28 / 28
エピローグその2 1年後 リシャール視点
しおりを挟む
「ミネット、ただいま」
「お帰りなさい、リシャールお兄様。いかがでしたか?」
「うん、快諾していただけたよ。ウチの商会とあちらの商会で手を組み、運営していくことになった」
一生記憶に残り続ける再会があった日から、一年後。あれから365日という歳月が経っても、慌ただしい日々は続いていた。
――当主と当主夫人、会頭と副会頭――。
2人分、計4つの席が空となり、『当主』と『会頭』は新たに俺が務めることとなった。
母や父を罰するということは、両者が所有する地位は空白になるということ。
そのため以前から当主兼会頭としてやっていけるよう勉強に励んでおり、独り立ちできる実力は身に着けてある。とはいえ全部を担うのはなかなかに大変で、今日も朝から晩までせっせと走り回っていた。
「おめでとうございます。そして、いつもわたし達のためにありがとうございます」
「どういたしまして。でもそれが当主であり会頭としての務めで、自分で選んだ毎日。いつも言っているけど、辛いとはまったく感じてはいないよ」
もし俺が気付けなかったら、このお屋敷には今も母と父とマリオンがいて、ミネットはいなかった。俺が当主と会頭になれているのは最高の未来で、『理想』の中を進めているのだから苦痛は微塵も感じない。
それに――
「それにもうすぐ、優秀な副会頭さんが誕生する。ますます辛さとは無縁になるよ」
『お兄様。わたしをお兄様の右腕にしてください!』
それは今から1年前、奇跡の再会から1週間後のことだった。ミネットからそんな提案があり、その日からミネットは猛勉強を始めた。
朝も昼も夜も。一生懸命商会であり商売に関する知識を蓄え、ついには客観的に見て相応しいと明言できる実力を手に入れて――。来月の就任式を経て、商会のナンバー2となることが決まったのだ。
「やっと、お兄様のお手伝いをできます。本当に嬉しいです。それに……」
「うん、俺もだよ。こんなことを言うと、領民やスタッフに怒られそうだけれど。今までよりも一緒にいられる時間が増えて、嬉しいよ」
『……優しい、良い笑顔だ。つい見惚れてしまう――……。???』
13歳から感じるようになった、不思議な感覚。あれは俺の中にある『他人』の部分が反応した、好き、異性に対する感情だった。
俺は、ミネットに恋をしていたのだった。
『大事な話がある。俺は君を家族として好きであり、ひとりの女性としても好きになっていたらしい』
『……お兄様……。わたっ、わたしもです! ずっと、そうでした! 優しくて格好いいお兄様が、ずっと大好きでした!』
しかもそれは、ミネットも一緒。俺達は互いに同じ感情を抱いていたのだった。
とはいえ。
父という共通の血が流れている以上れっきとした兄妹で、法律上肉親とは結婚できない。なので、夫婦になることは無理なのだけれど――
『俺達はお互いずっと双子だと思っていて、他の人とは違う生き方をしてきた。ならこれから先も、違う生き方をしてもいいかもしれないよね』
『っ! 思いますっ。そう思います……っ! ずっと、お傍に居させてください』
『俺も、ずっと傍に居たい。これからも一緒に歩いていこうね』
――同じ時を過ごすことはできる。
だからこの先お互い結婚や交際はせず、いつまでもこの関係を、続けていこうと決めたのだった。
「一緒にいる時間が増えるのなら、一緒にできることも増える。これからも楽しい毎日にしていこうね」
「はい、していきましょうっ。お兄様、これからもよろしくお願いしますっ!」
十人十色という言葉があるのだから、人生だって十色でいいと思う。
人と形は違っても、それと同じくらい、ううん。それ以上に、幸せな毎日を過ごせるように。
ミア―ネットさんにお会いした時に、最高の報告を一緒にできるように。
これからも精一杯、大切な家族を守っていこう。
「お帰りなさい、リシャールお兄様。いかがでしたか?」
「うん、快諾していただけたよ。ウチの商会とあちらの商会で手を組み、運営していくことになった」
一生記憶に残り続ける再会があった日から、一年後。あれから365日という歳月が経っても、慌ただしい日々は続いていた。
――当主と当主夫人、会頭と副会頭――。
2人分、計4つの席が空となり、『当主』と『会頭』は新たに俺が務めることとなった。
母や父を罰するということは、両者が所有する地位は空白になるということ。
そのため以前から当主兼会頭としてやっていけるよう勉強に励んでおり、独り立ちできる実力は身に着けてある。とはいえ全部を担うのはなかなかに大変で、今日も朝から晩までせっせと走り回っていた。
「おめでとうございます。そして、いつもわたし達のためにありがとうございます」
「どういたしまして。でもそれが当主であり会頭としての務めで、自分で選んだ毎日。いつも言っているけど、辛いとはまったく感じてはいないよ」
もし俺が気付けなかったら、このお屋敷には今も母と父とマリオンがいて、ミネットはいなかった。俺が当主と会頭になれているのは最高の未来で、『理想』の中を進めているのだから苦痛は微塵も感じない。
