大切な人のためにできること

柚木ゆず

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エピローグその2 1年後 リシャール視点

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「ミネット、ただいま」
「お帰りなさい、リシャールお兄様。いかがでしたか?」
「うん、快諾していただけたよ。ウチの商会とあちらの商会で手を組み、運営していくことになった」

 一生記憶に残り続ける再会があった日から、一年後。あれから365日という歳月が経っても、慌ただしい日々は続いていた。

 ――当主と当主夫人、会頭と副会頭――。

 2人分、計4つの席が空となり、『当主』と『会頭』は新たに俺が務めることとなった。
 母や父を罰するということは、両者が所有する地位は空白になるということ。
 そのため以前から当主兼会頭としてやっていけるよう勉強に励んでおり、独り立ちできる実力は身に着けてある。とはいえ全部を担うのはなかなかに大変で、今日も朝から晩までせっせと走り回っていた。

「おめでとうございます。そして、いつもわたし達のためにありがとうございます」
「どういたしまして。でもそれが当主であり会頭としての務めで、自分で選んだ毎日。いつも言っているけど、辛いとはまったく感じてはいないよ」

 もし俺が気付けなかったら、このお屋敷には今も母と父とマリオンがいて、ミネットはいなかった。俺が当主と会頭になれているのは最高の未来で、『理想』の中を進めているのだから苦痛は微塵も感じない。
 それに――

「それにもうすぐ、優秀な副会頭さんが誕生する。ますます辛さとは無縁になるよ」

『お兄様。わたしをお兄様の右腕にしてください!』

 それは今から1年前、奇跡の再会から1週間後のことだった。ミネットからそんな提案があり、その日からミネットは猛勉強を始めた。
 朝も昼も夜も。一生懸命商会であり商売に関する知識を蓄え、ついには客観的に見て相応しいと明言できる実力を手に入れて――。来月の就任式を経て、商会のナンバー2となることが決まったのだ。

「やっと、お兄様のお手伝いをできます。本当に嬉しいです。それに……」
「うん、俺もだよ。こんなことを言うと、領民やスタッフに怒られそうだけれど。今までよりも一緒にいられる時間が増えて、嬉しいよ」

『……優しい、良い笑顔だ。つい見惚れてしまう――……。???』

 13歳から感じるようになった、不思議な感覚。あれは俺の中にある『他人』の部分が反応した、好き、異性に対する感情だった。
 俺は、ミネットに恋をしていたのだった。

『大事な話がある。俺は君を家族として好きであり、ひとりの女性としても好きになっていたらしい』
『……お兄様……。わたっ、わたしもです! ずっと、そうでした! 優しくて格好いいお兄様が、ずっと大好きでした!』

 しかもそれは、ミネットも一緒。俺達は互いに同じ感情を抱いていたのだった。
 とはいえ。
 父という共通の血が流れている以上れっきとした兄妹で、法律上肉親とは結婚できない。なので、夫婦になることは無理なのだけれど――

『俺達はお互いずっと双子だと思っていて、他の人とは違う生き方をしてきた。ならこれから先も、違う生き方をしてもいいかもしれないよね』
『っ! 思いますっ。そう思います……っ! ずっと、お傍に居させてください』
『俺も、ずっと傍に居たい。これからも一緒に歩いていこうね』

 ――同じ時を過ごすことはできる。
 だからこの先お互い結婚や交際はせず、いつまでもこの関係を、続けていこうと決めたのだった。

「一緒にいる時間が増えるのなら、一緒にできることも増える。これからも楽しい毎日にしていこうね」
「はい、していきましょうっ。お兄様、これからもよろしくお願いしますっ!」




 十人十色という言葉があるのだから、人生だって十色でいいと思う。
 人と形は違っても、それと同じくらい、ううん。それ以上に、幸せな毎日を過ごせるように。
 ミア―ネットさんにお会いした時に、最高の報告を一緒にできるように。
 これからも精一杯、大切な家族・・を守っていこう。
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