらに気付き始めたのは、今から約5年前――13歳になったばかりの頃だった。

「きゃぁっ!?」
「ああもう、うるさいですわ。お兄様、お姉様、行きましょう――あっ、お姉様!?」
使用人のひとりアナ、大丈夫? どこか打ったり擦りむいたりしてない?」
「お嬢様、わざわざ申し訳ございません。わたくしめなんかのために……」
「なんか、なんて言わないで。みんな、居てくれないと困るんだから」

「……使用人なんて放っておけばいいのに。転んだくらいで死にはしませんわ」
「マリオン。相手によって心配をするしないは、よくない。間違っていると俺は思うよ」((……優しい、良い笑顔だ。つい見惚れてしまう――……。???))

 アリスの笑みを見ていたら、胸の奥がトクンとした。それが13歳の頃の出来事で、

「きゃっ!?」
「危ないっ!? アリスっ、大丈夫だったかい――わっ、ごめんよアリス!!」((……。え……?))

 15歳の初夏、階段で足を踏み外してしまったアリスを咄嗟に抱き留めた時のこと。その際に肋骨付近を押さえてしまっていたと気付いた俺は、狼狽えながら離れて謝った。

((……アリスは、妹なんだぞ……? 場所が場所だったとはいえ、なんでそこまで焦るんだ……? ………………なにか、おかしくないか……?))

 13歳の頃の――13歳の頃から今なお続く違和感もあって訝しむようになり、今思えばそれは最高の判断だった。父と母だけではなくて祖父母も何かを隠しているのではないか? そう思い、家族はもちろん親族にさえも悟られないようにしながらアリスについて調べ始めたのだった。
 ……そして……。1年と6か月かけて調査をした、その結果……。
 信じられない情報を、2つ手に入れてしまうのだった。

((……アリスは、双子の妹じゃない……))

 父ピエールと母シャンタルの子どもは、俺とマリオン。アリスは、父の浮気相手――母の実家に仕える使用人との間に生まれた、俺が生まれた2週間後に生まれた異母妹だったのだ。

((………………))

 ずっと双子だと思っていた人が、双子ではなく更には血のつながりが半分ない人だった。しばらく言葉を失う程の、衝撃だった。
 だけど……。
 そのショックはすぐに、同時に入手したもう一つの情報によってかき消されることとなるのだった。

((浮気相手の子を実子にしているなんて、妙だと思っていたんだ……。そういうこと、だったのか……))

 父と母が偽装している理由、それは――


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