それに――
「それにもうすぐ、優秀な副会頭さんが誕生する。ますます辛さとは無縁になるよ」
『お兄様。わたしをお兄様の右腕にしてください!』
それは今から1年前、奇跡の再会から1週間後のことだった。ミネットからそんな提案があり、その日からミネットは猛勉強を始めた。
朝も昼も夜も。一生懸命商会であり商売に関する知識を蓄え、ついには客観的に見て相応しいと明言できる実力を手に入れて――。来月の就任式を経て、商会のナンバー2となることが決まったのだ。
「やっと、お兄様のお手伝いをできます。本当に嬉しいです。それに……」
「うん、俺もだよ。こんなことを言うと、領民やスタッフに怒られそうだけれど。今までよりも一緒にいられる時間が増えて、嬉しいよ」
『……優しい、良い笑顔だ。つい見惚れてしまう――……。???』
13歳から感じるようになった、不思議な感覚。あれは俺の中にある『他人』の部分が反応した、好き、異性に対する感情だった。
俺は、ミネットに恋をしていたのだった。
『大事な話がある。俺は君を家族として好きであり、ひとりの女性としても好きになっていたらしい』
『……お兄様……。わたっ、わたしもです! ずっと、そうでした! 優しくて格好いいお兄様が、ずっと大好きでした!』
しかもそれは、ミネットも一緒。俺達は互いに同じ感情を抱いていたのだった。
とはいえ。
父という共通の血が流れている以上れっきとした兄妹で、法律上肉親とは結婚できない。なので、夫婦になることは無理なのだけれど――
『俺達はお互いずっと双子だと思っていて、他の人とは違う生き方をしてきた。ならこれから先も、違う生き方をしてもいいかもしれないよね』
『っ! 思いますっ。そう思います……っ! ずっと、お傍に居させてください』
『俺も、ずっと傍に居たい。これからも一緒に歩いていこうね』
――同じ時を過ごすことはできる。
だからこの先お互い結婚や交際はせず、いつまでもこの関係を、続けていこうと決めたのだった。
「一緒にいる時間が増えるのなら、一緒にできることも増える。これからも楽しい毎日にしていこうね」
「はい、していきましょうっ。お兄様、これからもよろしくお願いしますっ!」
十人十色という言葉があるのだから、人生だって十色でいいと思う。
人と形は違っても、それと同じくらい、ううん。それ以上に、幸せな毎日を過ごせるように。
ミア―ネットさんにお会いした時に、最高の報告を一緒にできるように。
これからも精一杯、大切な家族を守っていこう。
30
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる
風見ゆうみ
恋愛
元伯爵令嬢だった私、ビアラ・ミゼライトにはホーリル・フェルナンディという子爵令息の婚約者がいる。とある事情で両親を亡くした私は、フェルナンディ子爵家から支援を受けて、貴族が多く通う学園ではあるけれど、成績次第では平民でも通える学園に通っていた。
ある日、ホーリルから呼び出された私は、彼から婚約を破棄し学費や寮費援助を打ち切ると告げられてしまう。
しかも、彼の新しいお相手は私の腐れ縁の相手、ディラン・ミーグス公爵令息の婚約者だった。
その場に居たミーグスと私は婚約破棄を了承する。でも、馬鹿な元婚約者たちが相手では、それだけで終わるはずもなかった――
※完結保証です。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。
※誤字脱字など見直して気をつけているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです
【完結】さっさと婚約破棄が皆のお望みです
井名可乃子
恋愛
年頃のセレーナに降って湧いた縁談を周囲は歓迎しなかった。引く手あまたの伯爵がなぜ見ず知らずの子爵令嬢に求婚の手紙を書いたのか。幼い頃から番犬のように傍を離れない年上の幼馴染アンドリューがこの結婚を認めるはずもなかった。
「婚約破棄されてこい」
セレーナは未来の夫を試す為に自らフラれにいくという、アンドリューの世にも馬鹿げた作戦を遂行することとなる。子爵家の一人娘なんだからと屁理屈を並べながら伯爵に敵意丸出しの幼馴染に、呆れながらも内心ほっとしたのがセレーナの本音だった。
伯爵家との婚約発表の日を迎えても二人の関係は変わらないはずだった。アンドリューに寄り添う知らない女性を見るまでは……。
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
王子様の花嫁選抜
ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。
花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。
花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる